45 魔王討伐、そして……
私は巫女巫女ホットラインのスキルを使う。「巫女巫女ホットライン」と念じても発動してくれなかった。少し考えて、右手で受話器を持っているかのように耳元に持っていき、「巫女巫女ホットライン」と念じると、ぷるるるる、という音が頭に響き始めた。電話のない世界で、電話を掛けているジェスチャーをしなきゃいけないのは少し恥ずかしい。マカイラスさんとトクソさんに変な目で見られなきゃいいけど。
「はい。巫女です。ただ今手が離せません。しばらく経って、でっかっ、あの、だいぶ経ってからおかけ直しください」という声が頭の中に響く。
「留守電かしら? あ、えっと、魔王をとりあえず倒した見たいで、ステータスに称号、魔王討伐者というのが出ました。これは、魔王を倒したということでいいのですか? あと、いろいろ聞きたいことがあるので、とりあえず、連絡くださ『ええ〜。モニカさん、魔王を倒したんですか?』と、私が言い終わらないうちに、巫女の声が響いた。
「あれ? 留守電じゃなかったの?」と私は言う。
「いえ、ちょっと手が離せなかっただけです。魔王を倒したということに驚いて、操作をミスっちゃったので、やられちゃいました」と巫女が言う。
「タイミングが悪かったみたいね。ごめんなさいね、仕事の邪魔しちゃって」と私は謝る。操作をミスったと聞いて、また誰かを神隠ししてしまったのではないかと心配になるのだが、それは聞かないでおく。知らぬが仏だ。
「いえ、仕事ではないので大丈夫です。私、今休暇中ですし」と巫女が言う。
「あ、休暇中なの。巫女にも休暇があったなんて驚きだけど、それは尚更悪かったわね」と私は再度謝る。休暇の時に掛かってくる会社からの電話は、経験上、十中八九、悪い電話だしね。
「本当は休暇なんてないんですけど、土下座をして休暇を無理矢理もらったんですよ」と巫女は言う。
「へえ、良かったわね。それで、魔王を倒したということでいいのかしら?」と私は聞く。
「はい。大丈夫ですよ。おめでとうございます。魔王を倒さない、生き延びることに専念するなんて言っていて、結局、1週間と少しで魔王を倒しちゃうなんで、モニカさんはツンデレお姉様だったんですね! ヤック デカルチャー!!」と巫女が興奮した口調で言う。
「え? そんなに衝撃的? 成り行き上、魔王を倒すってことになっちゃっただけよ。じゃあ、本題に入るけど、私はもとの世界に帰れるの?」と私は聞く。
「ええ。魔王を倒したので、そちらの世界から他の世界への転移ロックは解除されています。ただ、前にもお話しましたが、モニカさんを元の世界に送り返せるほどの魔術師を見つけないと帰れませんよ?」と巫女が言う。
「そうだったわね。そういう人、心当たりないの?」と私は聞く。
「すみません。私はそちらの世界に詳しいという訳ではないので……。私の方でも、探してみます。魔王が倒されたので、勇者選抜をしなくてよくなった分、魔術師捜索の時間を作れると思いますし。ですが、モニカさんの方でも探して見てください」と巫女は言う。
「私の方でも探せって言われても……どういう人を探せばいいの? 昨日の夜、街から魔王城の近くのセーブクリスタルってのがある場所まで転送されたんだけど、そういう魔法を使える人を探すってことでいいのよね?」と私は聞く。
「その認識で正しいです。しかし、セーブクリスタルの場所に転送されたというのが気になりますね。何人でモニカさんを転送しましたか?」と巫女が私に質問をする。
「たしか、5人くらいだったわね。あと、私とマカイラスさんの2人を転送させたわ。私1人だけではないわ」と私は答える。
「なるほどです。しかし、はっきり言ってしまうと、5人で2人をセーブクリスタルの場所までしか転送できないような魔術師では、モニカさんを元の世界に送り返すなんてことはできませんね。何人集めようが烏合の衆でしかありません」と巫女がきっぱりと言う。
巫女の話が飲み込めないので、どういうこと? と私は尋ねる。
「セーブクリスタルには、転移魔方陣が組み込まれています。セーブクリスタルとその魔方陣の補助を受け、かつ、5人掛かりで魔法を使わないといけないような低レベルな人達では、お話にならないということです」と巫女が言う。うん、もっと話が分からなくなった。転移魔方陣がセーブクリスタルに入ってるとか、マカイラスさんも言っていたような気がするけど……。
「つまり、凄腕を探せ、ってこと?」と私は言う。
「はい。その通りです。その世界で有名な冒険者や、偉業を成し遂げた人を訪ねてみてはいかがでしょうか。モニカさんを送り返せる程であれば、100年に一度の人材でしょうから、何らかの業績を打ち立てている可能性が大きいです。もちろん、火魔法の分野での凄腕を探し出しても意味はありませんし、無駄骨になることも多いと思いますが……。その辺りは根気です」と巫女は言う。
「100年に1度の人材なんて……。そう易々と見つかるものじゃなさそうだけどね」と私はため息交じりに言う。
「逆に、モニカさんがギルドに求人を出すなど、いろいろとやりようがあると思います。頑張ってくださいね! 魔王討伐、おめでとうございます。では、そろそろ時間なので、また連絡まってますよ〜」と巫女は言って、切れてしまった。
通話を終え、マカイラスさんとトクソさんの方を見ると、2人は怪訝な顔で私を見ている。巫女巫女ホットラインを使っているのを、独り言を言っていると勘違いされたのかも知れない。たしかに、傍から見れば、変な人だろう。
「ごめんなさい。ちょっと、スキルを使って会話をしていたの。別に怪しくないし、頭が変になったわけじゃないわよ」と私は言った。




