17 都市防衛クエスト
ギルドの裏は広い空き地になっていた。学校の校庭のような幅の広い平地となっていた。その空き地の中では、案山子のようなものに向かって弓を放っている人、チャンバラをやっている人達、プロレスをやっている人達など、数十名の人が思い思いに何かをやっている。
「モニカ、とりあえずお前の実力を見せてもらうぞ」と言って、マカイラスさんは私に木の棒を投げてよこした。私はそれを両手でなんとか受け止める。
「え? これで何をするの?」と私は聞く。私が受け取った木の棒、木刀のように見えなくもない。嫌な予感がするんですけど……。
マカイラスさんは私の問いかけには答えず、私から距離をとっていく。
私から8メートル程離れた地点でマカイラスさんは私の方を向いて木刀を構えた。
「それじゃあ行くぞぉ。一応、手加減はするつもりだ」と言うなり、全力で私に向かって突進してくる。剣も振り上げてるし。恐いって思っている間に、マカイラスさんは既に私のすぐ間近にいて、私に向かって剣を振り下ろしてくる。
「うぎゃぁぁぁ。助けてぇ」
私は叫び声をあげながら、両手で自分の頭を守るようにして地面にしゃがみこむ。
少しの静寂の後、マカイラスさんが声を掛けてきた。
「おいおい。流石にそれはないだろう。俺がお前を強姦しようとしたみたいじゃないか」と言った後に、大声で「これは訓練だ。新米冒険者の奴に訓練つけてやろうと思ったんだが、この様でよ」と言ってる。
私も顔を上げて周りを見回すと、空き地にいた人達が私達の方を見ていた。どうやら、注目を集めてしまったらしい。恥ずかしい意味で……。
「おいおい、マカイラス。流石に、こいつは新米未満だぜ。ヒヨコどころの騒ぎじゃないな。卵だな。それも中身の腐った卵で、孵ることもない。かと言って、食ったら腹を壊してしまう。腐った卵。そんな感じに見えるぜ?」と、弓を持った男がマカイラスさんと話をしている。
腐った卵って、私のこと? それ言い過ぎじゃないの? と言い返そうと思い立ち上がったが、どうも腰が抜けてしまったようで、お尻が接着剤で地面とくっつき離れないようになっている。
沈黙の中でマカイラスが私に手を差し伸べてくれて、私は彼に引っ張られるように起き上がる。
「まぁ、駆け出しなんてこんなもんだな」とマカイラスがため息交じりに言った。
「駆け出しだろうが、古参だろうが、命に区別はない。もしこれが本当の戦いだったら、俺はこいつの心臓と眉間と首に既に矢を命中させている。それに、だめ押しということで、右足か左足にも逃げられないように矢を放っているだろうな……」と弓矢を持った人もため息交じりに話をする。
「いや、こんなのはっきり言って私には無理よ。そもそも、筋力が違うじゃない。鍔迫り合いですぐに吹き飛ばされてしまうわ」と私は言う。
「その通りだな。はっきり言って、敵に剣の間合いに入られたら、即死亡だろう」とマカイラスが言う。短い付き合いだが、彼が事実を言っているということはなんとなく分かる。
「いや、その前に、俺の視界に入った時点で死んでいる」と弓矢を持った男は言った。
「……」
私は、何も言えない。現に、マカイラスに体を支えてもらっているから立っていられるようなもので、私の膝はマラソン完走後のようにガクガクと震えている。
「まぁいい。今日は、あっちで見学でもしていな。トクソ、せっかくだから訓練に付き合え」とマカイラスが言った。そして、弓矢を持った男も頷く。彼の名前がトクソと言うのだろう。




