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7 予兆

 ラミネル殿下と言い争った日以降、殿下は侯爵邸でのお茶会に来なかった。


 当分は会わないといった趣旨の手紙が送られてきており、レティーナも会いたくなかったのでホッとしていた。


 だがそれを理解できない者がいた。


「お姉さま! どうしてネル様が来ないのですか! ズルいです、お姉さまはお城で会えるのでしょう? 私も会いたいのに、ネル様を呼んで下さい!」


 姉が登城するようになり城では王子妃教育の後は二人だけのお茶の時間になった。だから月に1回しかネル様には会えない。ミシュベルは泣きながら抗議した。


「殿下はお忙しいのよ。貴方とおしゃべりする時間は無いの」


「では今度一緒にお城に連れて行ってください」


「馬鹿ね、私の代わりに教育を受ける? それもいいかもね」

 王太子妃殿下に100回ぐらい折檻を受けたら妹だって二度と登城したいなどと言わないだろう。


「教育はお姉さまのお仕事です。私は何もしなくてもいいとお母さまは言いました」


「馬鹿だものね」


 ここでモナが「お嬢様それ以上は……」と止めに入ったが先に癇癪を起こしたのはミシュベルだった。


「馬鹿はお姉さまです! バカバカ! 早くネル様を呼んできて!」

 持っていた兎のぬいぐるみをレティーナに向かって投げると足に当たって転がった、カッとなった姉はそれを拾って妹に投げ返した。

 するとぬいぐるみは妹の顔に当たって妹は尻餅をついてしまった。


「うわぁぁああーーーん! お姉さまが虐めた!!」


 泣きながら部屋を出た妹は母親に言いつけるだろう。転がったぬいぐるみを拾うとそれは5歳の誕生日にミシュベルとお揃いでグナード公爵に頂いたものだった。ミシュベルの1番のお気に入りだ。


 レティーナの兎のぬいぐるみはいつからか消えていた。

(ミシュベルのお気に入りだから、きっと私が持つのが気に入らなくてお母様が捨てたんだわ)



「レティーナ!!」


 予想通りイザベルが怒ってやって来た。また長い小言が始まるのだとレティーナは覚悟した。


「ミシュを虐めたそうね。ぬいぐるみを取り上げたんですって?」


「ミシュベルが私に投げたんです。だから投げて返しました」


「言い訳は止めなさい!」


 イザベルが手を振り上げたので目をつぶるとモナが二人の間に割って入った。


「暴力はおやめ下さい。旦那様から禁じられているはずです」

「生意気な。お前はクビよ!」


「え?」

 レティーナは驚いて顔を上げた。


「私はお嬢様を守るために旦那様直々に雇われています。クビにできるのは旦那様だけです」


 モナは女性には極めて珍しい【忠誠神の加護】を持っている。主君の為なら命をかけて働いてくれる。なのでシオンは彼女をレティーナの専属メイドにした。


 バシッ! とイザベルはモナの顔を扇で打ったがモナは動かなかった。


「お母様やめて! 謝ります。ごめんなさい!」


「お前が生意気だとこれからはモナが罰を受けるわ。いい子でいなさいね」


 ソファーに置いた兎のぬいぐるみを持ち上げイザベルは「ふん!」と去って行った。


「モナ……腫れてる……回復するね。ごめんなさい」

「お嬢様、暴力はいけない事です。奥様に非があるんです。お嬢様は優しい人になって下さいね」


「うん……暴力はしない。約束するわ」



 癇癪は起こさないと決めたのにミシュベルにイラ立ってしまった。


 <貴方の味方は一人もいない>

 あの手紙の通りになってしまう。


「いい子でいなければ。いい子でいなければ……いい子で……」


 レティーナは自分に言い聞かせるように何度も繰り返した。




 その夜、モナの報告にシオンは眉根を寄せた。


「食欲が落ちて、夜もぐっすりと眠れないようです。夜中に随分と魘されています」

「そうなのか」


「王子妃教育が始まってから難しい課題も多く与えられてお嬢様は体調がとても悪いです。中止できないでしょうか」

「レティーナは何と言っている?」


「大丈夫だと……無理をしているみたいです」

「そうか、もう少しだけ様子を見よう。まだ始まったばかりだ」


「どうかお願いします! 手遅れにならないうちに」


 モナの切羽詰まった様子にシオンは嫌な予兆を感じた。この時直ぐに行動に出なかったことを、後にシオンは大いに後悔することとなる。



読んで頂いて有難うございました。

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