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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。

さぁ 恋を始めよう 2

作者: マイン
掲載日:2026/05/23


 僕の名前は松戸拓哉まつどたくや

 3年くらい前に報道番組のキャスターとして抜擢され、その頃からじわじわと色々な番組にも出して頂けるようになり、

先日の雑誌アンケート『イケメンだと思うアナウンサー』第一位と、10代から70代の女性に聞いた街頭調査『好きなアナウンサー』第一位を頂いた。


おかげさまで本当に仕事は充実していると思う。



今年で29才。

順風満帆に過ごしてきたツケが今…回ってきたとしか思えない。



人に話した事は無いけど…

僕には『運命の赤い糸』ってのが見える。


 物心付いた時にはすでに見えていたと思うし、人間の足には『糸』が付いている物だと思っていた。

 それが俗に言う『運命の赤い糸』だと分かったのは、両親にも『糸』が付いていてそれが繋がっていた事と、僕の周辺の大人にも繋がってる人が沢山いたから。

 子どもだったからか、何の疑問もなく…すんなりそういう物だと理解した。


恋人同士や夫婦になる人は『糸』で繋がっている。


同時に、昔から空気を読むのは得意だったから、『赤い糸ってさぁ』と発言した時の周りの反応が

『ロマンチック〜』

『えー意外!!赤い糸の伝説知ってるの?』

と女子にワーワー騒がれ、その時のリアクションが見えてなさそうだった事から、『赤い糸』ってのは、僕にしか見えない物なのだと悟った。

 それ以来、『赤い糸』の話を人前でした事は一度も無い。


 僕が見ている『赤い糸』。

 よくイラストで見かける手の小指に絡んだものとは違って、足先から伸びている。


 蜘蛛の糸のように細くて繊細な『糸』もあれば、ピアノの弦のように強くて丈夫そうな『糸』もある。

 多分…太い糸は絆が強くて、細い糸はこれから太くなっていくのかもしれないね。


誰にも確認した事がないから、確実な事じゃないけど…何となくそう思えた。

中には『糸』が繋がってない夫婦やカップルもいる。

 それぞれの『糸』が別の方向へ向いているのに、どうして結婚するんだろう?って不思議に思うような人達もいる。


まぁね…みんな『赤い糸』が誰と繋がっているのか分からないのだから、間違える事もあると思う…

そういうのを見ちゃうと、オレはラッキーだと思っていた。

最初から『糸』が繋がっているのが解っているのだから、実に効率的。

間違いなく、確実な方法。

『ロマンチック』には程遠い、超現実主義者だと思うけど…

オレの『赤い糸』が一体…誰の足に繋がっているのか、想像するだけでワクワクしていたし、夢も見ていた。



なのに………



僕の足先から真っ直ぐに伸びた『運命の赤い糸』。


どうして…

目の前の男に繋がってるんだ?!




どういう事だ?

チョット待って?!

職業柄アーティストの人とも取材を通して会う事が多いから、仕事関係かな?とは考えていた。

確かに、仕事関係だ。

予想通り、アーティストの人だ。


でも…男だ。


 彼の名前は、『3104』(さとし)。

『Flower』のバズリで、一躍時の人となった話題の人物。

 昨日から散々見ていた彼の資料には、若い頃から歌の才能やダンスの才能を認められ、沢山の舞台に出演している事。

テレビへの露出が少ない事が書かれてあった。

 昨今歌番組が少なくなっている中『Flower』はファンの地道な拡散から始まって、一気に花開いたらしく、根強いファンがいる事を知った。

 そんな彼の、初めてに近いテレビへの露出がウチの番組である事を嬉しく思う。

その時に、彼の歌も聴いたけど確かに上手いと思った。

取材出来るのが楽しみだと思った…


でも…

『赤い糸』の相手とは思わなかった。

ってか男って…アリなの?!


ないないないないないないない・・・ないだろう。


「よろしくお願いします。」


 目の前で、綺麗なお辞儀をする男を見てハッとする。

仕事中だ…!何やってるんだ!!

 自分に喝を入れ直す。

あまりにも驚いた為に、現実を逃避していた。

オレは今日、この人『3104』にインタビューして多くの人に彼の存在を知ってもらうのと、新たな魅力を引き出し視聴者に伝えるのが目的なんだろ?!

視聴率絶対に良いぞ!ってスタッフの期待もかかってる…しっかりしろ!


「初めまして。今日…取材をさせていただく松戸拓哉と言います…」


営業スマイルを浮かべて、何事も無かったように手を差し出す。

でもやっぱり気になる…チラッと目線が足下に向く。


間違いなく…繋がってる……



「さとしです。」


再び顔を見ると、彼は柔和な笑みを浮かべていた。

そして…僕の手を取った瞬間、キュッと目をつむり、小さな音がした。

何故か…目を大きく開け、驚きの表情を浮かべている。


「どうかしました?」


…静電気?

バチッと音がすることもあるアレは痛いらしけど、自分はなったことはないから良くわからない。

それよりも『糸』だ。

平常心を装いつつも、頭の中は疑問符だらけだ。

どうして男の彼に『糸』が繋がっているんだろう…

もしかして……『さとし』は女の子?!


「今回のインタビューでは『Flower』のミリオンヒットと今後の活動をふまえて、さとしとは…に迫って行きたいと思っているのですが……さとしさん?」


言いながら、さり気なく顔を覗き込むと、見る見る真っ赤になってしまった。


「あっ……はい!何でしょう」


「いや…緊張されてますか?」


おかしい…

どう見ても男だ。

骨格は男性の物だし…のど仏もある。

性転換している人も確かにいるけど、骨まで変える事は出来ない。


「うっ……そんな事…ない…で…す。」


しどろもどろな言い方に、少し潤んだ瞳。

小さく動く、艶やかな唇に目を奪われて胸がザワザワする。

ない!ない!ない!ない!ない!ない!


あり得ない!!


「しつれいします。どうしました?さとしさん。真っ赤ですよ。すいません。松戸さん…ちょっとだけ、時間下さい。」


ディレクター曰く、さとしの敏腕マネージャーが間に割って入って来た。

おかげで少し助かった。

はっ!…助かったってなんだ?!


「いいですよ。ちゃんとリハーサルしてから撮影しますから、緊張しなくても大丈夫ですよ。さとしさん。」


「う…はい。」


マネージャーに腕を引っ張られて、部屋を出るさとし。

僕の『糸』はズルズルと彼に繋がったまま、伸びてゆく……伸びていってる……



……何でだ?

僕は普通に女の子が好きな、普通の人だよ?

僕とあの人が『運命の赤い糸』で繋がっているって事は、将来は恋人同士になるって事?

病める時も健やかなる時もって、将来を誓い合うって事?


タキシードを着て、二人で指環交換する姿が頭に浮びゾッとする。


確かに『さとし』は男にしては綺麗系だとは思った。

線も細いし、オレより身長は低かったし…驚いた表情を浮かべた『さとし』

瞳がウルウルしていた。

見上げられて…唇が薄く開いていた。

艶々してた唇。


あー何だ?何だ?!

何を可愛いって思っているんだ?オレ!!

それは無いだろう…無い無い。


とにかく…仕事だ。

仕事。


えっと…

ファンのコメントの中に『3104くんは踊るとクールでカッコいいけど、喋ると癒し系』というのがあった事を思い出す。

女の子はギャップが好きらしいから…その辺りを掘り下げて…


確かに…真っ赤になってる所は、SNSからは想像出来なかった…

チョット待て!

こんな風に、段々と彼が可愛いとか綺麗だとか

これは『赤い糸』の作用なのか?!

何で『糸』なんかに振り回されて、男と恋をしなきゃいけないんだ?

冗談じゃないぞ……何としても、抗ってみせる。


そうだよ…

運命は変えられるって、何かの本だったか有名な人が言っていたじゃないか。

何が『運命の赤い糸』だ。

僕が知らないだけで、あの糸が一生同じ人物と繋がっているって保証はないじゃないか。

もしかして…僕が抵抗したら『糸』自身が、相手が間違いだったって気付いて、他の人に繋ぎ直されるかもしれないじゃないか。

やった事無いんだから…試してみる価値はあるだろう。



「申しわけありません。」


しばらくの間部屋を出ていたさとしと彼のマネージャーが、再び部屋に戻って来た。

愛想の良いマネージャーが、頭を下げて彼を促す。


「お待たせしました。もう大丈夫ですので、ビシビシ質問してやってください。」


手招きされて、彼は僕の目の前の椅子に座った。

伸びていた『糸』は自然に巻き取られて、短くなった状態で繋がっている。


「すいませんでした。外の空気を吸ってきたら落ち着きました。」


額をかきながら、さとしは緩く微笑んでみせた。

フニャとした笑顔が素敵だ…


「さとしさんって踊っている時はクールなイメージがあるけど、普通にされていると…癒し系って言われませんか?いや……何でもないです。スイマセン。」


はっ!!一体…何を言ってるんだ僕は…

怖い。

怖すぎるぞ…自分。


「同年代だからさぁ…さとしさんって言われると照れくさいんだよね。」


「えっと…なんとお呼びしましょう?」


チラッと、彼のマネージャーを見ると何故だかうんうんと頷いている。

そっか…そうだよな。

僕は『糸』のせいで先入観があってさとしを見てしまったけど、良く考えたら同年代。

もっとざっくばらんに、話をする事だって出来るはず…


「うーん。呼びすて」


ちょっとだけ眉を寄せて、首を傾げる仕草は小動物を思わせる。

友達…ヤローの友達…

頭の中で何度も反すうする。


「いきなり呼びすては、ハードル高いなぁ〜。じゃぁ…さとしくんってお呼びしていいですか?」


よしっ!

普通に会話出来たぞ。

もう大丈夫…『糸』の事なんて気にせず、インタビューに入ろう……


「んふふ…敬語もなし。まだ本番じゃないんだろ?今日はよろしくね。たくちゃん!」




ズキュン……


微笑む彼に、一発撃ち抜かれた。



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