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51 魔王討伐、そして……

 ギルドの中にいた人は、私達が戻ってきたことに驚いているようだ。静まりかえったギルド内を、私は進み、受付にギルドカードを渡す。


「お待たせしました。魔王討伐の確認が取れました。報酬は、金貨1億枚になります。なお、この依頼は仲介手数料無料です。報酬は、ギルドカードへの入金で宜しいですか?」と受付の男が淡淡と言う。


 もうちょっと彼には驚いて欲しかったけれど、サイクロプスの件もあるし、私達が生きて帰ってきたという時点で、彼にとって魔王討伐は予想できた結果なのだろう。受付の人の言葉を聞いた、後ろの人達が驚きと歓声の声を上げている。いやいや、魔王を倒しちゃったら、あなた達、今日から失業なんじゃないの? 喜んでいる場合なの? と突っ込みを入れたいけれど、水を差すのも悪い気がする。


「それでお願いします」と私は言う。


 それにしても、金貨1億枚って凄い。数えるのが大変だ。というか、持ち運びできない量だろう。それに、もし私がこの人に、現物で報酬を払ってください、と言ったらどうなるのだろうか。金貨1億枚なんて、そうそう用意できるものではないだろうに。金貨1億枚は大金だ。普通に暮らせば、10日で金貨1枚使う計算だから、10億日、270万年くらい遊んで暮らせちゃう金額だわね。


 私は、受付から離れ「金貨1億枚だって。私達お金持ちになっちゃったわね」と私の後ろに立っていたマカイラスさんとトクソさんに言う。おそらく私は、宝くじの1等を当選した人と同じ笑顔をしているだろう。


「おいおい、竜滅者(ドラゴンスレイヤー)の居場所を聞くのを忘れていないか?」とトクソさんが言う。あ、そんなことをマカイラスさんとトクソさんが言っていたのを思い出した。


「あ、そうだったわね。でも、誰に聞くの? それよりも先に、あなた達も魔王を倒した賞金をもらったら?」と私は言う。


「俺達は報酬は貰えないぞ? お前とパーティー登録を正式にした訳でもなかったしな」とマカイラスさんが言う。


「え? それぞれ貰えるものじゃないの? 金貨1億枚」と私は言った。


「どういう計算をしたらそうなるんだ。1人で倒そうが、複数で倒そうが、懸かっている報酬しか貰えないぞ」とマカイラスさんが呆れた顔して言う。


「いや、3人で行ったんだし。私が貰えるなら、あなた達ももらえるのかなって思っただけなんだけど……」


「いや、そんなに王国側も太っ腹じゃねえなぁ。そうだな、今後一緒に旅をするんだから、パーティー登録を正式にしておくか?」とマカイラスさんが言う。

 魔王討伐で強制的に森に送られる前にも、パーティーに誘われていた。危険な所に行きたくないけど、私を元の世界に送り返せる人を探す関係上、旅は必須になるだろう。


「よろしくお願いします」と、私は頭を下げた。


「よし、じゃあさっさと手続き済ましちまおう。俺達のパーティーは、前に話したと思うが、俺がリーダーだ。そして、メンバーはトクソ。そしてお前が加わって3人になる。金貨1億枚を持ってるお前にはあんまり意味ないかも知れないが、依頼の報酬は均等割に設定してある」とマカイラスさんが言う。


「え? でも、私、正直あまり役に立たないと思うわよ。ヨモギとかオオバコとか、採取依頼とかなら多少は役には立つと思うけど。戦うのは、はっきり言って無理」と私は断言する。


「そんなことは分かってる。だが、これはパーティーの方針だ。トクソも、報酬は均等割でいいだろ?」とマカイラスさんはトクソさんに話を振る。そして、トクソさんもそれに頷く。


「2人がいいなら、私は別に異論はないけれど」と私は言う。


「あと、知っていると思うが、パーティーに入るとお前は依頼を受けることが出来なくなる。リーダーが代表して依頼を受けることになるからな」とマカイラスさんが言った。まぁ、手持ちのお金が出来た以上、私は自分から依頼を受けるということはしないだろうから、別に問題ない。むしろ、マカイラスさんとトクソさんの2人だけのパーティーで、なんでマカイラスさんがリーダーであったのかという疑問が解けた。冒険者ギルドのパーティー登録という制度上、リーダーも必要なのだろう。


 私がギルドカードを受付に提出し、マカイラスさんが私のパーティー参加の承諾を受付に伝えた。


「これで、手続き完了だ。ようこそ、俺達のパーティーへ」とマカイラスさんが言った。


「お世話になります」と私は2人にお辞儀をする。


「さて、では、モニカを送り返す魔術師を探すとするか。おい、竜滅者(ドラゴンスレイヤー)バルドロスの居場所を知りたい」とマカイラスさんは受付に言った。


「情報料は金貨1枚になります」と受付が言うと、親指に乗せた金貨をピンと弾いた。金貨がクルクルと空中で回転する。そして、それを受付の人は掴み取る。マカイラスさんの金貨の渡し方、キザっぽいけど、なんか様になっていた。


竜滅者(ドラゴンスレイヤー)バルドロスさんは、|マグリブ(日の沈む地)にいらっしゃいます」と受付の人が、受付台の画面を見ながら言った。


「あの野郎、そんな場所にまで行っているのかよ。どれだけ執念深いんだよ」とマカイラスさんが言う。


「禁忌の土地か。流石にそこまで追いかけようという気にはなれんな」とトクソさんも言う。


「そうですね。行くなら王都にしましょう」と、私は思いっきり知ったかぶりをする。だって、日の沈む地で、禁忌の土地ってさぁ。私は、日本に帰りたい。つまり、日の本、日出ずる国に帰りたいのだ。真逆の地名に向かうのって、なんか嫌だ。それに、禁忌の土地って危ない感じだし。


「とりあえず、バルドロスは後回しだな。王都に向かうことにするぞ。それでいいか?」とマカイラスさんが言う。もちろん、私もそれに同意する。むしろ、危なそうな場所に行かなくてよかったとホッとする。王都なら、語感的には安全な気がする。だって、王国の首都という意味で、王都ということだろうし?


「異存はないようだから、王都に向かうことにする。出発は、最短で、2ヶ月後か?」とマカイラスさんが言う。

 え? 2ヶ月後? と思ったら、


「いや、詰め込むだけ詰め込んだとしても、3ヶ月後じゃないか?」とトクソさんが言う。


 え? さらに長くなった。


「不測の事態があるかも知れないからな。では、3ヶ月後に出発だ。モニカもそれでいいか?」とマカイラスさんが私に同意を求める。


「なんでそんなに期間を置くの? 」と私は率直に聞く。


「いや……。お前が、王都までの旅に耐えられるようには思えないからだが……。3ヶ月というのは、お前が半人前の冒険者になるための訓練期間だ」とマカイラスさんが言う。


「あ、え? 魔法で王都まで一っ飛び、とかじゃないの?」と私は言う。まさか、徒歩とかなの? 


「そんなはずあるか!」とマカイラスさんとトクソさんが声を合わせて叫ぶ。なんか、私が怒られた感じになった。


「まぁいい。とりあえず、お前は3ヶ月間みっちりと訓練だ。せめて、ゴブリンぐらいは魔法を使わず、1人で倒せるようになってもらうからな。剣術や体術は俺とトクソで仕込む。あとは、基礎体力ということで3ヶ月間、毎日、3万歩を必ず歩くようにしろ」とマカイラスさんが言う。


「は? 剣術とか、恐くて無理でしょ。体術とかも無理でしょ、それ。一本背負いでもしろってこと? それに、3万歩って何その具体的な数字。普通は、1万歩(いちまんぽ)歩けば健康なのよ。それに、3万歩なんて、数えられるはずがないじゃない」と、私は反発する。


「剣術と体術は、必須だ。お前の為に俺は言っている。それは分かってくれるな?」とマカイラスさんが真剣な眼で私を見る。怒っているという眼ではない。


「え、あ。うん。分かったわ」と私は頷く。私の為を思って言ってくれているということは分かった。


「あと、歩く歩数だが、別にお前が自分で数えなくてもいいんだぞ。ギルドカードの機能の中に、歩いた歩数を計測するという機能が付いている。ギルドの受付で、無料で一日の歩いた歩数を教えてくれる。万歩計という機能だ」と、マカイラスさんが言う。


「万歩計? え? そんな機能がギルドカードに付いてるの?」と私は驚く。歩数を数えるのであれば、私の考えている万歩計と同じものだろう。私に健康志向ブームが到来した時があり、万歩計も一時期持ち歩いたものだ。今は、抽斗の(ひきだし)の奧にしまい込んであるけど。


「それも知らなかったのか。ギルドカードを使いこなせるようになったらいろいろと便利だぞ。例えば、ギルド側は、ギルドカードが何処にいるかを常に把握できるようになってんだ。それを逆に利用して、冒険者が何処にいるか探したい時なんて、さっきバルドロスの居場所を調べたみたいにギルドに聞けば分かるってわけだ。まぁ、これには金貨1枚の情報料が必要になるが、人伝ひとづてに聞くより早いし、確実だ。モニカも俺達と万が一はぐれてしまった場合は、ギルドで俺達の場所を聞くようにしろよ。まぁ、俺達がお前を探すから、温和しくその場から動かないでいてくれた方が、俺達にとっては楽だがな」とマカイラスさんが笑って言う。


「なんか、ギルドカードっていろいろ凄いってことはわかったわ」と私は言う。SUICAのようにお金が払えるっていう機能が付いているだけで、この世界の割にはハイテクだと思ったけれど、まさか位置情報を調べたり、万歩計の機能まで付いているとは思っていなかった。


「ねぇ、ギルドカードを使って、互いに離れた場所でも会話が出来たりとかはしないの?」と私は聞く。


「会話? そんなことが出来るとは俺も知らねぇな。どうなんだ?」とマカイラスさんが受付に聞く。


「そのような機能はありません」と受付の人がきっぱりと言った。


 どうやらギルドカードは、スマートフォン並の機能はないらしい。

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