8.溺愛エンドへ
水音と共に二人の唇を繋ぐ糸が伸び、断ち切られる。
エインリズはアークロッドに微笑みかけた。
「威勢のいいこと言ったって、あなたは純な人でしょう」
「え、……えっと…………くっ、生意気。俺はっ……お前をメチャクチャにできるんだからな」
ここですぐ、エインリズから押し気味で
虚勢をはる彼を求め、一線を越える。
それがこのルートの、ベストエンド確定フラグだから。
彼の首筋に手を当て、指先で上から下へ撫でる。
「う……はぁっ、お前……」
「いいよ、……私、あなたが好き」
「お、お前まさか、経験あるのか……?」
碧の光に嫉妬が閃く。もしも相手がいたら、滅するという殺気を出して。
「ないよ。だから、ぜんぶ渡すのはアークにする……もらって?」
「っ!! んだよ……反則じゃねーか、こんなん我慢できねー。もう抱くぞ、俺の身体良すぎて離れられないって言わせてやるからな!」
「ふふっ、気の大きいことばっかり。……いいよ、あなたになら何されても。好き」
「なんて、男心に悪いやつだ」
好き、その言葉で心がいっぱいになって彼を求めてしまう。
もう一度、互いに近づいて触れさせた唇は柔らかくて、あとはどんどん気持ちがのってくる。
考える事を放棄してしまいそう。
「……はっ、甘い……お前、美味すぎ」
テラスの寝椅子という解放された空間であるにもかかわらず、アークロッドはエインリズに被さってきた。
・:*+.
夜気が、火照った身体を冷ましていく。
気づけばアークロッドに熱心に見つめられていた。
「まだ、再会していくらもないのになんでって思うかも知んねーけど……俺はさ、お前を愛してるんだ。いや、ずっと……愛してきた」
微笑んで、優しく髪を撫ですかれる。
「お前は俺が幸せにする」
その言葉に、エインリズはへにゃりと微笑み返した。
──もう幸せよ。
この世界でエインリズとして生きられて、最高に理想的な男性から長きにわたる愛をぶつけられて。
身体中に満ちた温かくて甘いものへの感謝をどう彼に返せばいいのか。
考えるエインリズの心を読んだようにアークロッドが言う。
「手をとってくれたらいい」
「え……」
「他は何もいらないから。だからこうやって手を、指を絡めて……そうだ」
大きなアークロッドの手に、指を絡めてきゅっと握り返す。
それでアークロッドは出会ってから見せたこともないほどの、険の抜けたほわっとする笑顔を見せてくれた。
「ありがとう。……お前を愛せる幸運に感謝してる」
「あ、アークは。いちいち大げさな人ね」
「そうか?」
互いに手を組んだまま、アークロッドと穏やかに抱き締めあった。
素肌のぬくもりと、優しい大きな手はエインリズに安心を与えてくれる。
これはルートの出だしにすぎない。
これから、彼と幾度も激しく愛しあい、快楽を探求しあい、彼と世界の全てをひれ伏せさせて、末永く幸せな日々を過ごす。
その道は今、確定されたのだから。
・:*+.
書斎でアークロッドが椅子に背を沈めれば、ムラウニーが湯気たつ珈琲を持ってきた。
用意のいい彼らしい。
「これで良かったのですかな」
「もちろん、後悔はない。よくやった。ちゃんと俺のいったことを守って『追憶たる銀矢』コードを使ってくれたんだな」
「エインリズ様に申し訳ない……神世の記憶をお持ちになるのは、お辛いのではないでしょうか」
「他の奴のモノにされるよりいいだろ。どいつもエインリズが痛もうと自分の愛を押し付ける、クズだ」
「しかし、選択者であるエインリズ様に神世の認識を持たせることなく、救えなかったのですか」
「……あいつが俺と結ばれるのは、この狂った世界でだけだ。神世の記憶と自身の選択がなけりゃ、こんな異常ばかり起こっている世界に耐えられない。そう思わないか?」
コーヒーカップの淵に口をつけ、小脇に目を向けた。
今日も窓の外の木々は金色だし、庭師は脚立から落ちては落ちて、繰り返し落ちまくっている。
「俺はいい、あいつが神々の世界の過去を宿していても。そのせいで俺とは違うってどこかで思う日が来るとしても。俺がこの手であいつを幸せにできる、そこだけが重要で、全てなんだ」
誰よりも誰よりも幸福に。
彼女にはその資格がある、誰よりも、特別な世界の選択者。
アークロッドを解き放ち、光の下に連れ出してくれた運命の君。
「さぁ行くか、あいつと。綻びを正せる力を持つあいつに世界の全てが跪く。恒久の至福をあいつのため手に入れるんだ」
(この世界は、もうお前のもの。俺がこの世界の全部、お前のために差し出させてやる)
・:*+.
かつて世界は『綻び』に侵され、滅びの危機に瀕していた。しかし綻びを繕う聖女が現れ、世界は息を吹き返す。
聖女はその清き心で、迫害され続けた『綻び病』の患者を癒した。彼らと共に夫である第二王子を旗頭にクーデターを成功させ、第二王子を王の座につける。
世界と病んだ人々を救った王妃と、その伴侶の国王は民に深く愛された。
しかし国民全ての愛を合わせても敵わないほど、国王夫妻はお互いを深く愛しあい、幸せな生活を送ったのだった。
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