13 冒険者ギルド
この街の景観を眺めながら宿屋へ向かう。18世紀くらいから街の発展がストップしたヨーロッパという感じだろうか。石畳の道ならもっと良い雰囲気になるのにと少し残念に思う。
縦横の大きな道が交差する中心に広場が見えて、広場の中心に4、5人ほどの人がいる。何をしているのかと思えば、井戸で水を汲んでいるようだ。釣瓶式の井戸のようで、江戸時代かよ、いや、ヨーロッパだから中世かよ、なんて思ってしまう。広場の中心って、噴水があるイメージだけど、井戸だった。観光気分も少し興ざめして、そのまま歩いて行く。
横目で井戸で水を汲んでいる人達の服装を見る。一言で服装を表すならば、アルプスの少女ハイジが着ているようなディアンドルだ。それも、赤とか緑とか煌びやかな色ではなく、紺や黒を基調とした地味な感じの服。伝統的な祭やハレの日に着る感じではなく、普段から着ているような印象を受ける。あんな格好がこの世界の普段着なのだろうか。
テーブルに座っていた人達も、茶色や黒色の全身マントを着ている人達が多かった。巫女が言ったように、ビジネススーツでは浮くなぁ、と実感をする。ヨモギやオオバコを採取したりするし、草によっては手を切りやすい草もあるから、厚手の生地の長ズボンと長袖を買った方がいいな、と思う。それに、軍手は必須かな。
そんな服装の事を考えていたら、宿屋に辿り着いた。看板に『三流宿』と本当に書かれている。建物は石造りで、藁の屋根の荒ら屋みたいなのを最悪の場合として想定していたから、想像よりはマシな建物だと思う。それよりも『三流宿』という名前が気にくわない。まるで宿泊する私が三流なようではないか。もっと名前を考えればいいのにと思う。まぁ、一流宿、二流宿、三流宿で料金設定が違うし、すごい分かりやすいんだけど、気分的に三流だと言われてるようで癪に障る。最初は宿暮らしは仕方ないけど、落ち着いたらマンションとか借りてそこで暮らそうかしら。その方が逆に安く上がりそうね、なんて思う。
「いらっしゃいませ」と宿のエントランスの奥にある受付から声がする。20歳に満たないくらいの女の子が笑顔で立っていた。顔立ちが綺麗な女の子だなぁと思う。両頬と鼻にあるソバカスが、逆に素朴で純粋な印象を与えてくれる。
「こんにちは。冒険者ギルドでさっき宿を取ったのだけど」
「では、ギルドカードのご提示をお願いします」と言われたので私はギルドカードを渡す。
「モニカ様ですね。承っております。何泊されますか?」と後ろの棚から彼女は鍵を取って、カウンターの上に置いた。
「とりあえず10日お願い。もしかしたら延長するかも知れないけれど大丈夫?」と私は聞く。
「可能だと思います。最近は冒険者が減ってしまったので、宿も空いてますし。念のために、延長されるかしないかを前々日くらいにお伝えください」と宿の女の子が言う。
「あら、冒険者が減ってるの? やはり危険だからかしら?」
「危険だということは昔から変わりません。しかし、三流宿に泊まるような冒険者の方が、宿に戻ってこないことがおおくなったんです」と深刻そうな顔で言う。
「それはつまり、亡くなったということかしら?」
「はい。荷物が残された状態で、しかも1週間、2週間戻られないとなると……」
「それは悲しいことね」と私は言った。茶髪マッチョ男の絡み方といい、大体予想は出来ていたが、経験が浅いものから死んで行くということなのだろう。私も、危険な仕事は全力で避けなければと思う。
「モニカさんも、くれぐれもご自愛ください」と宿の子が言う。この子、すごく良い子ね。
「もちろんよ。私だって自分の命は惜しいわ。あと、さっきから気になっていたのだけれど、この先にあるのは食堂のようだけど、宿泊料金にご飯はついているのかしら?」と私は聞く。
「朝食のみ料金に含まれております。前日までに申し込んでいただければですが。明日の朝食からお出ししましょうか?」と聞かれたので、お願いしておいた。冒険者の手段は朝が早いようで、朝4時から用意されているそうだ。宿の人、睡眠時間が足りているのだろうか?
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鍵を受け取り、部屋の中に入る。私の部屋は、4階の大通りに面した場所だった。部屋にはベッドとクローゼットがあるだけ。トイレとシャワーは別。少し心配をしていたのだけど、トイレは水洗だった。ウォシュレットはないみたいだけど。シャワーもお湯がちゃんと出る。出張で使うビジネスホテルと同じ水準かなと思い、少し安心をする。
ただ、ベッドが硬かい。布団半分くらいの薄さで、ベッドマットなどなく布団の下は木張りだった。しかもよく見ると枕もないし。こんなベッドで寝ると、次の日腰が痛くなってしまうだろう。
ちょっといろいろ疲れたから少しだけ寝ようと思ったけれど、パジャマもないし、スーツのまま寝てしまうと皺ができる。まずは、服を買いに行くことが先決だと思う。
服屋に行くついでに、受付の女の子に布団をあと3枚欲しいと言ったら、予備があるか確認しておきますとのことだった。ただ、枕は自分で探してくれとのことらしい。
私は、服屋に行き、店員さんのアドバイスを聞きながら依頼が出来るような服装を銀貨5枚で買った。買ったものは、長ズボン、長袖、全身マント。そして下着諸々とパジャマを買った。




