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9 チュートリアル

「気圧魔法についてご理解いただけました?」と巫女は聞いてきた。


 いやいや、その掲示板に書かれている内容、2回ほど熟読したけれど、内容に関して全く理解ができない。だって、それっぽいようなことが書かれているけれども、荒唐無稽だし、正直、親切心は伝わってくるものの胡散臭いし。結界を張るなんて仕事、神社の神主さんじゃあるまいしさ、なんてことを思う。


「理解できない部分が多いわね」なんて答える。正確には、まったく内容が理解できなかったのだけけれど、少し見栄を張る。



「そうでしょう。そうでしょう。でも、モニカさんは、魔法の奥深さを分かったようですね。未だ、魔法の深淵の底を見た者はいないのです」と、どや顔の巫女さん。


「そうね。恐れ入ったわ。それでもう私は魔法を使えるの? 実際に使って見た方が、分かりやすいし、早いんじゃない?」


「いきなり使ってみても大丈夫ですよ。でも意外です。モニカさんって、理屈から入る人だと思っていました。全体を把握してから仕事に取りかかるタイプな人かと思ってました」と巫女は言う。


「それは時と場合によるわよ。キーを差し込んでエンジンを付け、アクセル踏めば車が何故加速するのかとか、電子レンジに弁当入れてスイッチ押せばなぜ温まるのかとか、理解してから使おうとする人って少ないでしょ? 魔法ってそれらと同じ類いのものだと思うのよね」


「全然、別物だと思いますけどね……。では早速、実践といきましょう。使い方を説明します。モニカさん、『体内気圧計』『気圧視認』と声に出すか念じるかしてみてください」


「『体内気圧計』と『気圧視認』。なんだかめんどくさいわね。それに、なにも起きないじゃない。頭痛もまだ続いているわよ」


「変化がないですか……。おかしいですね。いま、取扱説明書上では、モニカさんは精密機器並に自分の周りを感じることができるはずなんですが…… モニカさんって、センスがないのかもしれませんね?」と巫女は、荷馬車に乗せられて売られていくロバを送り出す少年のような目で私を見た。


「練習が必要とか、コツがあったりしないの? そもそもスキルって何よ。どうせ、『自転車に乗れる』っていうスキルを取得したとしても、自転車に乗ったことがない人がいきなり乗れるようになるってような便利なものではないんでしょう?」


「え? その場合だと、一発で乗れるようになれますよ。もちろん、補助輪もなしで。手放し運転も、いけちゃうかな」


「嘘でしょ?」と私は思わず大きい声を出してしまった。


「本当ですよ。私、嘘をついたことありませんし。モニカさん、頑張ってください。具体的にイメージとすればいけるんじゃないですか?」と巫女は言う。私を間違って神隠ししてしまい、それを誤魔化そうとこの場に私を召喚した人が、「嘘ついたことがない」なんて言うのが、そもそも嘘なのだと思うのだけど、そこは触れないでおく。


「圧力計って言われてもねぇ。温度計みたいな形だったかしら」と頭の中で計器をイメージすると、本当に視界の中にメーターらしきものが浮かんできた。


「あっ、見えたわ。980hPaって書いてあるわ……。低いわね。たぶんこれが体内圧力計だと思うわ。残りの圧力視認っていうのは、よく分からないのだけど」


「あっ、ちょっと待ってください。取扱説明書を読んでみますね。圧力視認の項目っと……」と巫女は言って、眉間にまた皺を寄せる。あなたもスキルの内容、把握してなかったのね、と私は心の中でため息をつく。


「ああ、分かりました。このチュートリアル部屋、気圧が一定だからモニカさんが実感しにくいんです。ちょっと移動してもらいますね」と巫女はいって、さっと両手を挙げる。


 次の瞬間、私は草原の中にいた。太陽の方角に街が見える。


「モニカさーん。聞こえますか?」と頭の中で巫女の声が響く。


「聞こえるわよ。あなた、いまどこにいるの? 頭の中から声が響いて、頭痛がひどくなったのだけど」と私は不満を言った。


「私はチュートリアル部屋からでれませんので、貴女に声だけをお届けします。ちなみに、私と会話できる『巫女巫女ホットライン』というスキルをモニカさんは新たに取得しましたよ。後で確認してみてくださいね。週に1回限定なんですが、私とお話ができるという癒やし系スキルですよぉ。さて、モニカさん、景色が青っぽかったり、赤っぽかったりするところが見えませんか?」


 私は、辺りを見回す。遠くの山々が白化粧していた。そして山の尾根が、空の青さではない色で青味がかって見える。青色の色眼鏡でそこだけ覗いたみたいだ。


「あ、何となく分かったわ。もしかして、低気圧が青色とか、高気圧が赤色とか、気圧を色で見分けることができるということ? それが気圧視認?」と私は聞く。あぁ、だから、気圧の視認なのかと少しだけ納得をする。


「その通りです。巫女巫女ホットラインの通話時間も限られているので、すこし早足で説明していきますねさて、モニカさん、『スキル全解放』と声に出すか念じて、次は周囲に結界を張ってください」


「えっと、『スキル全解放』。そして、結界ね。結界。って、結界って何? しめ縄で囲まれた空間のことだっけ? 神社の禁足地とかに張られているやつ?」と私は当然の疑問を巫女に質問する。


「あの、モニカさん? 本気で言ってます? 冗談にしては笑えないのですが。それに、時間も限られてきているので、真面目に取り組んでくださいよ」と巫女が不満げに言う。


「いや、本当に分からないから聞いているのよ」と私は反論する。


「まぁいいです。時間がないので、そういうことにしておきますね。モニカさん自身の周りを、目に見えない何かで覆うイメージをしてみてください」


「周りを覆うイメージね。って、どんな形で覆えばいいの? ピラミッドみたいな形でいいの? 球体? 四角形?」と私は聞く。


「あの……。その辺りはモニカさんが自由に決めてください。モニカさんって、変な所で細かいですね。そんなことだから……」


「そんなことだから何よ? 何が言いたいのよ?」と私は聞いた。


「いえ、なんでもないです。イメージできました?」と巫女は言う。


「できたわ。なんか私の周りに何か見えない壁ができているように感じるわ。でも、地面の下にもその壁があるのを感じるのは違和感あるわね」と私は首を傾げる。船から地上に降りた後、なんとなくまだ地面が揺れているような感覚で、あまり気持ちのいいものではない。


「そのうち慣れますよ。さて、その結界内の気圧を高めるイメージをしていってください。モニカさんの頭痛が止む気圧に調整できる筈です」と巫女はいう。


「いや、気圧を上げるイメージって言われても。圧縮するイメージかしら?」と私が圧縮のイメージをすると、結界が少しだけ縮んだ。しかし、視界の中に浮かんでいる気圧計の針に変化はない。


「ん? 気圧計に変化がないのだけど? 結界が狭まっただけよ?」と私は巫女に聞く。


「あ、モニカさん、それは結界術の範囲を狭くしただけでね。えっと、気圧を高めるのは、スキルではなくて、魔法の方を使います。『転移魔法』と声に出すか念じながら、気圧が上がるイメージをしてみてください」と巫女は言う。


「あ、分かったわ。『転移魔法』『気圧よ上がれ〜』」と、私は言う。


 『気圧よ上がれ〜』って、自分で言っていて恥ずかしいわ!


 でも、気圧計の針が動き始めた。私は、ちょうど1023hPaで上昇をストップさせる。


「あ、なんか出来たみたいよ」と私は言う。


「おめでとうございます。これでモニカさんは、台風が来ようが、低気圧前線が来ようが、モニカさんの周りの気圧は常に一定です。『魔法自動追尾』がついていますので、モニカさんが移動と連動して結界が動くので自由に動き回っても大丈夫です。『魔法自動継続』によって、モニカさんが意識しなくてもずっと魔法は続いているのでご安心を。一応、『ステータス画面』を見ていただいてよろしいですか?」と巫女は早口で喋る。


『ステータス画面』と私は念じる。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

名前:モニカ

レベル:1

職業:会社員(経理)

魔法属性:転移魔法

体力:30

魔力:499⇄500 

スキル:普通自動車免許 (ON)

    日本商工会議所簿記検定1級 (ON)

    魔力自動回復・強 (ON)

    魔法自動追尾 (ON)

    魔法持久力・強 (ON)

    魔法自動継続 (ON)

    無媒体結界術 (ON)

    空間把握能力・強 (ON)

    距離感・強 (ON)

    体内気圧計 (ON)

    気圧視認   (ON)

    巫女巫女ホットライン(使用不可:7日後に再使用可能) (NEW)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「魔力の数値って、今どのようになってます?」と巫女が聞いてきた。


「魔力の数字は、たまに499に落ちるけれど、すぐに500に戻るわよ。何これ?」と私は聞く。


「モニカさんの周りの気圧を一定にするためにモニカさん自身の魔力を消費しているのです。ですが、『魔法持久力・強』で、魔法を使い続けることによるペナルティーをほぼ無効化してますし、『魔力自動回復・強』で魔力もすぐ回復します。ですので、499に落ちてもすぐに上限の500に回復しているんです」と巫女が説明した。


「なるほどね。常時給油しているから無くならなし、燃料切れの心配はないってことね。よかったわ。これで低気圧に悩まされなくて済むわ。頭痛も治まってきたし、快適に過ごせそうね」


「それは何よりでした。では、そろそろ時間なので、これにて失礼します。モニカさん、頑張ってこの世界で生き延びてくださいね。まずは、そこから見える街を目指されることをお薦めします」


「わかったわ。冒険者ギルドってところに行って、仕事を探せばいいんでしょ?」


「その通りです。冒険者ギルドで宿泊施設なども斡旋してくれます。また、その他必要なことも、ギルドで聞けばいろいろ教えて貰えるはずです」


「分かったわ。貴女もはやく、魔王ってのを倒す人を探してね」と私は巫女に釘を刺しておく。


「もちろんです。困ったことがあったら、巫女巫女ホットラインで連絡をください。次は最短で7日後にお話できるはずです。あ、そろそろ時間ですので、最後にモニカさんにアドバイスを一つ申し上げます」


「あら、アドバイス?」と私は聞く。


「モニカさんのその服装、街ではかなり浮く格好となりますので、早めにこの世界の服に着替えられたほうがいいです。服屋も冒険者ギルドで教えて貰えるはずです」と巫女は言った。


「そうなの? これ普通のビジネススーツよ?」と私は言う。


「それが問題なんです。あ、時間です。それではまた来週〜」と巫女が言うと、電話を切ったような音が頭に響いた。

 スーツ姿で浮くって……。たしかに、工場にスーツで行くと周りは作業着の人ばかりだから、浮くということはあるけどね。でも街でスーツで浮くって、何を言っているのかしら。最後まで意味が分からない子だったわね……。


 さて、街まで散歩しますか。どれくらいの距離があるのかしらと思いながら街を眺めると、視界に8.7㎞と浮かんで来た。あ、これが『距離感・強』って事なのかしら、と思いながら私は街へと歩き出した。

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