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44 魔王討伐、そして……

 魔王城は既に見えているのに、ここから先に進む手立てがない。私達は、ここで足止めをくらうことになった。まぁ、私が崖を降りる術がないということが原因だけど……。


「仕方ない。抜け道を探すか? あるかどうか分からないが」とマカイラスさんが答える。


「それしか方法が無かろう。モニカの魔法しか俺達には魔王を倒す手段がないからな」


 私が原因で、困ったことになっている。私も責任を感じる。魔王を倒す、という訳の分からない目標だけれど、そういうプロジェクトで私達3人は動いている。そんな中で、私が原因でそのプロジェクトが頓挫するというのは、やはり社会人として責任を感じる。


 魔王の討伐ということだって、捉え方によっては、社長と経営企画部が勝手に決めた、粗利率5%、純利益率2%改善とかいう、円安状況で無茶だと思うような5カ年計画を達成しないといけないという状況と似ているかも知れない。もちろん、ボーナスを多くもらうためなのが本音だけどね……。

 それに、経理部にもコストダウンの容赦ない指令が降りてくるし。夏の冷房の設定温度を高くして逆に蒸し暑くて生産性が落ちてるけど、電気料金を抑えるためと言われれば文句言えないし、ってか、冷房を強くすると、女性が冷房病になるっていう勝手な先入観は止めて欲しい。そもそも、経理部には私しか女はいないし、経理部の部屋全体が蒸し暑くなってても、「彼女がいるから、冷房の設定温度を下げられないんだよね」的な空気は止めてほしい。私だって、あの部屋の温度と湿度じゃ夏場はきついし、パソコンのUSBに卓上ミニ扇風機を接続して、涼みを得ているという意味を分かって欲しい。はっきりと言うならば、卓上扇風機を使っている私の意図をくみ取って、冷房の設定温度をせめて27°まで下げて欲しい。

 冬だって、厚手のガウンを来て仕事している状況だし。極めつけは、本社の耐震工事をいつまで先延ばしにしているのよ! 決算書の数字を良くするために、先延ばしの先延ばしじゃない。来年度も、工事の予算を取れるか微妙だし。


「モニカ、何か良い考えはないか?」とトクソさんに聞かれる。


「もし、2人が良かったなのだけど、この場所から魔法を使ってもいい?」と私は答える。


「出来るならそれでもいいが……。しかし、サイクロプス討伐戦の時は、俺が弓を放った後にお前が魔法を使ったと記憶している。俺の弓の射程よりもお前の魔法の射程は短いという認識なんだが、違うのか?」とトクソさんに問い返された。


「あ、いえ。あの時は魔法を使おうと思ったタイミングがあの時だったんです……。たぶん、私が目視できる範囲が魔法の射程と考えて良いはずなんです。魔王城まで、ここから1300メートルはあるけど、見晴らしもいいし、問題なく使えると思います。鳥を生け捕りにしていた時だって、2キロ以上離れた鳥を落としたこともあったし……」と私は答える。ちなみに、2キロ先の鳥を落としたときは、私が鳥が落ちたと思われる場所に到達するまでに、鳥が意識を回復して逃げてしまったのか、鳥の姿は見えず、生け捕りにできず徒労になったけれど……。


「できるなら、モニカ、やってみろ」とマカイラスさんが言う。


「そうならそうと、早くそれを言って欲しかったな」とトクソさんは不機嫌そうにいう。


「ごめんなさい。なんか言い出せなくて。試しに使って見ますね。失敗したら、崖を降りる方法をまた考えましょう」と私は言う。


「それじゃあ、やってみろ。トクソ、物は試しだ」とマカイラスさんが場を繕うように言う。トクソさんも、怒った様子だが、同意を示してくれた。


「それじゃあ、使って見るわね」と言って、私は立ち上がり、魔王城を見ながら気圧魔法を念じる。とりあえず、魔王城全体を囲む感じで魔法を発動させる。気圧はもちろん、可能な限り低く、と念じながらだ。


 魔法を発動させてからすぐ、「ステータスが変化しました」という声が頭の中に響く。あ、え? と一瞬混乱したが、4つ葉のクローバーを拾った時と同じだと思い出し、『ステータス画面』と私は念じる。すると、視界の中にステータス画面が浮かび上がってきた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

名前:モニカ

レベル:1

称号:魔王討伐者(NEW)

職業:会社員(経理)

魔法属性:転移魔法

体力:30

魔力:253→255 

スキル:普通自動車免許 (ON)

    日本商工会議所簿記検定1級 (ON)

    魔力自動回復・強 (ON)

    魔法自動追尾 (ON)

    魔法持久力・強 (ON)

    魔法自動継続 (ON)

    無媒体結界術 (ON)

    空間把握能力・強 (ON)

    距離感・強 (ON)

    体内気圧計 (ON)

    気圧視認   (ON)

    巫女巫女ホットライン(使用可)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 最初に目に付くのは、(NEW)と点滅している「称号:魔王討伐者(NEW)」という新たに加わったステータスだ。文字道理、魔王を討伐したということで良いのだろうか? という疑問を憶えつつも、とりあえず、ステータス画面を上から順に読んでいくことにした。


 それにしても、相変わらずいろいろなスキルがあるなぁと思う。あ、そういえば、体内気圧計、気圧視認っていうスキルがあったんだったわねということも思い出す。気圧計が見れたり、気圧の違いを色分けして見えるんだったっけ。これを使えば、私の気圧魔法でどれくらい気圧が低くなっているのか、測定できるんじゃないかしら。今度、暇があったら実験でもしてみようかしら。私の会社の製品よりも、真空度が高かったりしてね、なんて思う。

 あ、あと、巫女巫女ホットラインのこと、すっかり忘れていたわ。あの巫女と1週間に1度、通話ができるというスキルだったわね。なんか「使用可」っていう表示になってるし。こちらの世界に来て、もう1週間以上過ぎているから、すでに連絡が取れる状態のようね。まぁ、あの巫女と話をしても大して意味がなさそうなんだけど、ステータスの「魔王討伐者」っていうのは、魔王を私が倒したという認識でよいのか、巫女に確認を取ったほうがよいだろう。それに、元の世界に帰るためには、魔王の討伐が必要条件だった。それが達成された今、あとは、私を元の世界に転送できる人を探し出せばよいだけのはず。そのあたりのことも聞いておいたほうがよい気がする。


「魔王は倒せたみたいだけど、念のために確認をするからちょっと待っていて」と私はマカイラスさんとトクソさんに言う。


「魔王を倒したのか? でも、どうしてそれが分かるんだ?」と、マカイラスさんが驚きの声を上げた。


「あ、たぶん、倒したんだと思うんだけど。まだ、確定じゃないかも。ちょっと確認するから待っていて」と2人に断りを入れてから、「巫女巫女ホットライン」と私は念じた。

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