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37 魔王討伐、そして……

「トクソさんが別の種族だと言う事は分かったわ。見られたことは、犬に咬まれたと思って忘れることにするわ」と私はため息混じりに言う。

 実家で猫を飼っていたが、お風呂上りの時なども家族の視線は気にしていたが、猫に裸を見られても気にしたりはしていなかった。おそらく、トクソさんに見られるということは、猫に裸を見られるということに近いのだろう。そう思い込むには結構無理があるのだけれど、トクソさんとマカイラスさんの話を聞く限り、そういうことなのだろう。ペガサスもいる世界だし、例え宇宙人がいたとしても今更驚かない。


「犬に咬まれた? 魔術師に治療魔法をかけてもらったか? 恐水病になると助からんぞ」とマカイラスさんが真面目な顔をして言った。心配をしてくれるのは有難いと思うのだけど、言葉尻を捕えられたような気持になる。


「犬に咬まれたっていうのは、例え話よ」と私は素っ気無く答える。


 犬に咬まれたら、魔術師に治療魔法をかけてもらう? 街の中に犬が首輪も付けずに歩いている犬をよく見かけたけれど、この世界の犬は狂犬病の予防接種を受けていないのだろうか? あ、ワクチンとかの技術がない、いや、そもそも細菌の存在が知られていないだろうから、予防接種とか無理か。


「そういうことだ。だが、気分を害してしまったのなら、やはり謝罪すべきなのだろうな」とトクソさんは軽く頭を下げた。


「もういいわよ。私も怒ったりなんかして悪かったわ」と私も謝り、「トクソさんは278歳らしいけれど、外見だと若く見えるわね」と私は言う。どう見ても、人類を基準にしたら、20代前半というような外見にしか見えない。まぁ、トクソさんは人類じゃないのだから、基準にすること事態が間違いなのかも知れないけれど。私はメダカの雄雌も見分けられないしね。


「エルフの寿命からしたら、俺はまだ子供だ。1000歳を超えてからやっと一人前として扱われ始める」とトクソさんが答える。


「1000歳で一人前ねぇ。ずいぶんと気が長い話ね。そんなに生きて飽きないの?」と私は聞く。娯楽も少ないようなこんな世界で、千年生きるって、割と退屈しそう。私の世界で私が千年生きれるとしても、結構退屈してしまいそう。冗長な、ロシア文学とかを好んで読んでしまいそうな寿命だなぁ。


「飽きはしないな。お前たちは気付かないかも知れないが、森の中は絶えず移り変わっている。木も毎日、驚くほど成長しているのだぞ?」


 確かに、朝顔とかふと気付いたら蔓が物凄い伸びていたりするけどさ。私には理解できない感性だ。地中で幼虫として7年生活し、やっと成虫になって2週間で死んでしまう蝉の気持ちを理解しようとしても、私には無理だし、同じ場所で動かないで生き続ける植物の人生観も私には理解できないだろう。トクソさんに関しても、理解しようとする方が無理なのだろう。


「まぁ、お互いの誤解も解けたことだし、そろそろ今後のパーティーの方針を決めようじゃないか」とマカイラスさんが話を切り出す。なんで貴方が仕切り始めるのよと思ったりもしたけれど、パーティーのリーダーはマカイラスさんだとか言っていた気もする。でも、私が加入する前はマカイラスさんとトクソさんの2人組のパーティーだったはずだ。2人組のパーティーで、リーダーも何もあったものではないと思うのだけれどね。


「魔王を本当に討伐しに行くか行かないか、ということでいいのよね?」と私は聞く。私の中で、そんな危ないことをしに行くはずがないでしょ、と結論が出てしまっているけどね。


「そう急ぐな。その前に、はっきりさせておくことがあるだろう」とトクソさんが言う。そして、それにマカイラスさんが頷く。


「何を?」と私は聞く。逃げる、以上に何をはっきりさせるというのだろうか。


「お前がサイクロプスをどうやって倒したかだ。その魔法によっては、魔王を討伐できる可能性があるだろう。お前の魔法について、詳しく教えてくれないか? はっきり言うと、お前のその魔法が俺たちのパーティーで魔王を討伐できる唯一の可能性だ。お前の魔法で倒せないのなら、討伐に向かっても無駄死になる」とマカイラスさんが言った。


「私が倒したということが間違いだと思うのだけれどね。そもそも、サイクロプスって、疫病で死んだって話だったわよね? なんで私が倒したということに話が変わっているのよ。おかしいじゃないの」と私は言う。


「いや、ギルドカードの討伐数のカウントは正確無比だ。間違いなくお前が倒したんだ」とマカイラスさんが言う。


「モニカって、この世界で良くある名前じゃないの? 別のモニカさんが倒した。それで、私は人違いをされているって線はないの?」と私は言う。モニカって、どこにでもいそうな名前だ。


「その可能性も無いとは言えないがな。しかし、モニカっていう冒険者はお前以外聞いたことがないがな」とマカイラスさんが言う。サイクロプスを私が倒したという可能性より、別のモニカさんが倒したという可能性の方が大きいと私は思う。


「お前はサイクロプスが来たとき、何かの魔法を使っただろう? サイクロプス達をお前の結界が包み込むのをあの時、確かに感じた。3人で訓練した時にお前が展開した結界と同じ種類だったぞ」とトクソさんが言う。


「いや、魔法は使ったけどさ。あの、鳥を生け捕りにしているのと同じ魔法よ?」と私は言う。


「それでも、鳥とサイクロプスでは、結果がずいぶんと違う。同じ魔法のようには思えないがな」と、マカイラスさんも言う。私が警察の尋問を受けているみたいな感じになっているのはどうしてだろう……。だんだん腹が立ってきたわ。


「詳しいことは私にも分からないわよ」と私はそっけなく言う。


「モニカ、冒険者の基本中の基本は何だった? 俺は何度もお前に言ったはずだが?」とマカイラスさんが言う。いらっ。聞き分けのない子供に教えを何度も諭すような言い方をされると、頭にくる。


「お客様、株主、社員、すべてのステークホルダーが幸せとなる会社を私達は目指します、だったかしら?」と私は言う。


「何を分け分からないことを言ってんだ。ふざけている場合じゃないんだぞ」とマカイラスさんが少し厳しい口調で言う。こんな近くで怒った顔をされるとさすがに怖い。


「何よ。ちょっとした冗談よ。自分の魔法属性を理解し、臨機応変に対応するべし、でしょ。ちゃんと覚えているわよ」と私は答えた。


「覚えているなら、それを実行しろ。考えるんだ、そして理解するんだ」とマカイラスさんが言う。


「でもどうやって? よく分からないわよ、魔法なんて。仕組みがそもそも、非現実的じゃない」と私は言う。


「埒が明かないな」とトクソさんがやれやれと言った感じで口を開き、「実際にその魔法を使ってみればはっきりするだろう。サイクロプスにやったことを再現できないのであれば、魔王討伐に言っても意味がないしな」と言う。


「それもそうだな」「それもそうね」とマカイラスさんも私もトクソさんの意見に同意した。


「ではちょっと待っていろ。不本意ではあるが、実験に使えそうな動物を捕まえてくる」とトクソさんは言った。そう言ったあと、すぅっとトクソさんはいなくなった。忍者みたいだなぁ、と私は思った。

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