一歩前進
【人物紹介】
直人 なおと。19歳。大学1年。根が真面目。初デートは焼肉へ。
聡志 さとし。52歳。係長。美人局の経験あり。ガラケー打ち。
義人 よしと。24歳。社会人2年目。現在休職中。
部下 ぶか。28歳。聡志の部下。アプリを紹介した。
焼き肉店
なおと「こんな高級そうなお店でいいんですか?」
聡志「初めてのデートだよ?安ラッキー亭とか牛脚のようないつでも入れて個室もないところには行きたくないじゃないか。でも安心して!この店は個室がある割に安いから。肉は美味いから。ね」
デートという響きにその後の言葉はほとんど入ってこない。直人にとって人生初なのである。
聡志「聞いてる?なおと君。ご飯はいる?嫌いな野菜とかあるかな。肉は適当に王道のタン塩から注文してあるよ。大丈夫?おーい。なおと君」
なおと「あ。はい。大丈夫です」
聡志「そっか。大丈夫ならいいんだ。分からないからご飯と野菜はセットで注文してあるよ。スープも必要だよね。カルビスープなら辛くないから。とりあえず、ウーロン茶で乾杯しよっか」
なおと「あの。仕事終わりで、ビールとかでなくて良いんですか?」
聡志「ありがとう。ふふ。いいんだよ。せっかくのデートで、浮かれすぎてなおと君に迷惑かけたくないからね。今日はセーブしないと。ほら。カンパーイ」
ジョッキ片手に乾杯。冷たく冷えたウーロン茶のノド越しの良さ。グッグッグとノドを鳴らす。
聡志「ぷはぁ。ごめんね。さっきいっぱい汗かいたからつい」
ピンポーン
卓の呼び出しボタンを押す。
ウーロン茶をピッチャーで頼む。
ウーロン茶のピッチャーが届くのと同時に、タン塩2人前とロースと上カルビとごはん2つとカルビスープが1つずつ運ばれる。
聡志「じゃあ焼いていくよ。焼き加減はあるかい?ちなみに私はミディアムレアかな。なおと君はどれくらいがいいかな」
なおと「しっかり焼いたのが良いです」
聡志「わかった。しっかり焼くね」
それから何度か注文し食後のデザートのソフトクリームを食べて完食。
聡志「支払いは、カード。タッチで。はい。一括です。はいごちそうさん。美味しかったよ」
店員「こちらガムです。お好きなだけどうぞ。またのお越しを」
ガムを1つずつ戴き外に出る。
聡志「美味しかったな。うん。はぁこれは口も体も臭そうだ。はははは」
豪快に注文し豪快に食べる聡志は見た目以上だった。直人は、初めて出会った公園でのあの悲痛な声で叫んでた人と同一人物には思えないくらいで面食らう。
聡志「ほら。ガム。食べなよ」
なおと「いただきます」
聡志「まだ帰るのに時間はあるかな。良かったらそこのベンチに座らないか」
言われるままベンチに座る。
聡志「ずっと元気なかったけど大丈夫かい?ひとり焼肉は家ではするけどあまり店ではしないんだ。だから、なおと君と一緒に食べてくれて楽しかったよ。久しぶりに職場以外の人と食事が出来て楽しかったな。次もデートしてくれるなら行こう。リクエスト待ってるよ」
なおと「あの」
聡志「うん?」
なおと「なんだかすみませんでした」
聡志「なにが?」
なおと「聡志さんに何から何まで任せっきりで。お肉まで焼いてもらって」
聡志「そんなこと?いいよ。楽しかったし。なおと君みたいな若い子と食事できるなんて幸せだよ。気にしなくていいからね」
なおと「ぼく。聡志さんになにかお礼しないと」
聡志「いいよ。もう充分いただいたよ。それより今日の分いくら支払えばいい?」
なおと「そんな。そんなこと出来ません!」
聡志「それだと、ただのデートだね。私は良いけれど、それじゃあパパ活にならないよ?」
なおと「せめてこれくらいは」
ぷにっ
頬にキス。
慣れないことをして唇近くの頬にキスをする。
聡志「え?あ。ああ。そうか。お礼か。うん。ありがとう」
なおと「ごめんなさい。慣れてなくて。でもなにかお礼できればと思って」
聡志「うれしいよ。はぁあああ。こういうの久しぶりだな」
ふたり照れ笑い。
聡志「じゃあ、今日は知り合った記念のデートってことで。次回から、パパ活にしよう。それで、次回はいつにする?」
連絡を取り合い、アプリを通さずに電話とRINEを交換。
聡志「連絡の他に、(恋人)ごっこでいいからなにかメッセージして」
おじさんらしくへりくだる。
帰り道直人からのキスに喜び、頬から漂うニンニク臭もこの日に限りフローラルな香りに感じる。
また見てね