46 魔王討伐、そして……
私は、巫女巫女ホットラインというスキルを使って会話をしていたのであって、決して独り言を言っていたという訳ではないということを、マカイラスさんとトクソさんに説明する。しかし、2人の顔から疑問の色は消えない。
「お前がさっき話していた言葉は何処のものだ? 随分と聞き慣れない言葉だったが……」と、マカイラスさんが口を開いた。それに、トクソさんも頷く。
「え? 日本語だけど?」と私は言う。さんざん会話をしておいて、何を今更言っているの? と思ったが、思い当たったことがある。巫女と私は日本語で会話をしていて、それがマカイラスさんとトクソさんには聞き取れていない。しかし、マカイラスさんとトクソさんと話しているときは問題なく意思疎通できている。巫女のいたチュートリアルの部屋で飲んだコニャックの効果なのだろう。
「にほん語? それは何処の言葉だ?」と聞かれる。日本語というのは日本の公用語だ、と説明しても分かっては貰えないだろう。別に、異世界から来たということを隠している訳でもないから説明してもいいんだけど、それはそれで説明しにくい。
「モニカ、お前は、異世界から来たのか?」とトクソさんが言う。
大正解、と思いながら「そうよ。別に隠していた訳ではないんだけど、私が自分から言わなかったことで不快にさせたなら謝るわ」と私は答える。言わなくても分かって貰えるのなら話が早い。異世界から来たと理解してもらえたなら、次に危惧することは、パーティーを組んだのにそれを私が言わなかったことだろう。パーティーも信頼関係が大事だと思うし。
「やはり異世界から来たのか。それならば納得できることが沢山ある。いや、むしろ、やっぱりそうだったのか、という感じだな」とマカイラスさんが言う。
「勇者ではあるまいな?」とトクソさんが聞く。
「残念ながら勇者ではないわ。それは断ったし」と私は答える。
「そうか。勇者ではないか……。まぁ、それはいいとして、お前も、逆…… なんだっか? あの女勇者が言っていたのは?」とマカイラスさんがトクソさんに聞く。
「たしか、逆、逆ハーでは無かったか? もしくは、フラグかも知れん。街の曲がり角で女勇者とぶつかってしまった際、『やったぁ。エルフとのフラグが立っちゃった』と、パンを口に咥えながら言っていたぞ……」とトクソさんが言う。
「女勇者が目指していたのは、逆ハーのはずだ。フラグはその過程らしいしな。お前も、逆ハーを目指しているのか?」とマカイラスさんが言う。
「逆ハー? 意味が分からないのだけど、私が目指しているのは、元の世界に変えることよ。それを、その人が逆ハーと表現していたのかも知れないけど……」と私は答える。
「俺がギルドで見かけた男の勇者は、ハーレムを目指すと言っていたと記憶している」とトクソさんが言う。
「あ! それなら分かるわ。たぶん、その勇者は私と同じ世界の出身だわ。ニューヨーク出身の人! その人も故郷に帰ることを目指していたのよ。私も同じ目的よ」と私は答える。誰だって、故郷に帰りたいと思うのは当然だ。私は幸運な事に魔王を倒すことができ、自分の世界に帰れるチャンスを掴むことが出来た。故郷に帰りたいと願い、魔王を倒そうとしながらも志し半ばで倒れた人がいる……。黙祷を捧げたいという気持ちと同時に、私はその人達の分まで頑張り、元の世界に帰らなければと強く決意する。
「モニカ、それで、魔王は倒したということでいいのだな?」とマカイラスさんが聞く。
「それで間違いないわ。確認もとったし」と私は言う。
「それなら、クエストも達成したことだし、ひとまず街まで帰ろう。こんな場所に長居してもいいことはねぇ」とマカイラスさんが言う。
「そうだな」「そうね」とトクソさんと私は、マカイラスさんに同意した。




