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61 魔王討伐、そして……

 掃除機で吸ったはずの砂が、何処かへ行ってしまった。掃除機で吸ったものだし、所詮はゴミだし、何処かへ行ってしまうのは私としても困ることではないのだけれど、どうも目覚めが悪いというか、気になる。何か、大事なことを見落としているのではないかと不安になる。

 ターシャちゃんが掃除をちゃんとできたのだから、砂を私の自作掃除機が吸っているということは間違いないだろう。

 冷静に考えてみると、サイクロプスを倒した時や、魔王討伐の際に水晶石の所でネズミで実験した時も、狼を殺しちゃった時も、物理的に説明はできるのだけど、何かを見落としている気がする。以前、マカイラスさんとトクソさんと気圧魔法の分析をしたところ、3つの段階があるということは分かった。

 1つ目が窒息させる。2つ目が血液を沸騰させる。最後の3つ目が凍らせるということだった。1つ目は、私の気圧魔法で気圧が下がって、おそらく真空状態に近い状態になって、生物は窒息するということで間違いないだろう。

 2つ目は、真空状態になったことにより液体の沸点が下がる。それによって、40°くらいの血液でも沸騰する。液体から気体へと体積が急増することによって、体から血が吹き出たり、眼球が飛び出たり、脳みそが飛び出して来たり、皮膚がぐちゃぐちゃになったりしていたというわけだ。

 3つ目は、沸騰して液体が気体となっていく際の、気化熱によって、体表が凍るということだ。ネズミの体毛が、霜が降りたようになっていたのは気化熱によって、熱が奪われたことが原因だ。


 この整理で間違っていないはずである。けれど、何か見落としがあるように思う。掃除機で吸った砂が、箱の中から消えているという現象の説明ができない。

 

 私の会社の作っている、ドライフルーツとかインスタントラーメンの加薬を作る際に使う、真空凍結乾燥装置ではどうやっていたかを思い出す。どうしても、「当社の真空凍結乾燥装置は、沸点をー62°(まいなすろくじゅうにど)まで下げることなんて、無理だと思うでしょう。しかし、可能なんです。無理(む・にー)じゃないんです」という、部長さんの親父ギャグをまた思い出してしまったけれど、それは今回関係ないだろう。

 新人研修で一回話を聞いただけで細かいことを覚えていないけど、私は必死に真空凍結乾燥装置の仕組みを思い出す。たしか、真空室と呼ばれる部屋に、ドライフルーツを入れるのだった。おそらく、私の気圧魔法では、結界が真空室の役割を果たしているのだと思う。そして、真空ポンプなどの排気装置で、真空室の空気を外に吸出していくことによって、気圧を下げ、真空状態を作り出していたはずだ。真空状態を作り出す、排気装置の役割を果たしているのが、気圧魔法なはずだ。

 あれ? でも、真空凍結乾燥装置の排気装置って、ずっと動かしっぱなしじゃなかったかしら。

 私の魔法の1つ目の段階になるのは問題ない。しかし、2つ目の段階と3つ目の段階で、液体が蒸発していき、結界内に作り出された真空を埋めていっているはずだ。私の気圧魔法で結界内を真空にしたとしても、蒸発した水分がその空白を埋めるはず……。つまりは、結界内の排気をしていないと、真空状態は維持されないということだ。

 そもそも、私の気圧魔法は、どうやって結界内に元々入っていた空気を排気しているかということだ。どうやって真空状態にしているか、言葉を換えれば、結界内にもともと存在した空気はどこへ行ったのかということであろう。また、真空状態になった後も、蒸発した蒸気などが何処へ消えていしまっているのか。その答えが、掃除機の中の砂が消えた理由に結びつくのだと思う。

 もちろん、答えは魔法でそうやっています、摩訶不思議なんです、というのが最もシンプルな説明なのだけれど、それでは問屋が卸さない。

 でも、考えても分からない……。しょうがないわね。なんか悔しいけれど、巫女に聞くしかないわね。


 前回、巫女巫女ホットラインを使ってから1週間以上たっているし。私は巫女巫女ホットラインのスキルを使う。ぷるるるる、という音が頭に響き始めた。


「はい。巫女です。モニカさん、こんにちは~」と、巫女が言う。


「こんにちは。ちょっと聞きたいことができたから、連絡したんだけど、今、大丈夫?」と私は巫女に尋ねる。


「はい、なんでしょう。私の分かることだったら何でも答えますよ」と巫女が言った。この巫女が分かることなんて、たかが知れているでしょうけどね、なんて心の中で思ったのは内緒だ。


 私は、気圧魔法は、どうやって結界内に元々入っていた空気を排気しているか、結界内をどうやって真空状態にしているかを巫女に尋ねる。


「ふふふ。モニカさん、それは簡単ですよ。それはですね……」と巫女は言う。


 巫女がなかなか言わないから、「それは?」と私は聞く。巫女のくせに、もったいぶるなんて生意気ね、なんて心の中で舌打ちをする。


「魔法だからです!」と巫女は自信満々に答えた。


 やっぱりこの巫女に聞いたのが私の間違いだったようだ……。


「へぇ、そうなんだ。わかったわ。じゃあ、用事が済んだから、もう切るわね」と、私は、巫女巫女ホットラインを切ろうとした。


「ちょっと待ってください」と、巫女が慌てた声が聞こえた。


「え? 何かまだあるの?」と私は言う。あなたと話すと疲れるから早く会話を終わらせたいのよね、と心の中で思っても口には出さない。


「巫女巫女ミュニケーションの質問掲示板に、モニカさんのスキルの一覧と質問内容を載せたので、直ぐに回答が来ると思います。ちょっと私と雑談をしながら待ってみてください」と、巫女は言った。


「はぁ。あの掲示板ね。あなたも結局分からなかったってことじゃないの」と私は呆れた。


「まぁ、そういうことです。でも、魔法だからという答えで大きく外れてはいないと思いますよ」と巫女は言った。


「それはそうでしょうけど…… あなたのさっきの答えって、ここはどこですか? という質問に、地球です、とか、日本です、とか答えるようなものよ? 大雑把な答え過ぎて、意味がないわ」と私は言った。


「そ、そうですか……。あっ、回答が来ました。あぁ、なるほどなるほど、そういうことですね。一番分かりやすい回答を読み上げますね。『魔法属性が転移魔法だからでしょ。結界内の物質を、どこかへ転移させているからに決まっているだろうがぁ。そんな当たり前のことをいちいち聞くな』だそうです」と、巫女は言った。


「魔法属性が転移魔法? あぁ、そういえば、そうだわね。魔法属性という欄に、気圧魔法じゃなくて、転移魔法と書かれているけど、大丈夫? 間違っていない? みたいな会話をあなたとした記憶があるわ。それで、だから何なの?」と私は答える。

念のためにステータス画面を確認してみても、魔法属性は、転移魔法だった。


「つまり、結界の中にあった空気を、モニカさんは転移魔法でどっかに飛ばしていたということです。瞬間移動させた、と言えば分かりますか?」と巫女は言った。


「瞬間移動ね。ああ、なんとなく分かったわ。それなら、説明がつくわね。結界の中の酸素分子や窒素や水分を、結界の外に移動させていたというわけね。なるほどねぇ。それなら掃除機で吸い取った砂も、箱の中になかったということに納得ができるわ」と私は言った。


「掃除機で吸い取った砂? なんの話ですか?」と巫女が尋ねるが、説明するのが面倒なのでその話は打ち切る。


「それにしても、そうならそうと最初から説明してよね。どうして、気圧魔法だとか、そんな回りくどいことになっているのよ」と私は巫女に文句を言う。


「えー! 私のせいですか? だって、モニカさんが、低気圧になると頭痛がする体質で、それをなんとかする魔法を使えるようになりたいなんていう面倒な注文をしたからじゃないですか!! 面倒臭い女って良く言われているだけのことはありますよ!」と、巫女が反論をしてきた。


「面倒臭い女って! あんた言って良いことと悪いことがあるのよ! 思い返せば、あんたの説明が悪いのがいけないんでしょうが! 『モニカさんは、転移魔法が使えます。転移魔法は、物質を離れた場所に移動することができます。低気圧が来た際には、モニカさんの周りに、空気成分を転移させれば、モニカさんの周りは気圧が高くなり、低気圧になるのを防げます。それによって、頭痛も防げます』、とか言ってくれた方がよっぽど分かりやすいわよ。 そういえば、気圧魔法って名前、あなたが付けた名前じゃなかったかしら? 気圧魔法って何よ。ネーミングのセンスがないのが丸分かりよ! それに、前から言おうと思っていたけど、巫女巫女ミュニケーションって言うのもセンス無さ過ぎよ。巫女とコミュニケーションを掛けているつもりなの? あなた、外見は女子高生みたいだったけど、中身は親父おやじなんじゃないの?」と私も言い返す。


「そんなぁ… 気圧魔法は確かに私が付けた名前ですけど、巫女巫女ミュニケーションは、私が付けた名前じゃないです。私って、親父ですか? そんなに胸毛生えてそうですか?」と、巫女は言う。声から察するに、すでに半無き状態のようだ。言い過ぎたかも知れない。


「まぁ、過ぎたことはこの際、言いっこなしにしましょ。それで、転移魔法だと、他に何ができるの?」と私は話を変える。


「えっと、転移魔法は、その…… 転移魔法って、あれです。モニカさんも体験したと仰っていませんでしたっけ? 魔王を討伐する際に、街から魔王城の近くのセーブクリスタルってのがある場所まで転送されたとかなんとか。そんな感じの魔法です。分かりやすくいうと、テレポーテーションとかもできちゃいます」と巫女は言った。


「へぇ~。じゃあ、歩いたりしなくても言い訳ね。それって、結構便利じゃない。早くそれを教えてほしかったわ」と私は言う。


「すみません、気が利かなくて……」と巫女はしおらしく謝ってきた。


「って、ちょっと待って。転移魔法って、自分に対しても使えるのよね?」と、私は巫女に聞く。


「もちろん使えますよ?」と、巫女は事も無さそうに言った。


「じゃあさ、もしかして、私が自分に転移魔法を使って、元の世界に帰れるってことはないの?」と私は聞く。自分で帰れなら、わざわざ私を元の世界に送り返せる人を探す必要などないのではないだろうか。


「……」


「ねぇ、巫女。どうなのよ」と、黙ったままの巫女に問いかける。


「灯台下暗しとは、良く言ったものですねぇ」と、巫女が感心したような声で言った。つまり、帰れるということなのであろう。

 とりあえず、元の世界に変える前に、あの巫女の居たチュートリアル部屋に行って、巫女を懲らしめてから元の世界に帰ると、私は自分自身に誓ったのであった。

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