第11話 立ちふさがる敵
「さてと、とりあえず殴ってみるか?」
「おすすめしないわよ。何が含まれてるかわからないわ」
「そうなんだよな」
幸い、相手に敵意はないようだ。ただ通路を塞いでいるだけで。
おかげで、目の前で相対しながら対策を考えられる。
「こういうのアニメだと、凍りつかせて身体ごと砕いたりするんだがな」
「夢見すぎよ。どうやって凍らせるっていうのよ」
「まあそうだよな」
近くにあった手頃な石を拾い、マッドクロウラーに向けて投げてみる。
身体に当たった瞬間石は勢いを失い、そしてもごもごと蠢く体内に吸収されていった。
そりゃそうだ。この程度の衝撃を吸収できないようでは、15層の名が廃れるというものだ。
「なにか他に特徴ってないのか?」
「知らないわよ。15層のモンスターなんて。来たことも、来れる実力もないもの」
「参考までに聞きたいんだが、15層ってどのくらいだ?」
「ランク4がギリギリソロ到達できるくらいの地獄よ」
「ランク4が……?やべえなそれは」
つまりは莉子会長クラスの能力持ちの到達点だ。
「じゃあ莉子会長はこれに勝てるのか?」
「誰のこと言ってるかわからないけれど無理じゃないかしら。マッドクロウラーはランク4でも苦戦するほど厄介よ」
「そうか……」
俺は足元に転がっていたマナクリスタルを拾い、手で弄ぶ。
「そりゃ厄介だな、といっても迂回路もないし……なっ!」
マナクリスタルをおもむろに投げる。
マッドクロウラーは身体を蠢かせマナクリスタルはマッドクロウラーの背後へと通り抜けていった。
「……ん?」
「な、なによ」
「いや待て」
俺は壁に生えてるマナクリスタルを拳で砕く。
マナクリスタルは脆い。簡単に砕け散る。
その破片を、思い切り投げつけた。
「やっぱりだ」
その破片は、マッドクロウラーの身体を貫通した。
「待って、うそでしょう?」
「いや、見たまんまが事実だ」
マナクリスタルは、マッドクロウラーに吸収されない。
「活路が見えてきたぞ」
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「こんなもんか」
「随分と集めたわね」
「失敗した時用にな」
数分後、俺達はマナクリスタルを集めて再びマッドクロウラーに対峙する。
「さあ、始めようか」
反撃の狼煙を上げよう。
まずはマナクリスタルを砕く。ある程度細かければ大きさは気にしない。不思議なもんで、細かく砕くとどれもほぼ同じ大きさの破片になってそれ以上は砕けなくなる。
次に取り出したるは、赤髪の子がもってたファーストエイドキットのガーゼ。細かくなったマナクリスタルをガーゼで包み込み、簡易的な弾丸を形成する。
その弾丸をいくつか用意する。あればあるだけ安心だが、ガーゼには限りがあるのでたくさんは作れなかった。
準備はこれで完了だ。
「よし、じゃあレッツトライだ」
「上手くいきますように……」
「なあに、こういうのは上手くいくって相場が決まってんだ」
赤髪の子を安全地帯にそっと下ろして、ふたたびマッドクロウラーに対峙する。
蠢く異物で濁った身体のせいで、弱点である核が見えることはない。
しかし、俺の戦闘本能は、マッドクロウラーの弱点を正確に捉えている。
「さあ、一打席勝負、プレイボールだ」
俺はマウンドに見立てた地面を足で踏みつけ、大きく振りかぶった。
ただの人の投擲であれば、核を砕くまでには至らないだろう。
しかし今の俺は機甲。ブースターによる手厚い補助がある。
「おらぁ!ど真ん中ぶちぬいてやるよ!」
マナクリスタル弾が、超人的な加速を持ってして、俺の手を離れた。
ガーゼで包んだだけの弾丸は、その勢いに耐え切れず、マッドクロウラーに到達するまでに自壊してしまう。
しかし、それも込みでの計算だった。
自壊した弾は中身の細かいマナクリスタル片を撒き散らし、マッドクロウラーの身体にいくつも穴が開く。
その破片の一つが、核を貫いた。
「……!?」
声にならない声を上げて、マッドクロウラーの身体が形を失っていく。
「よしっ」
「ほんとにマッドクロウラーを倒すなんて」
これで道を塞ぐものはなくなった。
「さあ捕まれ!飛ばすぞ!」
再び女の子を抱えあげて、ブースターを吹かした。
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「っとあぶね!」
つい先程まで通っていた通路がねじれて閉じる。あと一歩でも遅ければ変遷に飲み込まれていただろう。
もう何分飛び回ったかわからない。少なくとも5つの階層は超えたはずだ。
「いま何階層なんだ……」
「……っうう」
「どうした?大丈夫か!?」
「だ、大丈夫よ」
そういってはいるものの、額には大きな汗が浮かんでいる。
きっと折れた足が痛むのだろう。応急手当する道具も知識も無かったからほぼ無処置だ。痛み止めだけはもっていたので飲ませたが、もう効き目が切れたようだ。
「くそっ急がねえとな」
先を急ぐ。階層は跨げているから、進んではいるはずだ。しかし、行き先が見えなさすぎる。
「ん?なんだ?」
突然大きな空間に出る。俺がこの身体で目覚めたあの空間と同じ匂いがした。
「ということは……そうだよな」
空間の奥、玉座から、巨体がのっそりと立ち上がる。
大きな牙、突き出た鼻。顔の様子はイノシシのようだ。
しかし身体は鍛え上げられた人間をそのまま巨大化したかのようだ。3メートル弱くらいあるだろうか。近づいてくるにつれて、首が痛くなってくる。
「ぐぅぉぉぉぉ!」
叫び声とともに、その巨体に負けず劣らずの大斧を振りかぶってくる。
「ボス戦ってわけかよ」
空間の端に赤髪の子を置いて、俺は戦闘態勢を取る。
体中のセンサーが、目の前の巨体を敵性存在と判定する。
その瞬間、目の前のモニターが警告で赤く染まった。
「ふっ、おもしろくなってきた」
拳に炎を纏って、俺はブースターを点火した。
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「っあぶね!」
鼻先を大斧が通り抜ける。機甲と擦れて火花が散る。
先程からそんな攻撃ばかりだ。俺がギリギリまで拳を叩き込み、敵の大技をギリギリで回避する。
モニターに忙しなく警告がポップアップする。煩わしいが無視もできない。
その一つ一つが、俺の首がまだくっついてる所以だからだ。
「ぐぅうぅぅぅ」
「お互いに致命傷は無しか」
手加減しているつもりはない。しかし、分厚い筋肉に遮られて打撃が通りづらい。それに、相手も急所にあてられないように避けるという脳がある。
「脳がある……?そうか!」
ブースターに火をつけて、モンスターに急接近する。
「おらぁ!」
おおきく振りかぶって殴りかかった。
その瞬間、腕のブースターを逆噴射させる。
そして逆の腕のブースターを点火、遠心力を乗せて、拳を頭蓋骨に叩き込む。
「うぐぅぅぅああうああ!」
「よし、まともに入った!」
ブースターを使ったフェイント、そして脳への衝撃。相手が考える生物だからこそ効く、最高にスマートな方法ではないだろうか。
「あとは決定打だけだ」
大きく後ろに飛び、揺れる脳を抑えるモンスターに狙いを定める。
「頼むぞ」
壁に生えているマナクリスタルをつかみ、握りつぶす。パラパラと砕けたマナクリスタルが、拳の周りでしばらく浮遊し、そしてなにかに吸収されたかのように消えた。
本能的に理解していた。いわば必殺技のような何か。
「うぉぉぉぉ!」
天井付近まで飛び上がり、重力とブースターの勢いの2つで敵に迫る。
拳にまとわりついたエネルギーが紫に発火し、一つの流星になる。
「とどけぇぇぇ!」
拳は正確にモンスターの左胸、人間でいう心臓の当たりに突き刺さる。
当たった。
その感触と共に、砕けた感触がする。核が壊れたモンスターは、しかし
ゴゥ
最後の一振りを繰り出してきた。




