3 チュートリアル
「ねぇちょっと、なんか突然鳥居の所に戻ってきたのだけれど。どういうこと? おかしくない?」と私は巫女風の女性に声をかける。
「ぐすっ。ここはチュートリアル用の空間なんです。鳥居からある程度離れると強制的に鳥居の下に戻されます」と彼女は訳の分からないことを言う。
「チュートリアル? 使用方法とかを説明するチュートリアルよね?」と私は問いかける。彼女の発言はどうも的を得ないし、イライラするのだけれど、とりあえず話を聞くことにする。
「はい。これから行かれる世界で魔王を倒すための基本事項を説明するんです。ここは、その説明のための場所なんです」
「はいはい。それで?」と私は彼女に話の続きを促す。魔王を倒すとか何を言っているのやら。シューベルトのパロディー曲でもあるのだろうか。子供は医者の所に間に合いました。そして病気を治し、お父さんと一緒に家に帰りました、めでたし、めでたしとか? 阿呆らしい。
「まず、ステータスについて説明します。『ステータス画面』と言ってもらってよろしいですか? もしくは『ステータス画面』と頭の中で思い浮かべるだけでも結構です」と彼女は言う。
「ステータス画面」と私は言った。
わぁ、なんだこれ? 私の頭の中に数値とかが見える。視界の中に見えてはいないのに、何が書いてあるかはっきりと見える。目に映っていない筈なのに見える。なんか気持ち悪い。
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名前:モニカ
レベル:1
職業:会社員(経理)
魔法属性:未選択
体力:30
魔力:5
スキル:普通自動車免許
日本商工会議所簿記検定1級
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何これ?
「ご覧になれましたか?」と彼女は聞いてくる。
「うん。名前がモニカだとか、レベルが1だとか、そんなことが書いてあるわよ」と私は答える。
「それが貴女のステータスです」
「私の? でも私、モニカなんて言う名前じゃないわよ。おもいっきり外人の名前じゃない」
「あっ、すみません。モニカは私が勝手に命名しちゃいました。慌てていたのでうっかり名前をつけちゃいました。すみません。貴女が行く世界では、貴女の名前はモニカとなります。ご了承くださいますようお願いします。モニカさん」と彼女は言った。
「よろしくね。ところで貴女のお名前は?」ととりあえずこの人との会話のキャッチボールを成立させることを優先する。心の中では、なに人の名前を勝手に決めているのよ、と思っているけどね。
「巫女と申します」と彼女は言った。巫女って、職業じゃん。全然名前じゃないし。なんなのよ。でも、大人な対応しなきゃね。
「巫女さんね、初めまして。それで、次は何の説明をしてくれるの? チュートリアルの続きよね?」と私は聞く。