48 魔王討伐、そして……
目を開けると小さな部屋に私はいた。目の前には同じような水晶石は卵ぐらいの大きさだ。森にあったのが、ボーリングの玉くらいの大きさの水晶石だから、目の前にあるのは随分と小振りだなと思う。
「ようこそ、我が家へ」とマカイラスさんが言う。
「家? ここは、あなたの家?」と私は聞き返す。倉庫か何かかと思った。
「ああ、そうだ。エイラトの街にある、俺の家だ。正確に言えば、俺とトクソのだけどな。冒険者として活動するための拠点って言ったところだな。留守にしていることも多いしな。トクソが戻ってくるまで、まぁゆっくりしていてくれ」とマカイラスさんが言って、部屋の扉を開けて外へ出て行く。
私も水晶石からあった部屋から出た。どうやら一軒家のようだった。水晶石のある部屋の上には、階段があった。
「2階もあるのね」と私は言う。
「まぁな、2階は俺の寝室だ。こっちの部屋で待っていてくれ」とマカイラスさんは言って、廊下を歩いて行く。
案内された場所は、応接室らしき場所だった。机と、そして背もたれのついている長椅子がある。壁には剣や盾が飾ってあり、生活スペースというよりは来客用の部屋と言った感じだ。マカイラスさんが雨戸のような木の扉を外していく。すると、庭があった。大きな木が1本庭にはあった。日本ならば、庭にあるのは柿の木か桜の木だろうが、それよりも大きく、幹も太い。神社にあるようなご神木を思わせるような大きな木だ。
「立派な木ね」と私は勝手に椅子に座って、くつろぎながら言う。
「ああ。まぁな。エイラトの街でこんなでかい木が庭にあるのは、貴族の屋敷以外はこの家しかない。まぁ、エルフがいる家なんて滅多にあるものではないがな。まぁ、トクソの寝床ってところだ」とマカイラスさんが言う。
「トクソさんの寝床? なんで木で寝てるの?」と私は聞く。
「あいつ、木の上じゃないと寝違えたりするらしくてな。木が水を葉に吸い上げている音が、子守唄らしい。まぁ、俺達にはわからない感覚さ」とマカイラスさんが答えた。
確かに私も「へぇ」としか言えない。木のない場所で、どうやってトクソさんが寝ているのかが逆に気になるが、「それにしても、ずいぶんと立派な部屋ね」と私は話を変えることにした。
「まぁな。この部屋は、もっとも使わないスペースだがな。お忍びで貴族が指名依頼にやってくるときくらいだな、この部屋を使うのは」と、マカイラスさんが言う。
「へぇ、そうなんだ。この街のあの感じの悪い指揮官とか、冒険者の捨て駒のような扱い方を見ていると、貴族の屋敷に呼び出されそうなものなのにね」と私は言った。
「ほとんどの場合は呼び出されるぞ。周りが寝静まった深夜にな。貴族の使者がやって来て、5分で身支度をして馬車に乗れってな。あちらさんがこっちに深夜、人目を忍んでわざわざやって来てする依頼……、まぁ言わくても内容は察しが付くだろ?」とマカイラスさんが言う。
「ええ。まぁね」
「俺は自分の部屋に行ってくる。お前はトクソが戻るまでここで待っていてくれ。あの場所なら魔力の回復も早いはずだろうから、3時間くらいで戻ってくんだろう。あと、台所にある飲み物、勝手に飲んでいいぞ。茶を入れるくらい、自分でできるよな?」とマカイラスさんが部屋から出て行きながら言う。もしかして、馬鹿にされている?
「それくらい分かるわよ。台所はどこあるの?」と私は言う。
「この部屋を出て左の突き当たりだ。じゃあ、俺は2階にいる」とマカイラスさんは部屋を出て行った。
トクソさんが戻ってきたのは、それから3時間後のことだった。
ちなみにその3時間の間、私はお茶を飲むために悪戦苦闘していた。お茶というより紅茶に近いような葉は台所で見つけたし、陶器製の薬缶らしきものも簡単に見つけることができた。しかし、湯を沸かすことがどうしてもできなかった。ガスコンロがあるとは思ってなかったけど、竃も無いし。まさか、魔法を使ってお湯を沸かすんじゃないかと思い当たったが、私の魔法は沸点の操作はできるけど、水の温度自体を上げるということはできない。今日の朝、マカイラスさんとトクソさんがやっていたように、火魔法を使って湯を沸かすのだろう。しかし、私はそんなの使えないし、お茶を入れるくらいできるとマカイラスさんに言ってしまった手前、頼みに行くのは気が引ける。
意地でも自力でお茶を沸かしてやろうじゃないのよ、と決意し、庭に行って落ちていた小枝や葉を集めてそれを燃やそうと思ったら、火を起こすことができない。台所に、マッチやライターの類いもないし……。たしか、原始時代の人は、摩擦熱で火を起こしたはず、と思って木を暫く擦り合わせたがどうも火がおきる気配がない。
そして、人類は落雷の際に発生した火を利用していたということを思い出す。雷雲かぁ、と思いながら庭に出て空を見上げるが、雲一つない青空だ。
気圧魔法を使えば雲を発生させることはできるかも知れないけれど、大量の水が要るわね。でも、エイラトの街には湖なんてなかったし、周りは砂漠といった環境だしねぇ。雷雲を作り出せれば、この大木に上手く落雷してくれそうになのになぁ、と残念に思う。
そんな試行錯誤をしているうちに、トクソさんが帰って来た。マカイラスさんに、台所になんで木の葉や木の枝を持って来てんだよ! 人の家を汚し過ぎだ! と怒られた。
この世界で、私は女子力低いのかも知れない……。




