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4.因果応報


 アークロッドは国王の子息である四兄弟の二番目だ。一番目の兄も、アークロッドも生母の身分が低いことから後継になれず、三番目のヘミヴンが王太子となった。

 それだけなら、優雅に生活していられたろうに。


 彼は世界の綻びが身体に現れ『綻び病』として迫害を受けた人々の旗頭となり、彼らの為に蜂起したのだ。

 国王は激怒し、『綻び病』患者ごと王国から排斥され、顔の利く領地で抗戦したが敗れた。


 囚われたアークロッドは海神への生贄として、魔力を封印された。

 その後、棺に詰められ海中へ沈められたのだ。


「封印はすぐ解けたけど、周りが毒海水じゃ出られなくて。ずっと魔法で休眠を繰り返し時を待っていた。お前が海を浄化したおかげで出てこれたんだ、感謝する」


(思い出のお兄ちゃんは、かっこよかったけど、こんな超絶技巧こらしたようなイケメンじゃなかった。……数年の時と、攻略キャラ補正は偉大だわ)


「アークお兄さま……」

「……懐かしいな、その呼び名。でももうナシだ。寝てる間に歳の差は縮まったことだし。お前とはもっと対等に呼び合いたい。これからはアークと呼べ」

「アーク」

「そ、……やばい。……お前イイ女になりすぎるぞ。胸が苦しくなってかなわん、もう誰にもお前の姿を見せてやりたくない。お前が誰かの視線を受けるだけで嫉妬しそうだ……」

「あ、アーク? いくらなんでもそこまでは、思い詰めすぎじゃない? 私に恩を感じてちょっと感情が極まってるだけよ、ね?」

「助けてくれたから、義理でこんなこと言ってるんじゃないぞ。俺は、ずっと、ずっと……」

 

 ひた、と見つめていた目が辛そうに細められ、言い淀んだアークロッドはふいっと首を左右に振る。


「お前を困らせたくはないしな、まずは落ち着こう」


 にこ、と軽く微笑めば小春日の陽だまりのよう。心が疼く。

 ここはしょせんゲーム世界、と冷めた目線で世界を眺めていたエインリズの心が、アークロッドによって激しくかき鳴らされていく。


 前世の記憶が優位になっているが、やはりエインリズは『エインリズ公爵令嬢』でもある。

 アークロッドをエインリズとして覚えている。

 年下のエインリズのことも一人前のレディとして扱って、優しくしてくれた……憧れのお兄ちゃんが、成長し凛々しさに磨きがかかりまくってここにいる。


(アークお兄……アークは、ませてるって邪険にされてた私に付き合って遊んでくれたのよね。今も、やっと棺から出られて大興奮だったのに、私を困らせたくないって、そのために色々抑えてくれた……変わらず優しい)

 

 一秒ごとにアークロッドに心奪われる自分を噛みしめていたのに、邪魔が入った。


 ヘミヴンが略奪令嬢を伴ってバシャバシャ海水を跳ねさせやってきたのだ。


「そこのお前!! アークロッドか!?……い、生きてたのか。どうやって……ずっと海中に……? こんなにも長い間海でどうやって生きてたんだ!!」


アークの背に庇われた……のだがエインリズは己の目を疑った。


「ヘ、ヘミヴン殿下……」

「ん……、なんだエインリズ。僕の顔をそんな驚いた表情して見て。何かついているか?」

「つ、ついている……といいますか……!!」


(ついていないのよ! ……髪が! バグってるわ!!)


「どうした、そんな熱心な目で見るなよ」


 自分の美貌に見惚れていると勘違いしている王太子からサっと顔を背けた。

 

(熱心にもなるわよ! 噴き出して大笑いしそう!)


 王太子の髪は位置情報がバグってしまったらしい。

 ツルッツルの丸い肌色頭になってしまっていた。


 なまじ目が大きいキラキラした顔で、いつもフリルが派手な装飾上着ばかり着ているから、その頭では不釣り合いすぎてとても浮いている。

 バグとはいえ、本人以外は皆、王太子の異常を認識しているらしい。

 衛兵も随従も、ヘミヴンを腫れ物なのでさわりたくない、けど気になって目が逸らせないようだった。

 新たな婚約者に据えられたブリュンエットも。

 なんというか、戦慄いてる。


「ヘミヴン久しぶりだな、つーか俺が思ってたより年月たってた? お前頭禿げ上がってんじゃん。ツルッ禿げ!」


 アークロッドが笑いを噛み殺すもので、ヘミヴンは初めて自身の頭に触れる。


「あああああああ!? 髪が! 僕の髪がああああああああ。どうなってるんだ……」

 

 この珍事にさしものブリュンエットも嫌そうな顔で、一生懸命にヘミヴンから距離を取ろうとしていた。だが彼女の両足は別の意志でも入っているようにヘミヴンへと歩み出す。


「ふん、廃された第二王子が今更出てきたところで。わたしのい……ぃ……愛、しい王太子殿下の輝かしい未来になんの変化もございませんわ」


 顔は嫌そうだったし、言葉もつかえながらだったけれどブリュンエットは所定のセリフを述べてヘミヴンの頬に口付けた。


「あああ、ちょっとお待ちになっていやあああああ」と喚いているあたり、抵抗しようとしている事が見て取れたが、叶わなかったらしい。


「ブリュンエット!? 君なら僕の見た目が少し変わったくらいで、愛を失ったりしないだろう」

「……それはそれ、これはこれですわ! わたしは……わた…………っ、………………!?」


 ブリュンエットの言葉がつっかえつっかえになる。

 金魚のように口パクをしているのに、音声がない。

 所詮、脇役キャラ。バグろうがバグらなかろうが、彼女に選択肢はこないのだ。


 ゲームの強制力を振り切れない彼女は心底嫌そうな顔をしながら王太子に抱きつきしなだれかかっていく。


「って、な、なんだお前!!」

「え」

 

 ヘミヴンに指摘され戸惑ったブリュンエットが振り向く。

 エインリズはつい、その顔に指差してしまった。


「ブリュンエット、あ、あなた、お顔が」


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