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24 都市防衛クエスト

 城壁の門の所には、いつもの兵士2名が立っている。私が最初に街に着いたときや、採取依頼のために門を出入りしても、ブリキの人形のように動かない兵士達だ。素通りできそうだ、と思う。


 私は、何食わぬ顔で門を通ろうとし、門に近づく。


「ここは通行禁止だ」と左側に立っている兵士が言った。あ、この人達、喋れたんだ。


「え? 通行禁止。どうしてなの? あ、いつも、お礼を言いたかったのだけれど、お仕事の邪魔しちゃ悪いかなと思って、言えなかったの。いつも、街の安全を守ってくださってありがとうございます。貴方たちが門を守ってくれていると思うと、安心して枕を高くして寝れるというものだわ。そういえば、三流宿の女の子や、冒険者ギルドのお酒売りの子とかも話したのだけれど、南門の兵士さん達が、一番かっこいいって言ってたわよ。握手してもらいたいなぁ、抱いてもらいたいなぁって、頬を赤く染めてたわよ。街を守る男、とても格好いいわよね。じゃあ、私はこれで」と、私は言った。嘘八百を並べてしまっているが、仕方ない。


「お前、何を言っている? 門の見張りは、当番制だ。東西南北の門を交代制で警備している。南門に常駐している兵士などいないぞ」と右側の兵士が言った。


「……」

 私は、何も言えず黙り込む。

 

「あ、いや。今日、聞いた話だから、今日の南門の当番ってことじゃないかしら? モテる男達は辛いわね。それじゃあ、私は採取依頼を早く終わらせたいから、これにて失礼つかまつるわ」と私は門を通ろうとする。


「ここは通行禁止だと言っている。それに、言っておくが、三流宿の受付は、俺の妹だが?」と、左側に立っていた男が言う。


「……」

 私は、何も言えず黙り込む。


「じゃ、じゅあ、貴方に三流宿のあの子は恋しているってことなんじゃないのかしら? お兄さんならそれくらい分かるでしょ」と私は、右側に立っている男を指さして言った。


「ふっ、それも残念ながらないな。俺も良かれと思って2人を引き合わせたんだが、どうやら妹の好みに合わなかったようでな。なあ? 」と左側の兵士が言った。


「あまり他人にそんなことを漏らすな。まだ引きずっているのだ」と右側の兵士が言う。


 いやいや、世間は狭いとは良く言ったものだ。まったく。ってか、そんな細かい恋愛事情かなんか知るかって感じよ。


「とりあえず、私は、採取依頼に出かけるから通して」と私は言う。


「通行禁止だ。お前は、冒険者のモニカだろう。都市防衛クエストが発令されている筈だから、冒険者ギルドで確認してこい」と右側の兵士が言った。


 既に、顔と名前が割れてしまっているのね……。本当に世間って狭いわ……。


「じゃあ、とりあえず、採取依頼をさっさと終わらせて、受渡ついでに都市防衛クエストを確認するわ。それでいい?」


「いや、駄目だ。ここは通行禁止だ」


「……」


 私は、黙って来た道を引き返した。


 ・


「おい、何処行ってたんだ?」とマカイラスさんが言った。


「化粧直しよ」と私は言う。もちろん、嘘だけど。


「嘘付け。逃げようとして逃げられなかったのだろう。まぁ、生き残ろうと必死になることは良いことだ」とマカイラスは言った。ばれているらしい。ただ、私の分のエールは、手つかずで残っていた。マカイラスさんは意外と律儀な男なのかも知れないと思った。


「まぁ、どうでもいいじゃない。それより、私、どうすれば良いと思う? 悪いけど、戦いとか無理だわよ」


「必死に逃げ回れ、としか言えないな。サイクロプスの鉄棒も危険だが、口から奴らは炎を吐く。鉄を簡単に溶かす程の高温の炎だ。距離を取って逃げ回る、それしかないだろうな」とマカイラスは言った。


「私はそれでいいのだけど、貴方はどうするのよ? 退治してくれるのでしょう? 」


「一匹はな。死力を尽くして2匹だな」とマカイラスさんが言った。


「そもそも大群って、何匹くらい来るのよ?」


「さぁな。その情報は入っていないが、むれで行動しているとしたら、100から200だろうな」とマカイラスさんが言った。


「それを全部、退治できるの?」


「それは分からない。魔王も本気でこの街を潰そうとしているのだろう。前々回、前回の襲撃で、冒険者の戦力も減少の一途だからなぁ。サイクロプスまで出てきたとなると、魔王は本気でこの街を壊滅させるつもりなのだろう」とマカイラスさんは言う。


「壊滅って……。 サイクロプスってのは、何が目的でこの街を襲うの? 魔王も。この街って、そんなに重要な街なの? 城壁とかは立派だけど。サイクロプスは、お腹いっぱいになったら帰るとか、そんなことはないの?」と私は聞いた。


「お前なぁ、もしかして、この街の別名を知らないのか?」とマカイラスさんが言う。


「知らないわ」と私は答える。別名どころか、街の正式名称も知らないけどね。


「この街は、『始まりの街』と言われている。何故だが分かるか?」


 私が知る由もない。私は黙って首を横に振った。


「魔王を倒す存在というのは『勇者』と言われる存在だ。強大な魔力、強靱な肉体を持った、俺からしたら化け物のような存在だ。魔王をあと少しで討ち取れるというところまで追い詰めた『勇者』もいるらしい。それら『勇者』には不思議な共通点があるのだ。それが何か分かるか?」とマカイラスさんは私に聞く。

 それも私には分からない。私は再び首を横に振る。


「『勇者』と呼ばれる存在は例外なく、この街で冒険者登録をしているということだ」


「はぁ? なんで?」と私は大声で聞く。


「俺も何故だがは分からん。何人もの『勇者』を見てきたが、突然、何もないところから沸いたように突然現れやがる。あれだけ力を持っていたら、噂くらいは聞こえて来るもんだが、本当に突然現れやがるんだ。しかも、この街に」とマカイラスさんは言った。


 うん、たぶん、それ、巫女が原因だわ。『勇者』が何処の誰だか知らないけれど、おそらく巫女に召喚された人達だろう。

 振り返って見ると、私がこの世界に呼び出された地点は、この街が見える場所だった。他は森とか山とかばっかりだから、無意識に街の方向へと足が向くのは自然なことであろう。それに、お金も渡されているし。つまり、お金が使える場所、人のいる場所へと、自然と足が向いてしまうだろう。巫女からも、「そこから見える街を目指されることをお薦めします」なんてさりげなく誘導された気がする。私自身も何の違和感も感じずにこの街へと向かった。おそらく、召喚された『勇者』も同じように街へ向かったのだろう。

 私は、仕事を探すために冒険者ギルドに登録したけれど、巫女に召喚されて、ノリノリで魔王を倒すということに同意したならば、冒険者に登録することは自然な流れだ。

 あぁ、全部巫女のせいだ。

 この世界に人を召喚する場所というのが、たぶん、私が最初に召喚された場所と、指定されて決まっているのだろう。あの巫女のことだから、チュートリアル後はこの場所、なんてお決まりパターンに従っているだけで何も考えていなさそうだ。

 『始まりの街』という別称がついているくらいなのだから、勇者が現れる場所としてかなり有名なのだろう。魔王の立場からしたら、看過できない事態だろう。もしかしたら、『勇者』が巫女に召喚された人達ということを知っているのかも知れない。いや、知らなくても、勇者が現れる『始まりの街』だなんてことを耳にしたら、問題が大きくならないうちに火消しするという意味でも、この街をつぶしにかかるだろう……。この世界に慣れる前に殺しておこう的な発想。とても合理的だ。私が魔王でも、『勇者』が召喚されるポイントを特定して、その周辺に地雷でも埋めて、早期抹殺を計るだろう。

 巫女って、本当に魔王を倒す気があるのだろうか……。魔王に手の内、ばれてるじゃん……。


「モニカ、そう思い詰めるな」とマカイラスさんが言う。


「あ、ごめんなさい。すこし考え事をしていたわ。つまり、魔王が狙っているということは分かったわ」と

私は言った。


「魔王の侵攻も、『勇者街道』を遡り、ついにはこの『始まりの街』にまで達したということだ。完全に我々は劣勢だ。この街が落とされたら、線の攻撃から、面の攻撃へと魔王も移行するだろうな」とマカイラスさんが険しい顔で言った。


「ん? 『勇者街道』って?」と私は聞く。それに、線の攻撃から面の攻撃という意味も分からない。


「お前、『勇者街道』も知らないのか。この『始まりの街』の街エイラトから、ブノン、タマル、ティルス、シドン、エブラ、アルバドと続く街道だ。アルバドが、魔王の城への拠点に最も近い最前線だ。つまり勇者の旅は、このエイラトから始まり、アルバドで最後の戦いの準備を整え、魔王城へと向かうのだ。それを『勇者街道』と、皆呼んでいるのだ。半年前に、既ににブノンが落とされ、『勇者街道』の最後、この『始まりの街』が残るばかりといういうことだ」とマカイラスさんが説明してくれる。


 なるほど。予想するに、『勇者』と呼ばれた人達は皆、寄り道をせず、最短経路で魔王城へ向かう傾向があるようだ。たぶん、魔王城への旅への拠点となる、私から言えば不幸な街が、その『勇者街道』と呼ばれる街なのだろう。


「ねぇ、もしかして、線の攻撃から面の攻撃って言ってたけど、現状では『勇者街道』を遡るように魔王から攻撃をされているから、線の攻撃ということ? 例えば、アルバドって街の隣接都市は無傷だったりとか?」と私は聞いた。


「その通りだ」とマカイラスさんが言った。


 なるほど。完全に、魔王は、勇者の出現地点を把握し、その進路も把握しているということだ。そして、それをピンポイントで攻撃してきている。隣接都市に脇目を振らず、『勇者街道』を潰してきていることに、戦略性を感じる。一方で巫女は、勇者の召喚地点をワンパターン化して、何も考えていないのだろう。

 別に私には関係ないけど、この街が壊滅されたら、『勇者』は、召喚されたらその瞬間に、魔王軍からの一斉攻撃を受ける、というような状況に近い将来なってしまうだろう、少なくとも魔王はそれを意図して攻撃をしているように思う。


「逃げることが出来ないなら、戦闘中にどさくさ紛れに落ち延びるしかないわね」と私は言った。


「それが現実的だろうな。冒険者は、逃げないように戦闘前の点呼がある。その点呼が終わってから逃げるというのが良いだろうな」とマカイラスさんが言った。


「点呼があるなんて、徹底しているわね。貴方も逃げる気なの?」と私は言う。だって、どこに逃げ落ちればいいか、私は分からないし。闇雲に逃げても、恐らく無駄だろう。案内してくれる人がいるなら心強い。


「いや、俺は最後まで戦う。冒険者として多くの場所を旅したが、やっぱり故郷が一番だと思ったからな。親とは喧嘩同然でこの街を飛び出しちまったが、結局、この街に帰ってきちまったしな。これも何かの縁ってやつだ。土に帰るなら、故郷の土に帰りたいって思う。まぁ、お前が逃げる血路くらいは切り開いてやるよ」とマカイラスが笑顔で言った。

 

「良く分からないけれど、ありがとう。もう一杯奢るけど、飲む?」と私は言った。ちょっと、彼の発言にドキッとしたのは、私の秘密。


「いや、俺もこれから訓練だ。お前も、明日はずっと走ることになるのだから、ゆっくり休んでいろ。あと、荷物は最小限にな。間違っても、いかにも夜逃げしますってような格好でくるんじゃねぇぞ」と言って、マカイラスさんは「酔い醒まし」を口に放り込んだ。


「明日は、6時に、北門だったかしら?」と私は確認の意味で言った。


「あぁ、そうだ。寝坊して点呼に遅れたら、晴れて第一級犯罪者だ」とマカイラスは笑って言った。


「目覚まし時計、本当に売っていないかしら。携帯の充電も、どうやらできないみたいだし」と私は冗談で言った。しかし、この冗談の面白さが、マカイラスには上手く伝わらなかったらしい。別にいいのだけれどね。


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