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58 魔王討伐、そして……

 街に帰ってからは、狼の毛皮の売却先を探しまわった。通常の品質、つまり、毛皮が傷つかないように、頭や心臓などの急所を適切に突いた、もしくは射た物で、適切に皮を剥いだのであれば冒険者ギルドが引き取ってくれるのだが、私が魔法で仕留めたような、所々皮が破けたり、水ぶくれのようになっている毛皮は、直接、職人のところへ売りに行かねばならないらしい。しかも、細切れにしか利用できない毛皮は、買い取ってくれる職人さんは少なく、ほとんどが門前払いだった。

 事情を知らない職人さんたちの「随分と、下手に仕留めたものだな」という率直な感想は、私の心の奥底を容赦なくえぐる。

 やっと、膝とお尻の当て布を探していたという衣服関係の職人さんを探し当て、2枚の毛皮が銅貨1枚で売れた。その後も、毛皮加工の職人達を尋ね回ったが、残念ながら5枚しか売却することはできなかった。次に、皮紙加工の職人へと売り込みに行ったが、穴だらけの皮なんて使い道がないとまたまた門前払いだった。

 職人さん達に断られるのに諦めずにマカイラスさんとトクソさんは、買い取ってくれそうな場所を探す。彼等の後ろを黙って歩く私には、罪悪感が積もっていく。もし、これが私への罰としてやっているなら、もう辞めてほしい。毛皮の品質の悪さを職人達から罵られ、門前払いを受ける。取り合ってくれる職人は、いたとしても容赦なく買い叩く。


「マカイラスよぉ。こんな手際の悪い毛皮なんざ、久しぶりに見たぞ。お前も狼なんざにこの様だと、老いたということか。そろそろお前も潮時なんじゃねぇか」などと、職人達から言われて苦笑しているマカイラスさんを見るのは辛かった。


 売れ残ったというか、捌ききることの出来なかった毛皮が10枚以上残ったが、とっくに日が沈んで、酒場など以外の店は閉店し始める。今日中に捌くのは無理だという結論に私達は達する。


 ・


 熱いシャワーを浴びても、体に染みついた酸化した鉄ような血の匂いは、取れるものではない。石鹸の香りの中に、巧妙に潜み、ふと油断した瞬間に薔薇の香りのように強く、凜として漂う。血塗られた手、というのは比喩ではなく、忠実な描写に過ぎなかった。

 シャワーを浴びた後、冒険者ギルドでマカイラスさん、トクソさんと討伐依頼の報告をした。「事前の依頼事項と相違がみられます。報酬を上乗せいたします」と受付の人が事務的に対応してくれるのが、うれしいような悲しいような、良くわからない感覚に私をさせた。夕食を食っていこう、というマカイラスさんの誘いを断り、私は宿に帰った。一刻も早くベッドに潜り込んで寝たかった。何も考えたくなかった。

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