1 不思議な夢
ぽちゃん……ぽちゃん……
暗闇の中、水滴が水面に落ちる音が響き渡る。その音は、はじめは遠くから微かに聞こえるのだが、少しずつ近く、大きくなってくる。そして……
ぽちゃん!
右耳のすぐ傍で、ひときわ大きい水音が聞こえ、私は目を覚ました。
真夜中の寝室。常夜灯だけの薄暗い部屋の中。布団から上半身を起き上がらせ、右耳を擦る。
「またか……」
私はタメ息混じりに窓の外を見た。雨は降っていない。いつものように天井を見上げる。水漏れなどの痕跡はなかった。
私は、左手側に敷かれた布団で眠る息子と妻を見た。
3歳になったばかりの息子と、その向こうの妻は、ぐっすりと眠っていた。
2人の寝顔を眺め、私は、再び布団に横になった。
† † †
この家を購入したのは半年前。それまでは都会の社宅暮らしだったが、子どもの遊び場等が少なかったこともあり、郊外の建売り住宅を思い切って購入したのだ。
相場よりも割安で、ローンを組めばギリギリ購入出来る金額だった。
「この区画で残るのはこの一戸だけでしてね。売主の会社が決算期前に何とか販売したいということで特別にお安くなっております」
不動産屋は笑顔でそう言っていた。のどかな田園地帯の一角で、駅やスーパーも意外と近い。
ネットで調べた限り、水害等の問題はなく、土地についても、不動産屋によると、昔は地域の寄り合い所があった場所ということで、特に問題なさそうだった。
建物についても、角地で日当たりも良く、しっかりとした造り。素人目には問題ないように思われた。私は、妻と相談した結果、この家を購入することにした。
通勤時間は倍になったが、それ以外は快適で穏やかな新居生活。満足していた私だったが、ここ最近、不思議なことが起きるようになってきた。
それが、この「水滴の夢」だった。
† † †
「どうしたの? 最近あまり眠れてないみたいだけど」
朝。朝食を取っていると、ダイニングテーブルの向かいに座る妻が少し心配そうに私に言った。
「最近夢見が悪くてね」
私は苦笑しながらそう言うと、残りのコーヒーを飲み干した。
水滴の夢は、徐々に頻度が高くなり、ここ数日は毎晩見るようになっていた。
ぽちゃん。
突然、水滴の音が聞こえ、私はビクッと体を震わせて周りを見回した。
「何? そんな驚いた顔して?」
妻が怪訝な顔で私に言った。
「いや、何か水滴が落ちる音が聞こえたような気がして……」
「そう? キッチンの蛇口かしら?」
妻が、息子の食べこぼしを片付けながらキッチンの方へ振り返り、そう言った。