41 魔王討伐、そして……
食事を終えた私は、気圧魔法に思い巡らせる。私の魔法により気圧が下がるのだから、沸点は確実に下がる。それは間違いない。新人研修の時に、各製造部門の部長さんが、製造している製品のレクチャーを説明してくれた。
その中で、【真空凍結乾燥装置】を作っている部門の部長さんから説明を受けた記憶がある。経理部の私に対してというより、営業の人達向けの説明で、私にはあまり意味が分からなかったけれど、苺を真空凍結乾燥装置に入れて、ドライフルーツにして食べさせてくれたことは憶えている。あれは美味しかった。同期と「ドライフルーツも、やっぱり作りたてが美味しいのね」「せっかくなら、ドライマンゴーを食べたかったね」なんて会話をしたのを憶えている。彼女は、随分前に寿退社をしたけれどね……。
あと、その部長さんに「生の苺を入れるのではなく、事前に凍らせた苺をいれたのは何故ですか?」というような質問をした同期がいたことも憶えている。部長さんの話は小難しくて、ほとんど憶えちゃいないけど、氷から直接水蒸気にさせて水分を飛ばす、昇華させる、というようなことを話していたということは憶えている。「氷から気体にするって、なんか凄いね」とも同期と会話したのを憶えている。今思えば、彼女持ちの同僚に猛烈アプローチして、結婚をした彼女の方が凄いと思うけどね……。
あ、思い出した。会社の製品は、−62°でも氷を昇華させることができることができるんだった。どうしてそんな細かい数字を覚えているかというと、「沸点をー62°まで下げることなんて、無理だと思うでしょう。しかし、可能なんです。無理じゃないんです」という、稚拙な親父ギャグをその部長さんが言っていたからだ。これ、笑った方がいいのかな? というようなことを、同期とアイコンタクトしたのも懐かしい思い出だ。
つまらない親父ギャグはどうでも良いとして、この私の記憶から推察するに、気圧を低くすれば、水の沸点は0°以下になりえるという事だろう。つまり、サイクロプスが恒温動物かは知らないけれど、体温が40°付近であろうネズミの体内にある水を沸騰させてしまうことは理論上可能ということだ。
問題は、私の魔法が気圧を下げたことによって沸点を低下させているか、という問題だ。まずは、やってみよう。
「マカイラスさん、鍋に水を少し入れて持って来てくれない?」と私は、自分の剣をおもちゃにして遊んでいるマカイラスさんに声を掛ける。剣で遊ぶなんて危なっかしいわね。
「すまない。今、手入れをしていて手が離せない。自分でやってくれ」と私の方を向きもせずマカイラスさんは答えた。甲斐性ないわね、なんて思いながらトクソさんを見ると、トクソさんは弓矢の鏃を見つめている。鏃を鏡の代わりにして、自分の顔を見ているのだろうか。そんなに熱心に自分の顔を見て、楽しいのだろうか? トクソさんには声を掛けにくかったので、結局私は自分で鍋に水をくんだ。




