14 冒険者ギルド
買い物も一段落したので、採取依頼の現場の下見に行くことにする。宿の子は、あまり街から出たことがないらしく、アナウサギがいる場所をよく知らないらしい。仕方が無いのでギルドに行くことにする。
「もう依頼を達成したのか?」と私がギルドに入って来るなり、例の茶髪男が私に声をかける。完全に私をからかっている。それにしても、この男、まだギルドにいたのか。私は彼を、正真正銘の暇人に認定した。
「そんな訳ないでしょ。まだ2時間も経ってないじゃない」と私は答え、足を受付に向ける。
「ねぇ、アナウサギを捕まえに行くのだけど、どこにアナウサギはいるの? もしくはヨモギやオオバコがたくさんある所でもいいのだけれど」と私は受付に聞いた。
「私には分かりかねます」と受付は無表情で言った。
「え? なんで? だってこのギルドの依頼でしょ? 依頼しておいてそれは流石にないでしょ」と私は抗議めいたことを言う。依頼を出しておきながら、アナウサギの生息している場所が分からない。どんな管理をしているのだろうか。会社では、こんなギルドの受付のことを、丸投げ野郎というのだ。
「申し訳ありません。本当に分かりかねます」と受付は頭を下げる。
深く頭を垂れた彼の姿は、これ以上何を言っても話は進まないということを表しているように見える。
「おいおい。新米のくせにいきなり受付に絡むってのは、あまりいただけないぜ」と後ろから声がする。聞き覚えのある声。茶髪マッチョ男だ。
「貴方には関係ないじゃないの」と私は振り返って彼に言う。
「ああ、俺には関係がない。しかし、これだけは教えといてやる。ギルドの依頼ってのは、採取をするだけが仕事じゃねえ。それが何処にあるか、それを探すことから仕事なんだぜ? アナウサギがどこに生息しているか、ヨモギやオオバコがどこに群生しているか。それを効率よく調べるのも冒険者の腕前ってことだ。ギルドに聞くってのも、新米にしては良い発想だが、ギルドは冒険者に対して公平であるべきという鉄則がある。たとえ知っていても、それをお前に教える訳にはいかないんだよ。分かったか?」と茶髪マッチョ男は両手を腰に当てて言った。
「そういうことだったのね。ヨモギやオオバコの外観を教えてくれたから、ウサギが何処にいるか当然知っているし、教えてくれるものとばかり思っていたわ。ごめんなさいね、声を荒げたりなんかして」と私は、茶髪マッチョ男にも聞こえるように受付に謝罪する。そういう事情があるならそう言ってよ、という心のわだかまりが少し残るが仕方ない。
「貴方も教えてくれてありがとう」と言って、私はギルドの出入り口に向かう。
「おい、どこ行くんだよ」と茶髪マッチョ男が私を呼び止める。
「何処って、アナウサギの巣穴を探しによ。穴を目印に草原を探せば、巣穴がわかるでしょ」
「そうか……。普通は、他の冒険者から情報収集して、大まかな位置を把握したりするものなんだがな。場所によっては、穴があってもそこには蛇しかいないぞ」と茶髪マッチョ男は言う。
「そう。じゃあ、貴方がどこに生息しているか教えてくれるの?」と私は振り返って言う。
「あ、ああ。まぁいい。西に行け。俺の足で30分歩いたところに大きなアナウサギの群が住んでいる場所がある。その辺りはヨモギとオオバコもたくさん生えているからすぐ分かるはずだ」
「ありがとう。下見してくるわ」と言って、私はギルドを出て、そのままその足で、愛想のない番兵の横を通り、西へ向かった。




