第4話 食後の運動にも本気で
「ふぅ、食ったくった」
染み渡る満腹感に身を委ねる。
「お肉たくさんでおいしかった」
「小春ちゃんもお腹パンパンみたいっすねぇ」
「紬、いつもありがとう」
「満足してくれたみたいで何よりっす!」
明るくて、ダンジョン配信する体力があり、料理もつくれるときた。こりゃいいお嫁さんになるね、紬ちゃんは。
「じゃあささっと片付けちゃうっす」
食器を下げるのを手伝ったりなんだりをしていると、家族みたいだな。
――みたいじゃなくて、本当に家族同然なんだろうな。
詳しい事情はわからんが、今この学校には、莉子会長、紬ちゃん、小春ちゃんの3人しかいないらしい。俺を合わせても4人だが、それでも学校として成立するには足りない気がする。
「じゃあ、晩御飯が終わったということは」
「アレの時間だ」
紬ちゃんと小春ちゃんがにやりと笑う。
「へ?アレって何のことだ?」
くくっくと笑う二人に手を引かれて、ついた先は――
「風呂場じゃねえか!」
「あたりまえっすよ」
「もしかして俺ってにおう?」
「んーにおうってわけではないっすけど」
「むしろ香水のようなにおいがする」
分泌系も調整されてるのか、この身体は。
「でも、なんというか、ダンジョン特有のマナ臭がするっすね」
「私はそこまで気にならないレベルだけど」
「マナ臭ねぇ」
におうかな。くんくんと鼻を鳴らすも、変な匂いは感じられない。鼻が麻痺してるのかな。
「とにかく!風呂に入るっす!」
「いやいやいや!俺はモゴモゴ」
「それ以上は言わせないっす!あー聞こえないっす」
「聞いてないから知らなかった。知らなかったから罪にはならない」
「そういうことっす!」
「あーれー」
あれよあれよと言う間に服を脱がされ、風呂場に放り込まれる。
「ん……、これが俺……?」
風呂場の鏡で初めて自分の姿を見る。
なんというか、一言で表すなら、『銀髪ふにふにロリ〜謎の文様を添えて〜』という感じだ。
もちろん、以前の身体になかった膨らみはあるし、棒はなくツルツルである。
「ふーん、悪くない、美少女だ。だが……幼すぎないか」
少なくとも成年済みに見られることはまずないだろう。それどころか、下手をすると就学児に見られかねない。
「まあでも、そもそも人型であることに感謝すべきかもしれないが」
あの日ダンジョンから出てきたモンスターたちの中には、人型とすら呼べないバケモノの姿もあった。俺がこの身体で戦ったスライムだってそうだ。
もし人型ではないものに転生していたらと、背筋が寒くなる。
「ひゃー、裸姿もかわいいっすね」
「未熟、だからこそ良い」
「ふ、ふたりとも!?」
「時間の節約っす。ほら、はやく身体洗うっすよ!」
この後ひたすら触られる感触と触れる感触に悶えながら、二人としっぽり洗いあったのだった。
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「ん……?」
夜中、俺は違和感を感じて目を覚ました。隣で寝てる紬ちゃん小春ちゃんは、すやすやと寝息を立てている。
「なんだ、この、胸騒ぎのような」
虫の知らせとでも言うべきか、このもやもやとした違和感を探る。
どうやら、この家の下の方からするようだった。
「よっと」
この身体、寝起きが良くて助かる。以前までの俺なら目元をこすって寝直していただろうが、この身体は起きた瞬間から10割の力で行動が可能みたいだ。
「ここらへんか?」
出どころを探りあてた先は、莉子会長の部屋の中だった。
きぃぃっ
ゆっくりと扉を開けると、そこはもぬけの殻だった。庭につながる窓が空いており、その先に、剣を素振りする莉子会長の姿があった。
ぴくり
気づかれた!?そうおもった瞬間、無意識のうちに腕で顔を庇った。
「……すぅ。貴方でしたか。驚かせないでください」
腕に触れた剣がすっと降ろされる。ただの木刀のはずだが、まるで真剣かのように錯覚していた。
「な、なかなか寝直せなくて。莉子会長も?」
「いえ、私はいつもこの時間に修練しているだけですよ」
「こんな深夜にですか」
莉子会長の黒髪が、月明かりを反射して妖しく輝く。まるで月に帰ろうとするかぐや姫のようだ、なんて思った。
「もし、よかったら修練に付き合ってくれませんか?」
「え、俺がですか?」
「聞いたところ、戦闘能力はランク5にも匹敵すると噂ではないですか」
「それはあの機甲のおかげで、俺自身はそんな」
「なら、余計に修練してあげなくてはいけませんね」
「へっ?」
「だって貴方、その機甲の姿は無しで学校生活を送らなきゃならないんですから」
「そ、それもそうか」
もし機甲の主が入学したとなれば、政府も含め大騒ぎの事態になってしまうだろう。なんたってあんなにデカデカと危険個体だって報道されたのだから。
そうか、俺は秘密を抱えて生きてかなきゃならないのか。
――それもおもしろいな。
そんなことを考える俺がいる。この身体になってからというもの、どうにも子供っぽい思考に引っ張られる気がする。
「それじゃあ莉子会長、お手柔らかに頼みますね」
「ふふふ、昨日今日目覚めたばっかの人に、そう本気を出すような人間ではないですよ」
果たしてどうだか。
「それじゃあ、そちらのタイミングで初めてください」
俺は、その時初めて、チャレンジャーとなった。
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「なっ!これもだめか」
「動きが単調ですよ。筋は良いですが」
上段からの振り下ろしを誘発させるつもりが、すぐに意図を読まれたかのように防がれる。
「こなくそ~!」
「雑な攻撃は無駄な力で間延びします。そしてその隙は――」
首筋に、ヒヤリとした感触がする。
「――戦闘では致命的ですよ」
「く、負けました」
「ふふふ、さっきも言いましたが筋はいいです。筋力もありつつしなやかさもある。有望株ですね」
「でも莉子会長には敵わないよ」
「当たり前です。私、3年生ですよ。それに、コレがありますし」
そういって自分の目を指差す莉子会長。そうか――
「相手の意図を読み取るってそういう!」
「ランクというのは絶対的なまでの戦闘力主義の世界です。そんな中で筋肉質でもない女の私がランク4にまで成れている理由ですよ」
「ランク5相当と言われて調子にのってたな。戦闘は単純な力比べじゃない」
「そのとおりです。本当に、末恐ろしい戦闘センスですね。将来が楽しみです」
「そう言ってもらえて何よりですよ」
「しかし、本気というのも見てみたくなりました。どうです?機甲を使って手合わせしてみませんか?」
「莉子会長!?本気で言ってるのか?」
「ええ。私、ランク5とも手合わせしたことあるんですよ。そんな私に勝てるとすれば、ランク5相当という名にも箔が付くでしょう」
「手加減とか、できるかもわからないぞ?」
「問題ないでしょう。それよりも早く見せてください、本気の貴方を」
「……わかった、やってみよう」
俺は手を高く掲げ、魔法陣を出す。
どこからともなく現れた手甲が細やかな指のシルエットを覆い隠す。
展開されていく機甲が、俺の柔らかな身体を鉄のような硬さでもって押しつぶしていく。
足、胸ときて次は足だ。柔らかな太ももが機甲に押し込まれ形を変える。しかし、きついわけではない。見事なまでに俺のために作られたサイズの機甲は、元からそうであったかのように俺の身体と一体化していく。
最後に顔が覆われ、そこにさっきまでの少女の姿はなくなり、長身の機甲に身を包んだ俺の姿が鎮座していた。
「さあ、いくぞ」
俺は、目の前の黒髪少女を無力化対象に指定した。
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彼が動き出すその瞬間。私は100パターンもの『自分が死ぬ姿』を見た。
圧倒的な力だ。この感覚になるのはいつぶりだろうか。
自分の中でスイッチを切り替え、脳内を生存に最適化させる。
こんなものは戦闘ではない。一方的な蹂躙に耐える。
「はぁ、見えた!」
素早く剣を横に動かし、先読みした彼の隙に攻撃を差し込む。
ガキーン
「う、うそ……」
確かに攻撃があたる未来が見えた。しかし、攻撃を繰り出した瞬間、その未来がブレた。
ランク4ともなれば、たいていのダンジョンモンスターに負けることがなくなる。
だから、私にとってその敗北は、以前ランク5と戦った時以来の出来事となった。
「ま、負けました」
「っとあっぶねぇ。やっぱ手加減覚えないとまずいな」
目の前の拳がピタリと止まる。もし私の言葉が遅れていれば、致命傷だっただろう。
「だ、大丈夫だよな?怪我とかしてないか?」
「ふふふ、優しいですね。無事ですよ」
機甲を解除して出てきた彼は、私を心配する言葉を掛けてくれる。
ああ、その力が羨ましい。
私が今日の修練の終わりを告げると、彼はその小さな背中を見せながら部屋へと戻っていった。
その背中に向けて、刃を突き立てる妄想をしてみる。
はあ、疲れてるのかしら。
らしくないことを考えてしまった。でもしかし、ああ――
その力が、羨ましい。
莉子会長:アステリア学園生徒会長。黒髪ロング美人。




