第28話 到着
「ふー、ついたっす!」
紬ちゃんの声で上を見上げる。
綺麗に飾り付けされた学校が、俺達を迎え入れていた。
ここはアステリア学園とは都心を挟んでほぼ反対側にある、朱雀学園という養成校だ。
その名の通り、スポンサーにあの朱雀商会を抱える、在籍生徒数1000を超える、養成校界隈きってのマンモス校だ。
俺達がそんな学園に来た理由はただ一つ。
この学園こそが、学外対抗戦の主会場だからだ。
他にも朱雀商会の所有する周辺施設があつまって、会場全体となっている。
「ようこそアステリア学園の皆様」
「朱音ちゃん、松葉杖とれたんだな」
「ええ、お陰様で」
そんな他所者の俺達を出迎えてくれたのは、朱雀商会社長の愛娘こと、朱音ちゃんである。
先日の依頼のときは松葉杖をついていたのだが、もうすっかり治ったらしく、歩く動作も違和感がない。
「いろいろ見て回りたいっすけど、まずは荷物を下ろしたいっす」
「ええ、そうしますわ。まずは寮に案内しましょう」
俺達は送迎してくれた車のトランクから、スーツケースをいくつも取り出す。
学外対抗戦は1週間の期間をとって行われる。
俺達はその間、朱雀商会、そして朱音ちゃんの取り計らいにより、この学園の寮に滞在させてもらえることになっていた。
つまりは女の1週間分の荷物を積んだスーツケースがごろごろとあるわけで……
特に小春ちゃんの荷物の量は強烈だ。
「さぁ、きびきびと働いてもらうわよ」
朱音ちゃんの掛け声に応じてスーツの男たちがテキパキとスーツケースを運んでいく。
「なんか、すまんな。こんなにも大荷物で」
「あら、この程度どうってことないわ。少なすぎるくらいね」
じゃああんたは普段どれくらい荷物運ばせてんだよと突っ込みたくなった手をなんとか止めた。
これからお世話になるわけだからな。
「このあとどうする?」
「私は部屋でやることがあるから、先に休ませてもらうよ」
小春ちゃんはそういって、スーツの男たちに案内されて行ってしまった。
「私は前夜祭の最終準備があるから、同行はできないわ」
「あ、なにか手伝うことはあるっすか?私手伝うっす!」
「本当、じゃあお願いしようかしら」
朱音ちゃんと紬ちゃんは今夜行われる前夜祭の準備か。
「俺はどうしようかな」
「ああ、それなら」
朱音ちゃんの提案に、俺は乗ることにした。
<=>
「おお、ここか」
階段を登り切ると、観客席につながっていた。
朱音ちゃんに勧められたとおり、俺はこの施設に来ていた。
ここは朱雀商会が財を尽くして建てたメインアリーナ。探索者同士の戦闘訓練の効率化と、その競技性の効果向上のために作られた大型施設である。
この時代に建てられたコロシアムとも言える。
「でっけぇな。何人入るんだか」
聞いたところによると、この対抗戦は全国中継されるほど注目度が高いらしい。
まあ、最上位の戦いになると人知を超えた異能バトルが繰り広げられるのだから、注目度が高いのも頷ける。
俺は観客席を降りていき、その最下段、競技場に最も近いところまで行く。
砂混じりの地面。1対1で戦うには十分すぎるほどに広い戦闘スペース。
バリアなんて便利なものはない。武器が飛んでくる可能性だってゼロではない。
しかし、その危険性を無視してまで最前列が争奪戦になるほどに、この対抗戦は人気だ。
「ん?」
ちょうど向かい側、競技場を挟んで見える反対側には、ガラスで囲われたボックス席があった。いわゆるVIP席というやつであろうか。最前列ではなく少し高いところにあるのを見るに、『万が一』があってはいけない人たち用の席とも言えるだろう。
これがもし腐敗した国の闘技場ならば、あのガラスを突破して王を殺す物語があったっておかしくないな。
そんなふざけたことを考えながら帰路につく。
いや、つこうとした。
「げっ」
「げってなんだ」
「げっだろ。お前に会うなんて」
来た道を戻ろうとした俺に立ちふさがったのは、あの夜突如として現れて俺に模擬戦を挑んできた、ランク5、牙門だった。
「お前も下見に来たのか」
牙門が競技場を見下ろしながらそう問いかけてくる。
「ああ、そうだけど」
「ふんっ、べつに取って食おうとはしねえよ」
「ハクがいないからか?」
「……お前は俺がハクなしじゃ何も出来ねえ腰抜けっていいたいのか」
「ごめんごめん、冗談だ。ハクはどうしたんだ」
「あいつは今は別行動中だ」
「別行動なんかできたんだな。てっきりずっと一緒にいるもんだと」
「1~2時間程度なら問題ねえ。それ以上は試したことないな」
「ふーん。で、暇になって俺と同じように下見に来たわけだ」
「まあな」
しばらく2人で、競技場を見渡す。
まあ俺は見たばっかりだから、特に新たな気づきは得られなかった。
「そういや」
静寂を引き裂いて、牙門が口を開く。
「お前のとこ、初戦の相手、都立校だってな」
「耳が早いな」
トーナメントは今朝でたばかりだ。よほど注目していたか、それとも早く知る手段があったか。
「やつには気をつけておけ」
「警告か?珍しい」
「ふんっ、俺なりの良心ってやつだ」
「ところで奴って誰だ?」
「知らないのか……世間知らずめ」
はぁとため息を吐いてから、牙門が言葉を続ける。
「人呼んで暴食のヘス。ランク5だ」
「げっ、ランク5か」
どおりでトーナメント表を見た時、アステリア学園の皆の顔が固まったわけだ。
「やつは最弱のランク5と言われているが、最弱だからこそ強い。忘れるな」
「ああ、警告ありがとよ」
話は以上のようだ。俺は先にお暇させていただくかね。
踵を返そうとしたところで再び声をかけられる。
「なぁ」
「ん、なんだ」
「負けるなよ。お前を倒すのはこの俺だ」
「あたりまえだ。そしてお前にも勝ってアステリア学園は優勝する」
学園存続のためにも、ここで結果を出す必要がある。
俺達は、この対抗戦に学園を『賭けて』いるのだ。
「じゃあな」
「……ああ、次は競技場内で会おう」
俺は今度こそ、出口へと向かっていく。
ああ、対抗戦が楽しみで仕方がない。早く始まらないかと胸を躍らせながら、階段を一段とばしで降りていった。




