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34 魔王討伐、そして……

「なるほどね。一緒に冒険をしようとあなた達は誘ってくれていたわけね。パーティーってそういう意味だったのね。私はてっきり別のパーティーを想像していたわよ」と私は言った。マカイラスさんにパーティーとはなんぞやということを説明してもらって、私の勘違いが訂正できた。

 危ない、危ない。危うくマカイラスさん達のパーティーに参加をしてしまう所だった。一ヶ月も野宿するような旅行に行こうなんて、無茶だわ。せめて、屋根とシャワーとベッドである場所で寝たし、生活したいわよ。それに、男2人と野宿とか、女として身の危険を感じる。まぁ、この2人は無理矢理にということはしないでしょうけど、それでも気が進まない。


「別のパーティーって、何を想像していたんだよ、まったく。むしろそれ以外のパーティーを想像するのが難しいぜ。やっぱりお前は、面白い奴だな」とマカイラスさんが笑う。トクソさんは、静かに苦笑している。


「いや、婚活パーティーとか? あ、パーティーっていうから混乱するのよ。えっと、宴会? 社交会? もしくは舞踏会? 交流会? とかを想像していたのよ。普通に考えれば、そうじゃないのよ」と私はエールを飲みながら話す。


「はぁ、そんなものを想像するとはなぁ。もしかして、モニカは、王族や貴族なのか? それなら、そっちのパーティーを想像するんだろうな。だが、王族とは、髪の色や目の色が違うしなぁ。貴族って感じでもないんだがな。もしかして、何処かの姫様なのかい? そんなはずないよなぁ」と、マカイラスは1人でボケて、1人で突っ込み、1人で笑っている。


「どうやら、戦闘を行うとか以前に、モニカには座学も必要だな。もちろん、訓練も基本くらいできないといけないがな。草原や山に生えている草で、切り傷に効くもの、解毒効果があるものなど判別できるか? これは基本中の基本で、冒険者にこの質問をする時点で相手を馬鹿にしているようなものだから、普段はすることのない質問だが、一応聞いておくぞ」とトクソさんが言う。


「そんなの、私は分からないわよ。たしか、ヨモギが香辛料として使えて、オオバコが生薬に使えるんじゃなかったかしら。そういう採取依頼を受けたし、そういう説明を聞いた気がするわ。でも、知ってるのはそれくらいね」と私は答える。


「まぁ、その程度なのだろうな」とトクソさんは言った。


 その時、ダン、という大きな音がギルドの中に響いた。誰かが乱暴に扉を開けた音だ。そして、ドカドカと大きな足音を立てて男が入ってくる。私も、その音のしている方向を振り返ると、そこには、紫の羽を付けた、あの感じの悪い指揮官が立っていた。せっかく楽しくお酒を飲んでいたのに、気分悪いなぁと私は思った。周りでお酒を飲んでいた他の冒険者も同じ気持ちなようで、さっきまで笑い声が絶えなかったギルド内が静まり返る。


「冒険者のモニカはいるか!」と、紫の羽の人は命令口調で言った。いるのかどうか尋ねたいなら、疑問形

で聞けばいいのに、なぜ命令口調で言うのか。さっぱり理解できない。


「冒険者のモニカはいるか!」と再度男は言う。さらに大きな声で。完全にギルド内の空気が白け切る。私も、最初は居留守を使おうと思ったけれど、返事があるまでオウムのようにずっと同じことを繰り返し言いそうで、傍迷惑だろうと思う。


「私はここよ」と、私は面倒臭そうに返事をした。実際、面倒臭いし、面倒事に巻き込まれる予感がするからだ。


「そこだな。モニカ、お前に指名クエストだ」と言って、紫の羽の男から巻物を受け取り、それを尊大に広げる。周りからは「指名クエストをなぜ?」という疑問が周りの冒険者から口々に漏れる。私も、シメイ・クエストってなんだろうと思う。モニカって名前であって、氏名ではないわよね。そもそも、この世界の人達って、苗字が無いようだから、氏名っていう言葉が変ね。シメイって「指名」かしら? それとも「使命」かしら? どちらにしても面倒事ってことは間違いないわね。


「冒険者モニカ、お前を魔王討伐を依頼する」と、紫の羽の男とは巻物を読み上げた。


「え? なんで私?」と静かになったギルドに私の声が響く。


「お前がサイクロプス148匹を倒したことは先ほどギルド経由で確認させてもらった。それほどの実力者なら、魔王討伐も可能かも知れない。人類の平和の為に行くのだ、モニカよ! そして、お前が万が一でも魔王を討伐できれば、サイクロプスの討伐と魔王討伐を行った者をこの町から輩出したという実績が出来る。「始まりの町」と言われながら魔王を討伐できない勇者ばっかり現われていて、私の手腕が問われていたところだ。もしかしたら左遷も検討されていたかもしれん。しかし、サイクロプス討伐に魔王討伐の実績が加われば、私の昇進は間違いない。大臣に就任することだって夢じゃなくなるのだ! さあ、今から行け、早く私を大臣にするのだ!」と、紫の羽の男が興奮気味に言う。

 人類の平和の為とか言っているけど、めちゃくちゃ私利私欲じゃん。しかも、なんか変な誤解をしているし。


 ざわつくギルドの中。マカイラスさんとトクソさんも驚いているようだ。いや、私だって驚いている。まぁ、紫の羽の男に呆れる気持ちの方が大きいけれど。


「お断りするわ」と私は言った。分けが分からないことに私を巻き込まないで欲しい。


「お前に拒否権はない!」と紫の羽の男は私を指差しながら叫ぶ。


「そもそも、私はサイクロプスなんて倒していないし。何かの間違いじゃございませんこと?」と私も言い返す。お前に拒否権はないって、お前は終戦直前の軍人か、と心の中で突っ込む。


「あくまで、しらばっくれるというのだな! 世界の平和のために魔王を倒そうという友愛の心はないのか!」と紫の男が言う。どの口で言っているのだろうかと私は心底呆れる。


「きっと、何かの間違いよ。しっかりと確認しなさいよ」と私は言う。


「ギルドカードの討伐数の計測が間違うはずないではないか! お前の持っているギルドカードに、サイクロプスを148倒したという記録があることは既に報告を受けているのだ!」と紫の羽根の男が言う。


「本当に知らないわよ」と私は言う。知らないものは知らないのだ。


「問答無用だ! おい、こいつを例の場所まで転送しろ!」と紫の羽根の男が、頭まですっぽりとローブを被った人5名に指示を出す。ローブを被った男達は、私に両手の掌を向けて、なにやら呟き始める。うっすらと彼等の掌が光を帯びている。


「冒険者モニカよ。お前を今から魔王の居住地近くまで転送する。死んでも魔王を倒すのだ」と紫の羽根の人が言う。


「ちょっと待ってくれ。モニカは俺達のパーティーだぜ。勝手に転送されちゃこまるぜ」とマカイラスさんがいつのまにか立ち上がり、紫の羽根の人に絡もうとする。マカイラスさんは既に千鳥足だし、酔っ払いが他人に絡もうとしているようにしか見えないけれど、雰囲気的に正義の味方のように思える。ただの酔っ払いだけど……。


「そうか、それならお前も転送してやる。この2人を転送しろ」と、紫の羽根の男はローブの男達に指示を出した。


 そして、私は奇妙な光の粒に包まれ始めた。マカイラスさんの体の周りにも同じような現象が起きている。心なしか、自分自身の体重が軽くなっているような感じになる。水中に浮いているような感覚。

 カメラのフラッシュを焚かれたみたいに眩しくなった。私は反射で目を閉じた。

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