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慟哭


——ルシア・カトリーナが帝都を離れた直後、騒動が過ぎ去った城の内部では、息を切らしながら駆け抜ける一人の女の姿があった。


 動揺に揺れる貴族達の横を抜けて進む彼女の視界には、その先にいる自身の部下の姿だけを捉えていた。




「⋯⋯はっ、はっ、⋯⋯モルドレッド!」



 肩を揺らしながらそう叫ぶのは、治療を受けながら搬送される彼女の主君であるローラ・ギルバートであった。



 そんな彼女の声に反応したのは、小さくて静かな一つの声であった。




「⋯⋯っ。あなたか。」



 複数人の騎士に運ばれながら、城の廊下を進むモルドレッドを治療する青髪の聖女、ミーティアは、額に汗を滲ませながら振り返る。



「⋯⋯ローラ様、申し訳、ありません。勝手な⋯⋯。」



 そんな中、主人の声を聞いたモルドレッドは、不規則な呼吸の中で、彼女の手を取る。



「⋯⋯モル、ドレッド。」



 青白くなる部下の顔を眺めながら、ローラは呆然とした表情でその名を小さく溢す。



「⋯⋯どうか、無理を⋯⋯なさ。」



 そこまで呟くと、モルドレッドは掴んだ手の力をゆっくりと緩めて意識を手放す。



「⋯⋯っ。」



 直後、ローラ・ギルバートの視界は、真っ赤に染め上がる。




「⋯⋯薬をありったけ持って来て、あと回復魔法の使い手も。傷が深いから集中治療に切り替える。」



 その横では、ミーティアが周囲に淡々と指示を出して治療の体制を整える。



「騎士も魔法師も、人員をかき集めろ!襲撃者と、重要参考人にルシア・カトリーナ嬢を追え。」



 少し遅れて、騎士団長であるランスロットが周囲の騎士達に指示を飛ばす。



「⋯⋯ル、シア?」



 皮肉にも、動揺するローラの脳内には、断片的な情報のかけらだけが刻みつけられる。



 するとそんな彼女の背後から、とある声が響く。




「——随分な大騒ぎだけど、何が起きてるのかな?」



 振り返った先には、先ほどまで彼女と行動を共にしていた、騎士団副団長のエリサンの姿があった。



「エリサン様!報告致します。」



 ローラが話しかけるよりも先に、近くにいた騎士が彼の前に飛び出して膝を突く。



「数刻前、城門前にて何者かの襲撃があり、応戦した鉄章騎士数名と、銀章騎士であるモルドレッド様が重症を負っています。現在、銅章騎士クシャトを中心に追跡部隊が向かっています。」



「クシャトが行ってるのか、なら戦力的には足りてるかな?」



 情報を聞いて、エリサンは一瞬目を見開いた後、冷静に情報を分析する。



「しかしながら、容疑者は二手に分かれたようで、団長より、手の空いている金章騎士が向かうように、と。」



 ホッと一息をつく間も無く、部下の騎士は言葉を重ねると、エリサンは面倒くさそうに頭を掻きながら視線を外す。




「今すぐ動ける金章ゴールドクラスは?」



 そして絞り出すように目を細めながら問いを続ける。



「グリセラ魔法師団長と、フロスティア様だけです。」



「⋯⋯実質、僕指名じゃないか。光栄だね。」



 返ってきた答えに対して、ため息混じりにゆっくりと伸びをしながら呟く。



「それで?僕はどんな奴を追えば良いのかな?」



「はい、ルシア・カトリーナ様です。」



「「⋯⋯っ!?」」



 直後、返ってきた答えに、エリサンだけでなく、その背後にいるローラも目を見開いて息を呑む。



「エリサン様、私もルシア・カトリーナを追います。」



 間髪入れずに、ローラはエリサンの前に出る。



「我々と、ですか?」



 戸惑いながら投げられた問いに、ローラはどす黒く滲んだ眼光を返す。



「⋯⋯ローラ様、それは少しリスクが⋯⋯っ。」



「私なら彼女の行き先を読めます。」



 背後で止めに入る騎士の声を無視して、ローラは淡々とそう宣言する。




「⋯⋯⋯⋯。」



 刹那の時間、互いの視線が交わる。


 その末に、エリサンは彼女の眼光に気押されて静かにため息を吐き出す。



「分かりました、しばし支度の時間を頂きたい。」



「⋯⋯感謝します。」


 踵を返すエリサンの姿に、ローラは頭を下げる。







 騎士達が去った後、ローラは頭を下げたままの姿で地面を眺める。


 ただじっと、黙り込みながら。


 静かに、それでいて黒々と輝く眼の光が誰の目にも触れずにその濃さを増していく。



「——ルシア・カトリーナ。」



 そして、吐き出された言葉は、ひどく低く、廊下の端で響く。



「貴女は私から、全部を奪う気なのね。」



「⋯⋯許せない。」



 噛み締めた唇から鮮血が滴り、煌びやかな廊下の床へと落ちる。



「絶対に⋯⋯許さないっ⋯⋯!」



 顔を上げた先でそう呟く彼女の表情は、修羅の相が浮かび上がる。


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