11 三人の訪問とルナフィスの苦悩
三人の非公式な訪問にルナフィスは不快感を隠さない。
「あなた方の訪問の許可は出していませんが」
「どうして許可してくれないのですか。レティーナは僕の婚約者です。レティーナ今日は君を迎えに来たんだ」
「娘が意識を戻したと聞きましたので。殿下、いつまでもこちらにお世話になるわけには参りません。この子は家に連れて帰りますわ。レティーナ、支度をなさい!」
「いえ、僕の宮に迎えます」
「私もネル様の宮に行きたいです。お姉さま、早く行きましょうよ!」
勝手に言いたい放題の三人をレティーナは黙って見つめていた。
「ラミネル、それよりお前はレティーナ嬢に言うべき言葉があるだろう?」
「レティーナ、母上を許して欲しい。あれは君の為だった、悪気は無かったんだよ!」
「あれが悪気でなくて何だって言うんだ。抗えない子に暴力をふるう人間は最低だ。そう思いませんか? 侯爵夫人」
「暴力? 違いますわ、躾だったと思います。時には必要なのです」
ルナフィスに平然と答えるイザベルにレティーナは冷ややかな視線を送った。
「その目はなんなの? お前が生意気だから王太子妃殿下も仕方なかったのよ。罰を受けるのはお前の方だわ」
「お母様、私は安静が必要なの。帰って下さい」
「なっ!!」
「早く帰って!」
レティーナから冷気が漏れ出して若干室温が下がった。慌ててモナがレティーナの冷たい手を握る。
「お嬢様大丈夫ですよ。第一王子殿下は味方です」
「夫人、レティーナ嬢はグナード公爵家から迎えが来るまで私が責任をもってこの宮でお預かりします。お引き取り下さい!」
「いいえ第一王子殿下、謹んでお断りさせて頂きますわ!」
「どうして……どうして兄上がレティーナの面倒を見るんですか、おかしいじゃないですか」
「お前の婚約者なら私の義妹だ。それに彼女は強力な魔法使いであって魔法騎士のお前の手に余る。今後は私が指導する。陛下にも許可を頂く予定だ。今日の所は帰るんだ」
「陛下に許可を? そうですか」
「全く、第一王子殿下にまで迷惑をかけて。ミシュ、帰りましょう。レティーナはおうちが嫌なんですって」
ここで漸くイザベルも諦めた。後程シオンにグナード公爵家までレティーナを迎えに行かせればいいと考えたのだ。
「またお姉さまは我儘を言ってるの? どうしておうちに帰らないの?」
「君のお姉さまは帰りたくても帰れないんだよ。環境を変えないとレティーナは壊れてしまう」
白髪の少年の言葉にミシュベルはキョトンとした。
「こわれる??」
「そう、君のおうちも氷漬けになって壊れてしまうだろうね」
「じゃぁ帰ってこないでねお姉さま。さようなら」
「レティーナ、元気になったらまた会おう」
ラミネルも渋々帰って、部屋には静けさが戻った。
「疲れた。話が分からない者達を相手にするのは本当に疲れる」
「迷惑ばかりかけて、ごめんなさい」
「迷惑なのはさっきの連中だよ。謝らないで」
「本当に私の魔法の指導して下さるのですか?」
「ああ、陛下にお願いしよう」
「嬉しいです」
この日ルナフィスは一貫して彼女を守った。モナの言った通り彼はレティーナの味方だった。
太陽が沈み月が昇るとルナフィスは広いテラスに出て空を仰いだ。夜になれば月の光の元で彼は王国一の大魔法使いとなる。
だがそんな魔力も今や無用の長物だ。数百年も前に魔王は勇者によって倒された。今は平和な世界となり弱体化した魔物がダンジョンや人間界に残っているだけだ。その魔物も冒険者達の生活の糧になっている。
ルナフィスに宿る【月神の加護】を外す方法はある。
神殿で教皇が祈りを捧げれば加護は神の元に返されるのだ。
だが、咎人でなければ加護外しは出来ない、加護は授かったからには何か神の意志があるのだと教皇に拒否された。
罪を犯せば加護を外すだけでなく、罪人の証として左手首を切断だ。善人のルナフィスに罪は犯せない。
「神は不公平だな。弟は全てを手にして、可愛らしい婚約者もいる」
(ラミネルとレティーナには仲良くなって欲しい。一緒にいたのはわずかな時間だがレティーナは素直で可愛い、そして可哀そうな女の子だ。ラミネルがもっと寄り添ってあげればいいのに)
ルナフィスには婚約者はまだいない。生まれて一度も神殿で<伺い>すら行っていなかった。
彼自身も太陽神の呪いを受けた身で将来婚姻できるなどと考えてもいない。
読んで頂いて有難うございました。




