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31 魔王討伐、そして……

「やっと終わったわね」と私は、冒険者ギルドの丸テーブルに座り、エールを飲みながら言う。全身骨格作成チームに配属された私は、街の広場に飾るサイクロプスの骨格と、王様に贈呈する骨格を作り上げた。肉をそぎ落として骨だけにするという作業も火傷をして大変だったけれど、骨に鉛を塗っていくという作業も、過酷な作業だった。製鉄所で、炎炎と燃えさかる釜のなかに、石炭をスコップを使って投げ入れていく作業をしているような気分になった。火魔法で溶かされた鉛も熱いし、それを刷毛ハケで骨に塗っていくという作業はかなりきつかった。刷毛ハケの毛がよく鉛の熱で燃えたり、ちりぢりになったりしないなぁ、と感心したけれど、冷静に考えると鉛って人体に対して有害だった気がして、こんな作業をしていて私は大丈夫なのか、という疑問が頭を過ぎり、背筋が寒くなったものだ。


「ああ、終わったな」とマカイラスさんが疲れ気味に返答をした。マカイラスさんは、ずっと、サイクロプスの死体を人が運べる大きさに切断をするという役割をしていたらしい。匂いがきつくなってきた中での作業など、精神的にきつかったと思う。彼の頬も、心なしかげっそりとしている。

 エールを飲んだ後、彼はより一層渋い顔をなる。エールが特段、キレがあるという分けではないから、別の要因で渋い顔をしているのだろう。仕事終わりのビールは体に沁みるなぁ、という発言をするほど私は歳をとっていないけれど、エールは体に沁みる。赤ワインは、サイクロプス達のあの光景が脳裏に浮かび上がってくるから、暫く飲みたくない。いや、もしかしたら一生飲めないかも知れない。


「無駄働きだったわね」と、私は言う。都市防衛クエストやサイクロプスの死体の片付けとかで、拘束時間が長かった。その拘束された時間、鳥の捕獲依頼を受けていたら、それなりの収入になっていただろう。それに、精神的なダメージも受けた。


「まったくだ。国からの手当も雀の涙だったしな。依頼の報酬と比べたら泣きたくなるほど低いしな。こんな最悪な依頼は久しぶりだぜ。もう、飲まねぇとやってられねぇ」とマカイラスさんが言う。


「え? 国からの手当? そんなのが出てるの?」と私はマカイラスさんに尋ねる。タダ働きかと思っていのは、私の勘違いだったのだろうか。


「都市防衛クエストって、あの野郎も言っていただろうが。一応、依頼って形なんだよ。魔物を討伐したとしても、普通の討伐依頼と比べて報酬も低く設定されているし、死体の片付けなんざ、直接的には命の危険が伴わないから、一日の手当が、エール5杯分程度だったけどな。って、モニカ、そんなことも知らなかったのか? 今日、ギルドの受付に長蛇の列が出来ていただろ? あれは報酬を受け取るために並んでいたんだぞ? あんなに長蛇の列ができるなんて、何事だろうかと、疑問にも思わなかったのか?」と、マカイラスさんから逆に質問を返される。そういえば、冒険者ギルドの外まで、冒険者の行列が出来ていた。何事だろうと一瞬疑問に思ったのだけれど、早く宿に帰ってシャワーを浴びたかったから何も尋ねなかったし、シャワーを浴びた頃には、そんな些細なことはすっかり忘れていた。


「タダ働きかと思っていたわ」と私は言う。


「手持ちの金が心許ないのなら、受付に行けば、報酬を貰えるぜ。今日はモニカのおごりで飲むなら大歓迎だ」とマカイラスさんは笑った。


「いや、それはないわね。じゃあ、報酬を受け取ってくるわ」と言って、私は席を立つ。マカイラスさんには、おごらないと言うようなことを言ってしまったが、エールをご馳走した方がよいのかなぁと受付へと歩きながら迷う。サイクロプスが勝手に死んだから、私がこの街から逃げるという状況にならなかったけれど、もしサイクロプスとの戦闘になって、そのどさくさで私が逃げ出すということになっていたら、どうなっていただろう。

 北の城門で私達がサイクロプスを待ち構えている時、マカイラスさんは私のいる場所などを確認してくれていた。彼が、「お前が逃げる血路くらいは切り開いてやるよ」と言っていたし、それを本当に実行しようとしていてくれたのだと私は思っている。サイクロプスとの戦闘になっていたら、どうなっていたかなんてことは分からない。だが、彼には、私のために血路を開いていてくれたような気がする。

 彼に、今日くらいはエールを奢ってあげよう、浴びるほどに、と私は決めた。どうせ、明日からまた鳥の採取依頼をしていけば、生活していく分の収入は確保できるのだし。

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