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53 魔王討伐、そして……

 私は南門を抜けて、エイラトの街の城壁の外に出る。この街を一周が、大体私の一万歩となる。皇居を一周するのより長いんじゃないかなと思うくらいの距離だ。

 本当は、ランニングで一周したほうがいいのではないかと思うのだけど、息が続かない。ただ、北側の城壁のあたりは早歩きで通るようになってしまう。生理的に受け付けない、腐乱臭が北側はするのだ。サイクロプスの死体は地中に埋めたが、掘り返してしまう動物もいるし、匂いが地中から染み出しているのかもしれない。まだ太陽は地平線から顔を出していない薄暗さだし、サイクロプスを倒した張本人がふらつき歩いていると、化けて出られるかもしれないしね。


 城壁を一周し南門に変えると、広場の真ん中にある井戸で水を飲む。滑車で水を深い井戸からくみ上げるのがめんどくさいのだけれど、汲んだ水は冷たくて美味しい。軟水になれた私にとっては、この水はミネナルウォーターを飲んでいるような感じだ。


 私は、冒険者ギルドの裏に回る。すでに2人は訓練を始めていた。


「おはようございます」と私はマカイラスさんとトクソさんに声を掛ける。


「今日もちゃんと、城壁を一周してきたようだな」とマカイラスさんが言う。


「当たり前じゃないですか」と私は言う。そう、当然だ。なぜなら、朝から彼等の訓練に付き合っていたら、身が持たないのだ。反復横とびのような動作を異様な速度で30分以上続けるとか、私にはできない。映像の早送りを思わせるようなスピードで反復横とびをする様には、正直ドン引きした。土ぼこりが舞い上がるほどって、どれだけ早いのよ、って感じ。「一緒にお前もやるんだ」とマカイラスさんに言われたけど、当然拒否をした。そして、その代案として出たのが、城壁を一周するということだった。反復横とびをひたすら繰り返すのよりは、城壁のウォーキングの方が楽に決まっている。


「私は、、、、また、剣の、、、くん、、、れんを、、、しているわ」と私は言う。

 私は、人の顔を見てしゃべるようにしている。同じように、反復横とびをしている人の顔を見ながら話をしようと思うと、意外と難しかったりもする。首を左右に回しながら、会話をするのって、とても難しい。うまく言葉が紡げなかったりする。


 私は、マカイラスさんが用意してくれた剣を持ち、構える。マカイラスさんが私のために用意してくれた剣は、フェンシング競技で使うような細い剣だ。主に、刺すことを目的としていて、重い剣を振るうことが難しい人が使うものらしい。フェンシングのと違うと思う点は、刃が付いているということだ。一応、刺すだけでなく斬ることもできるけど、マカイラスさんが持っているような剣とチャンバラしたら、確実に折れるらしい。甲冑を着ている人を切りつけても、折れるらしい。はっきり言って、刃が付いているのは、私が突き刺したのをかわされた時に、その剣を掴み取られることを防ぐ意味程度しかないということ。

 それに、剣の訓練をするのは、私にとっては最後の悪あがきということらしい。


 マカイラスさん曰く、私は、魔法を使って敵を自分の近くに寄せ付けないようにする戦い方をするべきで、敵の剣が届く位置に私がいる時点で、私が倒されることはほぼ確定らしい。


「じゃあ、なんで剣の訓練をする必要があるのよ」と私がマカイラスさんに反論したら、剣を抜いて相手を威嚇し、私が倒されるまでの時間を1、2秒伸ばす為らしい。その数秒の時間があれば、マカイラスさんやトクソさんが私をカバーできる可能性がグッと上がるということだ。


「じゃあ、あなた達が倒されて、敵が私のところにやって来たらどうするのよ?」と私が聞いたら、「その時は諦めろ」とのことらしい。頼りにしていいのか、頼りにならないのか全く分からない。とりあえず、敵に近づかれたら、相手に、突きを警戒させ時間を稼げ、とのこと。そして、この話のもっとも重要なところは、実際には敵を突くな、ということだ。要は、3ヶ月程度の短い期間、私がゼロから剣を学んでも、効果的な突きを習得できる可能性はほとんどないらしい。

 よって、私が練習をするのは…… 剣の構えだけだ。敵に、鋭い突きをしてきそうだ! と思わせる構えを習得すること、それが私のこの3ヶ月間の目標である。敵の警戒を誘い、1、2秒の時間を確保するということに特化。はっきりと言ってしまえば、はったりの練習ということになる。


 私は、剣を構えた。

 

 ただ、それだけ。教えてもらったように、腰を落とし、膝もいつでも前に飛び出せるように少し曲げる。

 その体勢を維持したまま、すり足でゆっくりと移動をする。ゆっくりと言っても、スローモーション映像をさらにスローモーションしたくらいのスピードで、ゆっくりと移動する。私のこの練習を眺めるのは、月や星を眺めるのと同じようなものだと思う。普通に見ていたら、月や星は動いているということは分からない。私の動作も眺めているだけだったら、動いているのか止まっているのか分からないと思う。ふっと目を離して、また見てみたら、少し動いたな、と分かる程度。

 私の訓練を見ている方もつまらないと思うけど、やっている私からしたら、もの凄くつまらない。じっと、剣先から目線を外さず、前に、後ろに、左に、右に、という移動を延々と繰り返す。前後左右、合計10メートルくらいの移動に、30分くらいの時間をかける。


「モニカ、もう少し、左肩を下げろ。あと、そうだな」とマカイラスさんは言って、私を後ろから抱きしめるかのように、私を包み、背後から手を回す。


「右肘を地面にもっと向けるのだ。脇は、もっとこう締めろ」と言って、私の構えの動作を修正する。


「よし、こんなもんだろ」と言って、汗の香りを残して、私からそっと離れる。


「数日で、それなりに見えるようになったな。隙だらけだが、ワザと隙をつくってカウンターを狙っているように見えなくもない」とトクソさんが褒めてくれる。


「ちょっと早いかも知れないが、段差もやらせてみるか」とマカイラスさんが言う。


「良いのではないか」とトクソさんも同意する。


「段差って?」と私は構えを解いて、2人の話に参加をする。


「敵と遭遇する場所は、訓練場みたいに平坦な小石も落ちていないところとは限らない。足場が悪い場所でも同じように動けるように、階段を同じようにショートソードを構えながら移動する訓練だ」とマカイラスさんが説明してくれる。


 訓練場の脇に置いてあるアソレチックのような階段に私とマカイラスさんは移動する。


「体で覚えろよ?」と言って、先ほどよりもマカイラスさんは密着した感じとなる。もはや、後ろから抱きしめられているのと違いがない気がする。マカイラスさんの右手は私の二の腕を掴み、左手の掌は、私のおヘソに当てられている。


「右足をゆっくりと上げていくぞ」とマカイラスさんが言う。それに合わせて私はゆっくりと右足を上げる。


 どきん。


「ここで、剣先がぶれないように気をつけろ。体重は左足の踵に移動させろ。ここで腹に力を入れるんだ。

そうだ。後は、先に腰をゆっりくと右に平行に移動させていけ」と、マカイラスさんは指示を出す。私はそれに従いながら、マカイラスさんのリードに合わせてゆっくりと移動していく。

 ダンスで男性にリードされるのって、こんな感じなのかなぁと思う。私の右手に剣を持っておらず、お互いが汗まみれでなく、バックミュージックや照明があれば、シンデレラが参加した舞踏会のようなロマンティックな感じがするのじゃないだろうかと思う。

「モニカ、意識を剣先から離すな!」とマカイラスさんに注意された。私の集中が途切れたことが、どうやらマカイラスさんにはバレバレだったようだ。もしかしたら、私の心臓が、時々爆発しそうになっているのを、彼は気付いているのだろうか。

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