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50 魔王討伐、そして……

 私達3人は、冒険者ギルドに向かう。マカイラスさん達の家は、どうやらこの街の住宅街というような場所にあるようだった。しかも、高級住宅街という部類に入るかも知れない。通りには、石が敷いてあるし。

 考えてみれば、このエイラトの街は広い。私はこの街に来てから、冒険者ギルドと宿の往復、クエストを受注して街の外へというような通勤経路と呼べばいいような道しか通っていなかった。城壁の長さを考えたら、面積的にはエイラトの街は、皇居より広いだろう。


 マカイラスさんの家のある地区と冒険者ギルドの間には、繁華街というか歓楽街があるようだ。歓楽街はとっくに陽が落ちているのに、明るい。魔法の効力で光っているとは思うのだけど、色合いが原色で、私の世界のネオンで彩られた歓楽街とさほど違いが無い。

 気になるのは、なまめかしい衣装を着て、店先で立っている女性とマカイラスさんの眼だけの会話だ。私の想像だが、マカイラスさんに気付いた女性が『あ、マカイラスさん、遊んでく?』というような視線を送っていて、それに気付くマカイラスさんがさり気なく『今日はダメだ』というような視線を送っている。そして、女性が私を一瞥して『なるほどね。万事了解』というような感じで、無関心を装うが、しっかりと私を見ている。観察をされているような視線を感じる。

 繁華街を通りながら、視線だけの会話が何軒もの店先でなされる。やっぱり、店先に立っている人の服装からして、単なる居酒屋ということはないのだろうと思う。


「マカイラスさんは、この辺りでも良くお酒を飲むんですか?」と私は、横を歩いているマカイラスさんに、あたかも軽い雑談のように聞く。


「ん? この辺には酒場なんてねぇぞ? 酒ならギルドで飲むだろ。それに、昨日お前とギルドで飲んだばかりだろうが」とマカイラスさんは言う。

 なるほど、ここは飲み屋街ではないなら、風俗街なのだろう……。


「そうですけど、知り合いのような、馴染みのような? 女性がたくさんいたようなので、ちょっと気になっただけです」と私は言う。さり気なく言うように心がけたつもりではある。


「俺も、この街を拠点にしているからなぁ。知り合いも顔馴染みも、そりゃあいるわな。冒険者の中でも、顔が広いほうだしな」とマカイラスさんは事も無さげに応える。


「ふ~ん」としか答えられない私だった。私が邪推し過ぎなのか、マカイラスさんがシラを切ったのか、いや、マカイラスさんが、そもそもそれが普通だと思っている可能性だってある。考えて見れば、この世界の常識や倫理感を私はよく分かっていない。


 たしかジャーナリストを目指しているという男と付き合ったときであっただろうか。彼の家に、風俗情報誌なるものが堂々と彼の自宅の机に置かれていたことがあった。いろいろなページに付箋まで貼ってあって、ちょっと興味本位で覗いて見たら、優待券? 割引券? らしき場所がハサミで切り取られていたし。

 これって浮気なんじゃないかと思って問いただしたら「赤松氏の研究によれば、古来の日本において性というものは大らかなものだったんだ。夜這いだって広く認められたことだったんだ! 今の常識から考えると光源氏なんてとんでもねぇ奴って感じだけど、それが当時の風習では普通だったとも考えられる。それが、明治時代に風俗産業が、税収確保のシステムとして利用され始めたんだ。そして今は、貧困ビジネスと風俗産業が結びついてしまっている。俺はその是非を世に問いたいんだ。それには、実地調査を欠かせないからね」とか訳の分からないことを言っていた。


 そもそも赤松氏って誰よ? という感じ。真面目な理由なら別に良いのだけどと私が言ったら、調査費用を工面して欲しいとか逆に頼まれて、渋々1万円渡したら「もう2枚」とか言われたし。結局その人とは半年も続かなかったなぁ。まあ、昔の話はいいのだけれど。


「おいモニカ、地面を見ながら歩いても、金貨なんて落ちてないぞ」とマカイラスさんに声をかけられた。


 私ははっと顔を上げ、「あ、いや。考え事をしていただけよ」とマカイラスさんの横顔を見ながら言う。


「考え事の多い奴だな」とマカイラスさんが笑っている。マカイラスさんの横顔を見て、あぁ、そうか、と私は気付く。マカイラスさんが歓楽街に行ったりしているのかということも知りたいが、本当はもっと基本的なことを私は知りたいのだと。マカイラスさんは結婚をしているのか、もしくは恋人がいるのか? そんな単純なことを私は知りたいのだと。回りくどい質問をマカイラスさんにしていた自分の可笑しさに気付く。でも「マカイラスさんって結婚してるんですか?」とか「恋人はいるんですか?」なんて、聞ける気がしない。私は、ため息をつく。


「ため息も多い奴だな」とマカイラスさんが笑う。


「もう、別にいいじゃない」と私は言った。そしてまた、私はため息をつく。


 曲がり角を曲がると、冒険者ギルドの建物が見えた。へぇ、この道に出るのね、と私は思う。頭の中の地図が浮かんで来て、マカイラスさんとトクソさんの自宅から、冒険者ギルドまでの道も記載されていた。ご丁寧なことに、歓楽街の店の名称も頭の地図には載っている。店の看板とか見た訳じゃ無いのに分かるようになるなんて、これもやはり巫女からもらったスキルの影響なのだろう。歓楽街の店々には、「娼館」と書かれ、それぞれの店の名前が後に続いている。店名は扇情的な名前ばっかりだ。見たくなかった。まったく、あの巫女は余計なことしかしないわねと、巫女に対して腹が立った私だった。

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