24 モナの機転
扉を開けると直ぐそこにルナフィスは立っていた。外の声は聞こえており信じられない気持ちでレティーナを待っていたのだ。
「ルナフィス様!」
「レティーナ!」
レティーナがルナフィスの腕の中に飛び込むとルナフィスはしっかりと抱きしめた。
「お会いしたかった。どうして罪を認めたのですか?」
「自由になる為だよ。私は月神の神殿に行くつもりなんだ」
「そんなこと……」
出来るはずがない、死ぬつもりなのかとレティーナは涙ぐんだ。
「私も一緒に行きたいです」
「いけないよ、君は弟と幸せになってくれ」
ルナフィスは涙するレティーナの肩をそっと突き放した。
「そして、二度とこんな危険な事はしないで欲しい。今日でお別れだレティーナ」
「いやです、一緒に逃げましょう」
「お嬢様!」
モナが慌ててレティーナの腕に手を掛けてルナフィスから引き離した。
「レティーナ! どうしてここに?」
ラミネルがやって来たのだ。
「殿下こそ何故ここに?」
「君が来たと門番から連絡があったんだ!」
「第二王子殿下にご挨拶申し上げます。お嬢様は差し入れをお持ちしたのです」
「グナード公爵夫人か。なぜ止めなかった」
「申し訳ございません。お嬢様には第一王子殿下に助けて頂いた御恩がありますので」
「小賢しい言い訳を。さぁ! 帰るんだ」
ラミネルがレティーナの腕を掴んだがレティーナはその手を振り払った。
「どうして、どうして助けてくれないのですか、血を分けたお兄様では無いですか!」
「説明しただろう? 何度も同じことを言わせないでくれ」
「お嬢様、行きましょう」
モナに肩を抱かれてレティーナは部屋を出された。
「さようなら、君の事は忘れないよ」
「ルナフィス様、私は……」
バタン! と扉はラミネルによって強く閉じられ、その目には燃えるような嫉妬と怒りが渦巻いていた。
レティーナの腕を掴んで階段を下りるとラミネルは立ち止まりレティーナと向き合った。
「兄上とは親しくしないよう言いつけたはずだ」
「なぜ、どうしてルナフィス様を流刑なんて! ひどい」
泣き出したレティーナをラミネルは抱きしめた。
「父上にもう一度掛け合ってみるよ、だから泣かないでレティーナ」
「説得できますか?」
「ああやってみよう、君の為に」
ラミネルはレティーナの唇に軽く触れるキスをした。
「だから兄上の為に泣かないで」
「助けて下さい。お願いします」
ラミネルはキスを拒否しなかったレティーナに少しだけ満足した。近くでモナが気まずそうに立っているので仕方なくレティーナを解放することにした。
レティーナを見送るとラミネルは月を仰いだ。
ラミネルだって気づいてる。毒を盛ったのは母だ。ミシュベルが聖女に覚醒などしなければ事件はうやむやにできたかもしれない。母を守るために父は動機のある犯人が必要だった。
「犯人は兄上でいいよ。レティーナ、君のせいで僕達兄弟は互いが邪魔なんだ」
うっすらと笑いを浮かべてラミネルはレティーナに触れた唇を指でなぞる。
「レティーナは僕の婚約者だ。誰も奪ったりできないよ」
一方、解放されたレティーナは馬車の中でハンカチを出すと唇を押えた。目を閉じるとルナフィスに抱きしめられた感覚が蘇る。
魔力暴走を起こした日もきっと無意識に彼の温かさを求めてガゼボに向かったに違いなかった。
「助けられなかった…… 私、ラミネル殿下とキスしたけど嬉しくなかったの」
「どう致しましょう。来月は婚約式ですよ? その後は王宮にラミネル殿下の隣室を与えられ、お二人で過ごす時間は増えるでしょう」
「嫌だわ。私は婚約者なのにこの気持ちをどうすればいいのかしら」
婚約の次は婚姻、やがて子どもが誕生してラミネルと生涯添い遂げる。レティーナにはそんな未来図が見えてこない。
「いっそ、逃げてみますか? どこか遠くの異国へ」
「遠くへ? ねぇモナ、船でルナフィス様を助けられないかしら? 流される小舟を追いかけるの」
「公爵様にお願いしてみては? 港に船をお持ちですから」
「そうね、どうして気が付かなかったのかしら」
彼があえて処罰を受けるのだとしたら、その時に救えばいい。レティーナは一筋の光を見出した気がした。
「そういえば、鍵はどうなったの?」
「ジェルド様が処分しました。罠だと思われたので」
「罠だったわね。モナの機転で助かったわ。ありがとう」
「とても危険だったのですよ?」
「本当にごめんなさい。鍵をくれた神官は偽物だったのかしら」
「どうでしょうね。今後も隠し事は止めて下さい。相手が神殿の関係者でも信用しないで下さい」
「ええ、気を付けるわ」
もしも鍵が見つかっていれば犯人の思う壺だった。犯罪者に仕立てられレティーナも貴人牢に閉じ込められただろう。ラミネル殿下との婚約も破棄されたかもしれない。
レティーナを守る為にこれからも気を緩めることが出来ないとモナは思うのだった。
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