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2 手紙 レティーナ9歳

 その朝目覚めるとテイラー侯爵令嬢のレティーナ(9歳)は枕元に手紙があるのに気づいた。綺麗に折り畳まれた便せんを開くと幼い彼女の顔は歪んだ。


 <傲慢な心、嫉妬心は捨てなさい。癇癪もいけません。将来貴方の味方はどこにもいない>


「これはお母様の仕業ね……」


 書かれた内容には心当たりがあった。傲慢な心と嫉妬心は妹に対する気持ちだ。レティーナは誰からも愛される妹を憎むと同時に頭の悪さを蔑んでいた。


 実母イザベルから疎まれて悲しくなり癇癪を起すこともあった。


『テイラー侯爵家には愛らしい娘が二人いる。姉は癇癪持ちで妹の頭の中は綿飴が詰まっている』


 貴族間で密かに姉妹の悪口が囁かれていることも、母イザベルが『姉は癇癪持ちで困る』と言いふらしていることもレティーナは知っていた。


 悲しい気持ちで手紙を見つめていると「おはようございます。お嬢様?」と専属メイドのモナ(23歳)が声を掛けた。

 男爵令嬢のモナはブルネットの優しい女性だ。幼い頃の怪我で左手の小指が欠けており、それだけの理由で婚期が遅れている。


「モナおはよう」

 慌てて手紙を隠したのをモナは見逃さなかった。


「それは何ですか?」

「なんでもないわ、あっ!」


 モナに手紙を奪われ内容も見られてしまった。


「私には隠し事はしない約束ですよね?」

「起きたら枕元にあったの。それって神殿で配布される便せんよね?」


 シルバームーンの1週間前から舟形と便せんと光石がセットで配布される。勿論寄付をしなければ貰えない。父は多額の寄付をして毎年亡くなった妹に手紙を出し続けている。


「そうみたいですね。昨日はシルバームーンでしたから。手紙はお預かりします。着替えて朝食に参りましょう」


 モナが素早く身支度を終わらせてレティーナは朝食の場に向かった。そこには既に両親と妹ミシュベル(8歳)が待っており「お姉さまおはようございます!」と屈託のない笑顔で挨拶をした。


「おはようミシュベル。朝から元気ね」


「だってネル様は元気な子が好きなんだそうです。お姉さまは全然元気が足りません」


 ネル様とはラミネル第二王子殿下、レティーナの婚約者だ。妹は何度注意しても殿下を「ネル様」と呼んだ。殿下が容認しているから今は誰もミシュベルを注意しない。そもそも注意するとピーピー泣いて煩わしい。


「貴方は笑顔が足りないの。王子妃となるのだから愛想良くなさい」

「はい、お母様」


 イザベルはレティーナの顔を見ると小言を言わずにはいられない毒親だ。だが小言はマシな方で1年前までは密室でレティーナに小さな突起物が付いた細い棒を使って折檻を繰り返していた。


 7歳でレティーナは水の魔力が覚醒し治癒の魔法を使えるようになった。イザベルは魔法の訓練として折檻し手足にできた傷をレティーナに魔法で治癒させていたのだ。


『これは貴方の為なの。王子妃になるのだから耐えなさい』……そう言って。


 幼いレティーナは母の愛情だと思い込もうとした。違うと頭では解っていてもそう信じたかった。


 心が傷ついたレティーナは荒れて部屋の物を壊したり、少しでも気に入らないと妹や使用人達に暴言を吐くこともあった。

 大好きだった婚約者のラミネル殿下もこの頃からレティーナを嫌うようになったのだ。


 日に日に様子がおかしくなり癇癪を起すレティーナを不憫に思い、メイドのモナが父親のシオンに訴えるとイザベルの折檻は止んだ。


 今は少なからずレティーナの癇癪も治まりつつあった。それは献身的なモナの存在が大きい。


 だがイザベルの言葉の暴力は終わっていない。実子なのにどうしてそこまで憎まれるのかレティーナには理解できない。



 新聞を見ていた父は給仕にそれを渡すといつもと変わらない朝食の時間が始まった。


(モナは手紙をお父様に見せるわね……)

 父シオンもイザベルの嫌がらせだと思うだろう。手紙の件を注意すれば母イザベルの機嫌は悪くなってますますレティーナへの風当たりが強くなるに違いない。


 目の前ではイザベルがミシュベルに食事のマナーを優しく注意している。美貌の母と娘は女神と天使のようで父親も目を細めて見つめている。


(私の時は何度も手を叩かれたのに!)

 思わずスプーンを床に投げつけたくなったが父にまで嫌われたくないと思い直した。


 大好きなオニオンスープも味気なく感じて、朝から気が重いレティーナであった。



読んで頂いて有難うございました。

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