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32 魔王討伐、そして……

 ギルドの受付には誰も並んでいなかった。私が宿に帰ってシャワーを浴びる前には、建物の外まで列が出来ていた。サイクロプスの死体の片付けが終わってすぐ、冒険者達は報酬を受けるために受付に並んだのだろう。

 

「お待たせしました。今回の都市防衛クエスト及びその事後処理に関わる報酬をお支払いします。報酬金額は……」とギルドの受付の男が固まった。いつもは無表情のくせに、特に頬のあたりの筋肉が痙攣している。


「報酬は、金貨14枚、銅貨9枚になります」と受付の男が言ったあと、「ギルドカードへの入金でよろしいでしょうか?」と私に聞いてきた。


「はい、お願いします」と私は答えた。マカイラスさんにお酒をごちそうするつもりだが、ギルドのお酒を受け取るカウンターもギルドカードを提示すればSUICAみたいに決済できるので、現金は必要がない。変なところで技術が進んでいる世界だとつくづく思う。


「畏まりました。これで手続きは完了しました」と受付の男が言う。


 それにしても、マカイラスさんも大嘘つきだ。何が、エール5杯分の報酬よ。かなりの金額を報酬として貰えるじゃない。金貨14枚と言ったら、三流宿の一泊の料金が銅貨5枚だから、280日宿泊することが可能な金額だ。鳥を生け捕りにしたりして受け取る私の報酬の何ヶ月分よ、と思う。昼間から冒険者ギルドで酒を飲んでいる冒険者が多いのは何故だろうと思ってはいたが、それもそのはずだ。こんなに稼ぎの良い仕事が転がり込む可能性が高いのなら、毎日汗水垂らして働くの馬鹿らしくなる。特需というやつなのだろう。


 日本の円安だって、輸入企業にとっては採算の悪化だが、輸出企業にとっては採算改善だ。化け物が街を襲うということも、冒険者にとっては特需なのだろう。昼間っから酒を飲みながら、化け物が街を襲うことを心待ちにしているのだろうか。でも、それにしては冒険者はサイクロプスが街を襲うということを聞いたら、かなり意気消沈していた。もしかして、冒険者って、安全に楽してお金を稼ごう、一攫千金を狙おうとか、そういう輩の集まりなのではないだろうか。マカイラスさんやトクソさんは真面目に訓練とかしているようだから、冒険者全部がというわけではないでしょうけど。


 そう考えてみると、この世界に召喚された勇者も、魔王を本気で倒そうとしたのか疑わしい。だって、魔王を倒したら、勇者は即失業ということになる。そんなことをするだろうか。一番ベストなのは、五分五分の戦いをずっと繰り広げ、勇者という需要を喚起しつづけることだろう。

 私の世界でも、地上が完全に平和になったら、兵器会社は倒産してしまう。兵器会社の人は、常に地球のどこかで戦争がないと食うのに困ってしまうわけだ。勇者という存在も同じだろう。


 私は、エールを2杯注文して受け取り、マカイラスさんの座っているテーブルに座る。


「今日は私がご馳走するから、好きなだけ飲んで良いわよ」とマカイラスさんに言う。


 マカイラスさんは、その話を聞くと嬉しそうに私の持ってきたコップを受け取り、一気に喉に流し込んだ。

 大体の人なら「ご馳走になります。それにしても仕事の後のビールは最高だ」とか言いそうだが、マカイラスさんは「こんなちっさい器じゃ、どれだけ飲んでも足りないぜ。樽で持って来てくれ」とか言い出した。遠慮ってものがないな、と彼の豪快さに私は思わず笑ってしまった。

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