10 再覚醒
レティーナは目覚めると知らない場所に戸惑ったが、モナからこれまでの経緯を聞いてルナフィス殿下に救われたのを知った。
「ルナフィス殿下が助けて下さったんですね、有難うございます」
「ここでゆっくり休むといいよ」
「王子妃教育があります」
「勉強は当分しなくて良いのですよ。ゆっくり休息しましょう」
「でもモナ、貴族名鑑を丸暗記しないと、それに外国語も覚えなきゃ、課題もいっぱい出てるの」
俯くレティーナの肩にルナフィスは手を置いた。
「そんなのしなくて良いんだよ。貴族名鑑の丸暗記なんて私だってやってない。外国語も時間をかけて覚えればいい。まだ10歳の子が慌ててやる必要はないからね」
「やらなくてもいいのですか?」
「ああ、今まで辛かったね。レティーナ嬢、母上が酷いことをして済まなかった。今後は母上からの指導は無いから安心して。教育係も入れ替えると陛下が約束したからね」
「あ……」
レティーナは涙を零し顔を覆った。それが全てを物語っており、ルナフィスは本当に申し訳なく思った。
レティーナが目覚めたと聞いて早速父シオンとオーサー・グナード公爵が一緒に訪れた。
「公爵様、ご心配をおかけしました」
「元気になって良かった。ジェルドから聞いて本当に心配したんだよ」
「もう大丈夫です」
「今日は君に提案があって来たんだ。聞き入れて欲しい」
公爵はレティーナをこの後自宅に引き取りたいと申し出た。ずっと王宮で世話になることは出来ない、環境を変えるならグナード公爵家で過ごせば良いと言ってくれた。
「シオンには許可を得てある。な、シオン?」
「ええ? それはまだ……ああ、そうだった」
「任せてくれ。レティーナ受け入れてくれるね?」
「お父様、本当にいいのですか?」
「あ、ああ、そうだな……」
煮え切らないシオンにモナはイラ立ち、ルナフィスは苦笑した。
「私もグナード公爵家が安心だと思う。ジェルドといつでも一緒に遊びにおいで」
「はい!」
「公爵様、宜しくお願い致します」
「ああ、大歓迎だ。準備を始めるから少しだけ待ってておくれ」
離宮を離れるとオーサーはシオンに詰め寄った。
「シオン! どうせ夫人に止められたんだろう! 世間体が悪いとかなんとか言われて!」
「そうだ、妻にもチャンスを与えてやってくれないか」
「鞭で子どもを痛めつけるようなクソ女だ! あの時もお前は二度とこんなことはさせ無いと言った。それがどうだ、魔力暴走を起こすほど追いつめて何がチャンスだ」
「言い過ぎだよ、あれから妻は折檻はしていない。今回は王太子妃が原因なんだ。少しの間だけ君にレティーナは預けるけど私の娘であることは忘れないでくれよ」
「子は親を選べない。不幸だなレティーナもルナフィス殿下も」
「うぅ……」
魔力を暴走させてレティーナの魔力は大きく上昇した。これは嬉しい誤算である。魔力の再覚醒を起こしたと言っても良かった。普通は成人してから心身共に鍛えて再覚醒を促すのだが、レティーナはたった10歳で再覚醒したのだ。
「君は庭園を氷漬けにして薔薇を半壊させた。さすがテイラー侯爵家の血筋だね」
「王室の薔薇を……私とんでもないことを」
「薔薇はまた植え直せばいいよ、気にしないで」
「本当に?」
「うん、君は魔法の腕を上げるべきだ。水魔法は重宝される。人々の暮らしにも役に立つからね。体調が良くなったらジェルドと一緒に魔法の訓練をしようか」
「はい、お願いします」
「曇天か雨の日に来て欲しい。私も外に出られるから」
ルナフィスは太陽の日差しを浴びると皮膚が焼け爛れる太陽神の呪いが掛かっている。レティーナと出会えたのも雨が降っていたからだ。曇天と雨の日が彼の散歩日和になっている。
翌日はジェルドが来て公爵邸ではレティーナを迎える準備ができたと教えてくれた。
「父上がそれはもう楽しみにしています。甘えてあげると喜ぶと思います」
「まぁ、では抱っこしてもらおうかしら」
「あはは、きっと喜んでやってくれますよ」
穏やかに過ごしていたレティーナだったが、この後ラミネルとイザベルとミシュベルが離宮にやって来た。
庭園の方から回り込んで裏門から突然現れた為、護衛騎士達は第二王子と侯爵夫人の訪問を防ぎ切れなかったのだ。
「お姉さま──!」
久しぶりに聞いたミシュベルの声にレティーナは眩暈がした。
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