霊媒師という名の理不尽な世界
■この物語は「社会問題」をテーマにした異能力×現代ファンタジーです。
主人公・百鬼春は、ある日突然“霊媒師”としてスカウトされ、理不尽な世界と向き合うことに。
裁判制度に代わって霊媒師が“判決”を下す時代。
彼らが向き合うのは、怪異ではなく「社会に溢れる怒りと悲しみ」だった。
これは、正義の話じゃない。
「誰が悪いのか」「何が正しいのか」その問いすら意味を持たない世界で、
選ぶのは——あなた。
「ねぇ、見てあの顔。めっちゃブスじゃない?しかもさ、太ったよね?」
「わかる〜てかさ、この前のSNS見た?あのアイドルがさ……」
「あいつ、ウザイよな。マジで殴ってやりたい」
「てかあいつ、臭くね?」
「ハブられるのもわかるよな〜」
──SNSの向こうで飛び交う“言葉”は、時に人を殺す。
現代社会に蔓延る、"社会問題"は、一体誰が作ったのだろうか?
いじめ、SNS炎上、ルッキズム、同調圧力___
火のないところに煙はたたない。そうどこかの偉い人が言った。
……それは、本当にそうなんだろうか?
俺は、思わない。きっと"正義"にも"悪"にも理由があると、俺は思う。
ある人は言った。
「大勢の人が、そっちの意見なら、そちらが正義。」
と、別の人は、こう言う。
「だけど、その正義って本当に"正義"なの?」
****
「春ちゃんはさぁ、正義と悪の定義がわかる?」
その言葉で、俺はペンの動きを止めた。
目の前の報告書に「被害者:鈴木愛理」と書かれた文字が滲んでいく。九十九さんは机に肘をつき、窓の外を見ていた。
「……現場での祓いのこと、まだ気にしてるんすか?」
俺の問いに、九十九さんは煙草を口に咥えたまま、にこりと笑った。その笑顔に、俺の胸の奥が少しざわつく。
「気にしてるってほどでもないけどね。ただ、正義と悪って必要なのかなぁって」
「まぁ、それはあった方が物語としては面白くていいすけど、現実では無い方が全ての争いはなくなりますよね」
その言葉を最後に、部屋に静寂が降りた。遠くで蛍光灯がチカチカと瞬く音。
紙の擦れる音。九十九班の初任務は、数日前の高校美術室での“夢を潰された少女の事件”だった。その背後には、怪異の存在があった。
——夢を諦めた側も、夢を追いかける側も、同じ夢を見ていた。「報われたかった」という夢を。
「春ちゃん。人ってなんで"正義と悪"を決めたがるんだろうね?」
九十九さんの声に、俺は息をのんだ。それが、この任務の始まりだった。九十九さんの問いが、今も頭の中で繰り返されていた。
あの夜、俺たちは“正義”という言葉に触れることになる。
******
人生は、最高の理不尽で形成されている。
人間は学校を出たら週5で働き、人生の殆どを“仕事”で費やす生き物だ。
俺、百鬼 春も週5で社会に捧げるつもりだった。──この手紙が来るまでは。
「霊媒師適正試験合格通知……」
突如現れた怪異に日本国民は皆、混乱していた。
そんな矢先、政治家が策を投じ、研究を重ね、人間には“霊力”というものが備わっている事が判明した。
それから新しく法律が出来た。それが「霊力適正試験」。
──高校卒業後、18歳で全国民が受ける義務試験。
受かれば命懸けの怪異退治へ、落ちても管理下。
つまり、どっちにしろ詰みだ。
俺はどこかで「自分には適正なんて無い」と期待してしまっていた。
だからこの通知が来た時、絶望した。
“普通”にはなれず、国民のヒーロー扱いをされる。
俺は乱雑に置いてあった、1冊の雑誌を拾いあげた。
元々、付録目当てで買った雑誌だったが、丁度表紙に飾られていたのは
『イケメン霊媒師の私生活』特集だった。
こんな風にアイドルのようにチヤホヤされているが、裏では命懸けで戦い、死んでいく──そんな職業だ。
今の俺の人生は、“霊媒師になる”という選択肢しか無かった。
***
関東某所の山奥。
大きな鳥居に、古い旅館のような建物が佇む。
俺は息を切らしながらたどり着いたことに感激していた。
山の入口まではタクシーで来れたが、運転手に「ここから先は歩かないとダメだね」と言われた。
そこには「一般人進入不可」と書かれた看板があり、俺は苦笑いを零す。
山道は歩き慣れている方だったが、思ったよりも長い道のりだった。
辿り着いた俺は石畳に腰を掛けた。
ポタポタと汗が垂れていき、土に染みを作り、消えていく。
ふう、と大きく息を吐くとまた1歩、また1歩と階段を登った。
足は既にガクガクしており、最終テストどころではない。
やっとたどり着いた大きな鳥居の下で息を吸う。
山の空気が気持ちいい。
俺は自分の頬を両手いっぱいに叩き、鳥居を潜る。
ふと視線をあげると、入口付近に立つ一人の男がいた。
その男の周りは異様な空気感が漂っており、風がサラサラと男の頬を撫でていた。
中性的な顔立ちに、黒い髪は短めのウルフカットで、黒い袴に差し色のオレンジが映えている。
そんな不思議な佇まいの男は伏せ気味にこちらをちらりと見た。
俺と目が合った瞬間、男は驚いた様な表情を見せていた。
美形は、驚いた顔すらも美形である。羨ましい限りだ。
俺なんて目つきが悪いから、何度ヤンキーに絡まれたことか……と悲壮感漂う回想をしていると、
男はにっこりと笑い、こちらに歩いてくる。
案内する人なのか、と俺が口を開こうとした瞬間、男は俺の手を握った。
「百鬼春くんだよね」
「え、あっはい……」
「よかった。待ってたよ、君のこと」
なんで俺の名前を知ってるんだ。この人もしかしてストーカーか?
と俺がたじたじになると、男は笑った。
まさか、この出会いが、俺の“普通の人生”が完全に終わるなんて——今の俺はまだ知らない。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます!
今後、社会の”理不尽”や”同調圧力”、“容姿差別”などの問題を、
怪異×霊媒師の世界観を通して描いていきます。
一人でも多くの方に届けば嬉しいです。
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