15 子供時代の終わり
レティーナの養女の件についてオーサー・グナード公爵には勝算があった。
(王太子にも協力を要請して、レティーナを返してもらう)
かつてオーサーはシオンの妹レミアと愛し合っており結婚するつもりでいた。しかし王太子妃の従妹メリアンとの婚姻を王家と父親の間で決定してしまった。
<伺い>を出すとメリアンの実家の伯爵家が良縁だと<神託>が出たのだ。過去に何度もオーサーの<伺い>は行われたが一度も<神託>は出なかったのに。拒否するオーサーに王命も出されて断れない状況にあった。
苦悩するオーサーを思いやってレミアは身を引いた。シオンも決してレミアの行先は教えてくれず、彼はオーサーと距離を置いた。
メリアンは王太子妃に似た高慢な性格で結婚後もオーサーは妻を愛せなかった。そんな彼の元に年老いて引退した司祭が訪れて真実を話した。
『あの<神託>は仕組まれたもので真実ではありません。紙が沈まないよう細工がしてあったのです。王太子妃からの依頼で断れなかった。ずっと後悔していました。嘘をついたまま召されても神は私を受け入れないでしょう。どうか許して下さい』
オーサーは陛下に掛け合って離婚を申し出た。細工の事実は隠しておくから離婚だけは許可して欲しいと願えばそれは叶えられた。
次に次期国王の王太子に貸しを作っておいた。
『王太子妃の愚行は黙っておきましょう。この貸しは必ず返してもらいます』
泣いて嫌がるメリアンと離婚が成立し、レミアを探したがもう亡くなった後だった。シオンと再会しオーサーはレティーナの存在を知った。愛した女性に瓜二つの娘をオーサーは自分の子だと直感したのだった。
覚悟して王宮に向かったオーサーだったが。事は簡単には運ばなかった。オーサーが父だと明かせば簡単だがそうはいかない。レティーナも巻き込まれてしまう。
オーサーはレティーナとイザベルとの不仲、それと世間の噂を定義してラミネルとの婚約解消を訴えた。
「イザベルとあの方の虐待でレティーナは精神が汚染されました。今は私の養女になることを願っています。テイラー侯爵家には妹のミシュベルがいます。第二王子殿下は姉よりも妹との仲が良いと聞きました。どうか再考をお願いします」
宮殿にシオンも呼ばれて話し合いが行われたが結果はオーサーが納得できないものになった。王太子は今後は必ずレティーナに危害が及ばないようにすると約束したに留まった。
養女には出来ないがレティーナが望む期間は公爵家に滞在が許された。ラミネルとの婚約解消はラミネル自身が拒んで実現しなかった。ラミネルはミシュベルよりもレティーナを選んだのだ。
王子妃教育は監視の下で公爵家で行われる。レティーナの体調が良くなり次第ラミネルとの親睦の時間も再開される。王家は魔力が高いレティーナの血筋を取り入れたいのだ。
王家が下した決定にオーサー・グナード公爵は敗北感に打ちのめされた。
「ではずっとここにいてもいいのですか?」
それでも子どもらしく無邪気に喜ぶレティーナを公爵は抱きしめた。
「ああ、ずっと居ていいんだよ。私達が君を守るからね」
レティーナへの愛情の重さの天秤は既にグナード公爵側に傾いていた。
シオンは何度も会いに来たが娘に戻って欲しいとは言わなかった。一度だけレティーナはシオンと出かけた。それは約束したシルバームーンの夜、二人は舟形を流して静かに見送った。
『レティーは何を書いたんだい?』
『<お手紙有難う>……知らない誰かにそう書きました』
『え?』
『あの手紙から私の人生は変わりました。今は感謝しているんです』
『ただのイタズラかもしれないのに?』
『うん、それでもいいの』
公爵にモナ。ルナフィスにジェルド、シオン。公爵家の使用人の人達。今は信頼できる味方がレティーナにはいるのだ。
大人達に翻弄されながらレティーナの子どもの時代は過ぎて行った。
5年が経ち、間もなく16歳になるレティーナにはラミネルとの婚約式が近づいていた。
どんなに望んでも結局は公爵の養女にはなれない。やはり<神託>は神の意志なのだとレティーナは貴族の義務としてラミネルとの婚約式を受け入れたのだった。
赤子の時に簡単な婚約式が行われたラミネルとレティーナ。世間では二人の不仲が今も噂の種になっておりそれを払拭する為にも正式に婚約式を行いたいという王家の意向だった。
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