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3 レティーナの悟り

 朝食が済んで部屋に戻ると父親のシオンが手紙を持って現れた。


「レティー、この手紙はイザベルの筆跡ではないよ」


「お母様は誰かに書かせたと思います」


「うーん、けど……この内容は誰にでも当てはまる。悪意は感じない、ただの忠告にすぎないよ」


 シオンはイザベルを庇っているとレティーナは思った。幼いレティーナに都合よく言い聞かせているだけで、賢いレティーナは全然納得していなかった。



 過去に折檻を知った時だってシオンはイザベルに注意しただけだった。

『君の魔力を伸ばそうと思ったらしい。悪気は無かったようだ。もうしないと約束させたから許してやって欲しい』


『どうしてお母様は私を愛してくれないの? ミシュベルだけを愛するの?』

 泣いて訴えたのにシオンの答えは到底納得できないものだった。


『ミシュベルはイザベルと同じ【鍾愛神の加護】を受けた。だから親子の結び付きが強い。レティーは私の加護を引き継いでいるから私とは仲のいい親子だろう?』


『ではお父様はミシュベルよりも私を愛していますか? 大事ですか?』


『私は娘を二人とも愛してるよ。水神の加護を持つ者は穏やかさとクールさを持ち合わせている。イザベル達は愛が重く一途なんだ』


 あの時、レティーナは嘘でもいいから『レティーを愛している』と父に答えて欲しかった。




 拗ねた顔のレティーナの頭をにシオンは撫でた。


「イザベルがレティーに冷たいのは私のせいなんだ。レティーは亡くなった私の妹、君の叔母に瓜二つだからね」

「私の叔母様?」


「うん、妹のレミアは体が弱くてね、長生きできないと言われていたが20歳まで生き延びた。私はレミアを婚約者のイザベルよりも優先して大切にしていたんだ。結婚してからもそれは続いて、イザベルには悲しい思いをさせた」


 レティーは少しだけイザベルの気持ちがわかる気がした。婚約者のラミネル殿下はレティーナよりも妹ミシュベルを可愛がって大事にしている。子ども心にもそれは辛いことだった。


「イザベルは私を独り占めにするレミアを憎んでいた。だからレティーに冷たくなってしまうんだよ」


 どんな理由にせよ今後も母の愛は得られないと父は娘に言っている。それが残酷だと思ってもいないようだ。


「分かりました。お父様はずっと私の味方ですよね?」


「当り前じゃないか! 親子なんだから」


 もうそれでいいと、レティーナは諦めることにした。マイナス思考ではなく彼女は悟ったのだ。


 母の愛は求めない、求めても無駄なこと。妹に嫉妬もしない。将来ラミネル殿下と結婚するのは自分だ。

 シオンがイザベルを愛するように、ラミネル殿下だって結婚すれば自分を愛してくれるかもしれない。その時を待てばいいのだ。


「その手紙、私が持っていてもいいですか?」

「ああ、構わないよ」


(お父様の言う通りこれは忠告だと思う事にしよう)


「そうだ! 来年のシルバームーンにレティーも手紙を送らないか、亡くなったレミアに」

「そうします」


「ただレミアの名前はイザベルの前では言わないようにね」

「言いません」


 父は母に頭が上がらない、でも味方はしてくれる。モナだっている。


(私は独りぼっちじゃないわ)



 この日の午後はラミネル殿下が訪ねてくる予定だった。月に2回、王宮と侯爵邸で二人は親睦の時間を過ごすよう予定は組まれている。


 間もなくレティーナは10歳になるので王子妃教育が王宮で行われる。その時にラミネル殿下と過ごす時間が持てるはずだ。ミシュベルがいない二人だけの時間が過ごせるのをレティーナは楽しみにしている。



 午後になると時間きっちりにラミネル殿下は訪れた。レティーナと形式的な挨拶を交わすと王宮の庭園に咲く特別な赤い薔薇を姉妹に渡した。


「殿下、有難うございます」


「ネル様、綺麗なお花を有難うございます!」


 ミシュベルは大好きな王子様に会えて顔を紅潮させ、挨拶も飛ばしてラミネルの腕に飛びついた。


「ミシュはピンクの薔薇の方が好きだったかな?」

「赤い色も大好きです。昨日はシルバームーンで月が綺麗でしたね」

「うん、そうだね」


「銀色のお月さまはお姉さまの髪の色と同じでした」

「ああ綺麗だったね」


「私は金色のネル様の色の方が綺麗だと思います。私と同じ金色で・・・ネル様の赤い目は太陽のように輝いて、だから赤い色も大好きです」


「ミシュのアメジストの瞳も綺麗だよ」



(見つめ合って……また二人だけの世界だわ)


 2人の親睦の為のお茶会のはずだが、毎度当然のようにミシュベルは同席している。そして一人でどうでもいい話をベラベラと喋りまくるのだ。追い払えばいいのに、ラミネルは微笑みながら耳を傾け時々相槌を打つ。レティーナはそれが腹立たしくて仕方なかった。それでついつい不機嫌になってしまうのだ。


読んで頂いて有難うございました。

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