第35話 勝負の行方
その時は思ったよりも早く来た。
2勝2敗、試合は平行線のまま、大将戦へ。
「やっとだな」
「ああ、この時が待ち遠しかったぞ」
俺達は、競技場の中心で再会する。
「あの夜から、お前と再戦したくてたまらなかったんだ」
牙門はそういうと、少し後ろに控えていたハクを呼ぶ。
「1対2なんてしねえ。最初から全速力でいく」
「おう、かかってこいよ。全部受け止めてやる」
審判の方をちらりと見て準備ができたことを伝える。
「両者構え……競技開始!」
その掛け声とともに、俺達は拳をぶつけ合った。
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「ちっ」
「まだまだいくぞ!」
牙門の猛攻に、思わず舌打ちしてしまう。
いや、これ普通の探索者なら致命傷だろという攻撃を、一発一発受けて流してを繰り返していた。
ここまで防戦一方なのも初めてだ。
攻撃のタイミングが掴めない。いや、掴ませないように相手が攻撃してきているのか。
「まだ余裕って顔だな」
「余裕じゃないけど……まあまだいけるぞ」
「そうでなくっちゃなぁ!」
牙門はそういって更に攻撃のペースを早めた。
目でさばききれないほどの拳を、本能だけを頼りに受け流していく。
「攻撃してこい!セナ!」
「ああそうかよ!じゃあやってやるよ!」
俺は牙門の拳を手のひらで受け止める。
ジンと痺れるが、俺の防御力ならば耐えられる。
「じゃあ行かせてもらうぞ」
拳に集中する。
牙門は防御体制を取っている。どうやら受け止めきるつもりのようだ。
ならば敬意を表して、最大限の力でいってやる。
こういうやつは一度ぶっ飛ばしとくに限るからな。
振りかぶった拳に力を溜め、地面を蹴ってさらに勢いを乗せる。
「うぉぉぉ!」
「来い!」
俺の拳が、牙門の手のひらに吸い込まれる。
ドォォォォン
それは、もはや小さな爆発のようだった。
「ぐぅおおぉ!」
「これを受け止めるのかよ!」
「これくらいどうってこたぁねえなぁ!」
牙門は俺の渾身の拳を弾ききった。
面白い。
「その威力で来い!返り討ちにしてやる!」
「じゃあ遠慮なくいかしてもらうぞ!」
それは拳と拳の応酬だ。
しかし拳がぶつかり合うたびに、周囲に衝撃波が走るような苛烈な戦いだ。
モンスターの力を借りた牙門と、実質モンスターな俺。耐久力は両者とも、人間の域を軽く超えていた。
俺は夢中だった。
自分の限界を試したいと、そう願った。
「スピード上げるぞ!ついてこれるか!」
「余裕だ!」
次第に拳同士のぶつかり合いから、相手の拳を身体で受けつつ相手に拳を叩き込む、捨て身の戦いに発展していく。
俺は高揚してしまっていた。
この世界に、自分とここまで戦える存在がいることに。
それは牙門も同じようだった。
たとえ手痛い一撃を与えたとしても、牙門はにやりと笑ってみせた。
戦いが楽しくて仕方がない。
アドレナリンが噴出して、脳内麻薬がガンガンと分泌される。
視線が前から離れない。
まるで俺と牙門の2人しかこの世界にいないかのように。
だから気づかなかった。そんな俺達を上から見下ろしている存在に。
戦闘本能が、今までに鳴ったことのないような大きさで警鐘を鳴らす。
俺は真後ろに、思いっきり飛び退いた。
ドォォォォン
「な、なんだ!?」
「君たちさぁ……」
乱入者は、呆れたように、しかしニコリと微笑みながらそう言った。
「そこまで。競技中止」
乱入者の金髪美女は、ショートヘアの髪をふわりとたなびかせながら地面に着地した。
「なっ!?あんたは」
「皇……どういうことだ?」
俺の言葉を遮って牙門が、彼女を皇と呼んだ。
皇?あのホテルで助けてくれたこの人が?ランク5のトップ?
「どうもこうもないよ。競技は終わり」
「邪魔しねえって話だろ」
「何事にも程度ってものがあるだろう?やりすぎだ。周りを見てみなよ」
そこでようやく俺達は周りの様子を見た。
まるでクレーターのように凹んだ戦闘地点。舞い上がった土埃。
前列の方の観客は退避している。
「……やっちった」
「そうだよ、セナちゃん。君たちやりすぎだ」
「えっと、俺名乗ったっけ」
「競技に出る人間は全部把握しているよ。君とは他にも縁があったけどね」
そうか。確かにそうだ。競技前に選手紹介とかで名前も呼ばれるしな。
「で、これどうするんだ」
「どうって、何をだい?」
「何って、そりゃ勝敗だよ」
俺にとって、ひいては俺達アステリア学園にとっては、大事なことだ。
準優勝と優勝じゃ、付く箔がだいぶ違う。
「そうだねぇ」
「おい、もう一戦やらせろよ」
「あのねぇ牙門くん。君たち次またやったら……死ぬよ?」
「……」
それは薄々勘づいていた。
あのまま放って置かれたら、どっちかが死ぬまで殴り合いになっていた気がする。
「うーん、まあそっか」
ぽんと皇は手を叩いた。
「じゃあ対抗戦責任者として言うね。君たちの勝敗はじゃんけんで決めよう」
「は?」
「よしわかった。牙門、じゃんけんするぞ」
「おい待て!」
じゃんけんには一つ、必勝法がある。
「有無は言わせねえ。最初はグー」
日本人なら誰しも、最初はグーという掛け声に合わせてグーを出す。
「ジャンケンポン」
そこで一気に加速する。じゃんけんのペースをこっちが握るのだ。
その速さ故に反応出来ず力を弱められなかった相手は、グーをだしたまま。
そして俺は、パーを出す。
これが必勝法だ。
「なっ……」
だが現実はどうだ。
「チョキ……だと……?」
「ふんっ」
牙門は鼻を鳴らして、チョキの形をした手を掲げた。
「この勝負、牙門くんの勝ち!」
皇の宣言により、会場が大きく揺れる。
しかし俺はそれどころではなかった。
この俺が……負けた……?しかもじゃんけんで……?
「策士策に溺れる、だな」
「バカな……必勝法のはず……」
こうして俺達の学外対抗戦は幕を下ろした。




