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執行・I


 主君と離れ、レジスタンスの戦士と剣を交える中、俺は戦場と化した帝都の街を駆け抜けていた。


 混沌に包まれる戦場の中で、俺は想定以上の苦戦を強いられていた。




「グランストーム!!」



 飛翔する瓦礫の山が眼前に迫る。これももう何度目か。



「きゃあ!?」



「……っ、ダウンミラージュ!!」



それを守るために魔法を障壁として展開し、攻撃を防ぎながら、市民を逃がす。


 主君のサポートがあるにもかかわらず、こんな不甲斐ない状況になったのにもいくつかの理由がある。


 一つは地形と戦場。これまでのどの戦場よりも入り組んでいて、壊すことの許されない繊細な戦場は、攻撃の選択肢が否応なく絞られる。


 もう一つは奴の動き。徹底して距離を取り、時折意図して一般人を巻き込むように放たれる魔法にこちらは対処をせざるを得ない。互いの状況をよく理解した戦い方だ。


 そして、最も厄介なのが奴自身の実力の高さだ。


受けに特化しており、こちらの攻撃を的確にさばいてくる上に、あの魔法だ。



水弾と雷が風に乗って降り注ぐ。その光景はまさに嵐。



複合属性魔法リミックス・スペルか。」



 俺の言葉に奴は僅かに口角を吊り上げる。



 なるほど、水と風と雷、三種の魔法の複合か。



 面倒な相手ではあるが、対処は出来る。



「グロスロック!」



 生み出したのは凍結の魔法。飛来する水も瓦礫もまとめて受け止めて、氷の壁を生み出し、遅れて飛ぶ風と雷を相殺する。


 厄介な攻撃ではあるが、これなら一手で対処できる。



「…………っ、なかなかやるな、英雄。」




「…………。」




 やり辛い。



カモミールの街で戦ったクシャトとはまた違う厄介さ。



 あれが力による制圧だとすれば、こちらはじわじわと選択肢を塞いでくるような感覚。



 このやり方は主君に似ている。



 会話をするだけ無駄な気もするが、このままでは埒が明かない。



「……どうした?」



 俺が構えたまま動きを止めると、奴は眉を顰めて問いを投げてくる。



「何故時間稼ぎをする?貴様は俺たちを殺しに来たのではないのか?」



 切り返して投げた問いに、薄ら笑いだけが返ってくる。



 反応を見るに目的は恐らく時間稼ぎで間違いない。



 奴の動きは最初の戦場から時を経るごとに離れていっている。



 ならば目的は主君である可能性が高い。



 そこまで思考を回すと、俺は再び剣を握る力を強める。



「……ならば、そこを退いてもらおう。」



 そして、路地裏へと飛び込む奴を追って飛び込んだ瞬間、肉体から力が抜けていく感覚を覚える。



 同時に、俺の身体を包んでいた柔らかく温かい力が消えていく。遅れてそれと入れ替わる様に、僅かな不快感が体の中で膨れ上がっていく。



「――かかったな。」



 怪しく輝く奴の笑みに、俺は自らの身体に起こった事実を理解する。



「……っ、これは!?」



聖女の祝福が、解除された。


 それを理解したころには、周囲の景色の端に、禍々しい色を放つ魔術刻印が刻まれているのを見つける。



「貴様の事は知っていると言っただろう?」



 攻める足を止める俺に対して、目の前の男は踵を返してこちらに歩み寄ってくる。



「貴様は呪われている。普段なら魔法を使えないほどにな。それをあの聖女崩れに無力化させることで戦闘が可能となる。」



「故に、その魔法の繋がりを断ち切った。」



 仕組みは恐らく魔法の障壁展開の応用。最初からこの辺り一帯に魔術の刻印を設置し、俺が入り込んだ瞬間に自動発動するようにしていたのだろう。



 聖女の祝福の魔法特性上、魔力の繋がりそのものを断ち切るのは最もシンプルで難易度の低い対処法だ。この魔術も、やっていること自体そう難しい事ではない。



ただ、あまりにも対処が正確過ぎる。



「英雄アレス・イーリオス。お前の強みは無尽蔵の魔力を用いた高火力の魔法と、その発射口として剣を交えた、魔法剣術にある。つまり、その両翼を封じれば、私でも対抗しうる。」



 そして、俺の弱点をこの男は知り過ぎている。




「……随分と詳しいんだな。」



「レジスタンスの情報網を侮るなよ。」



 言葉と同時、男は強烈な風を巻き上げて周囲の建物を削りながらその瓦礫を飛ばしてくる。


 狭い路地での面攻撃、厄介ではあるが、守る対象がいない分、対処はしやすい。



「……っ、はあ!」



 俺は建物の壁を蹴って頭上に抜けると、追随する攻撃を斬撃で撃ち落とす。



「想像通りではあるが、やはり剣術それも厄介だな。」



 そんな言葉を耳にしながら、俺は咄嗟に奴から距離を取る。


「…………。」


 迷いのない魔法の選択といい、魔法封じといい、相当考えて準備をしてきたのが分かる。


 使える魔法は後二回。敵の手札は恐らくまだ残っている。


 油断したわけではないが、想定外の不利を背負ってしまった。


 このまま主君と合流するか、強引にでも勝負を決めに行くか、あるいは奴の時間稼ぎに乗るか。



「……さて、どうしたものか。」



 呪いと共にせり上がる不快感と真綿で締められるような閉塞感に思わず苦笑いが零れる。







 モルドレッドによる皇帝陛下を巻き込んだ証拠の提示と悪事への追及。



 矢文という古典的な手段を用いた情報力の提示。



 処刑という差し迫った現実を突きつける事で起こす心理的な動揺。



 そして、それらを使って用意したこの戦場。



 レジスタンスの襲撃によって人の気配もまばらになった中で向かい合う、貴族ザイオン元聖女わたし。およそ実現性のないシチュエーション。



 かなり無茶をした。ギャンブル性の高い作戦でもあった、けれど、なんとか間に合った。




「――御機嫌よう、ザイオン様?」




 私の言葉が、帝都の広場に響く。



 わざわざ屋根の上に登ってまで見下ろしたかった間抜け面が、確かに今そこにあった。



「き、さま……は……っ。」



 言葉を詰まらせる彼の表情が徐々に赤みを帯びて歪んでいく。



「あら?今回もおひとりなのですね?お友達や弟様は……ああ、失礼しました。」



 そんな彼に対し、私はわざとらしく、くすくすと鼻を鳴らしながら挑発をする。



「ルシアッ…………カトリーナァァァァァァァァァァ!!」



 あの時とは随分と違う。余裕のない絶叫が木霊する。



 それがたまらなく私を興じさせる。



 私は漏れ出しそうになる笑顔を張り付けた鉄面皮で覆い隠し、口を開く。



「口を慎みなさい!帝国を脅かす反逆者よ。」



 なるべく沢山の人に届くように、なるべく端的に伝わるように、出し慣れない大声を響かせる。


 周囲に残る、逃げ遅れた人々が少しずつ足を止める。



「誰に向かって口を聞いている!このドブネズミが!!」



 売り言葉に買い言葉。強い言葉に返ってくる、強い言葉。



 強い語気で放たれた罵声は否応なく周囲の人間の興味を引き付ける。



 そうだ。これでいい。これで全ての条件は整った。



 それを見極めた上で、私は次の手札を切る。




「もちろん、貴方に対してですわ。レジスタンスの手先に落ちた大逆人。」




「レジスタンス……?」



 私の言葉は周囲の人間に強い不信感を作り出す。


 騒ぎを聞きつけて集まってきた兵士達、逃げ遅れた市民達、そして、ザイオン・グランツ。すべての視線が私に集中する。



「レジスタンスとの結託。魔物を暴走させる悪しき劇薬の作成。それを用いたヴィルパーチ村への襲撃。そして、ギルバート家当主代理、ヘレン様の殺害。」



 その視線に対する私のアンサーは、胸元から取り出した紙束であった。



「それらの罪を、白日の下に明かしに参りました。」



 言葉と共に、巻き上げた紙束が周囲に降り注ぐ。



「…………っ。」



「証拠は揃っていますわ。」



 ひらりと舞い落ちて彼らに届けられたのは、ザイオンの悪事の書かれた新聞。



先程まで配り回っていたものと同じものだ。



 内容の衝撃が変わるものではない。しかし、この場においては致命的な攻撃と化す。




 この戦いの本質は「完璧な証拠で殴ること」ではない。



 「半端な証拠を最大火力でぶつける」戦いなのだ。




「…………これ、どういう事?」



「貴族とレジスタンスが?」



 目の前で起こるレジスタンスの暴走。逃げ回る疑惑の貴族。正義ヅラした元聖女。そして、一見隙のないように見える証拠をまとめられた新聞。



 市民の疑念に火をつけるのには十分であった。



「ち、違う。私はっ……!」



 そしてここからは、少しばかりの嘘を混ぜ込む。



「往生際が悪いですね。…………すべては貴方の差し金でしょう?七日前のあの日、貴方はレジスタンスに合うために、人気のないところで彼らと合流した。」



「全てはギルバート領にある、二つの花を独占するために。」



 明らかに事実と反した言葉でありながら、ザイオン以外はそれを知らない嘘。これが私が最後に仕掛ける彼への罠。




「…………それはお前がっ!!」



「貴方は自らの私欲の為に、レジスタンスに指示を出し、ギルバート領を火の海にしたのです。」



 否定しようとする彼の精神を逆撫でするように私は言葉を重ねて彼を否定する。



 そしてついにザイオンの口からその事実がこぼれ落ちる。




「違うっ!!あそこに呼び出したのはお前だろう!!それに、私はあそこまでしろとは…………っ!」



 瞬間、彼は強く息を呑んで動きを止める。



 言った。遂に認めた。



 それまで抑えていた感情が僅かに口元を浮き上がらせる。



 叫びたくなる感情を抑えて、私は小さく息を吐き出す。



「呼び出した、という言葉の意味は分かりませんが、レジスタンスとの関わりは否定しないのですね?」



 ザイオン本人による自爆。



 ここまで状況と観衆を揃え、引き出したかったその言葉を徹底的に糾弾していく。



「あ、うあ……。」



 怒りよりも恐怖が渦巻く表情で、ザイオンは息を呑み、黙り込む。



もはや勝敗は決したといって良かった。



 そして、この戦いにピリオドを打つように彼の背後にいたモルドレッドが言葉を挟み込む。



「――ザイオン様。これは明確な背信行為です。部屋に戻って頂けますね?」



 中立でありながら確かにザイオンを責め立てるような伝え方。私との繋がりも伏せてある良い言葉選びだ。



「…………き、に。」



 全方位から向けられた視線と、証拠の数々に追い詰められたザイオンは、小さく口を開く。




「……っ。」




 直後に飛んできた殺意に私は反応して身構える。



「お前ごときに!!」



 私の直感が示した通り、直後にザイオンのその手に炎の魔力を込めて大きく手を振り上げる。


 しかし、それはあまりにも遅すぎた。




「――ラスティネイル」



 炎が彼の手を離れるよりも早く、私の魔法がその手を貫く。



「……っ、がぁあ!?」



 霧散する炎の中で蹲る彼へ、私は間を開けずに手を伸ばす。


 都合よくあちらから手を出してくれたのだ、このまま追撃させてもらおう。




『――翼を縛れ』




 私の詠唱に合わせて周囲の建物から黄金色の鎖が飛び出す。



「……っ!?」



 そして、腕を撃ち抜かれて怯んだザイオンはなす術なくその鎖に縛り上げられる。



 拘束魔術、初めてやったがなかなか悪くない。



「…………はっ、はっ。」



 息を切らしながらこちらを睨むザイオンにはもはや、抵抗する力も、声を上げる力すらも残っていなかった。



 ――勝った。私の勝ちだ。



 彼の姿を見ると、そんな感情が湧き上がってくる。


 肩の力が抜けた私は、屋根の上から飛び降りてザイオンの方へと歩み寄る。その途中で、私の視線はモルドレッドを捉える。



「ルシア・カトリーナ様、協力、感謝します。」



「いいえ。後はお願いしますね。」



 喜びを分かち合う事はない。健闘を称えるわけではない。私達はただ互いに視線を交差させた後、余所余所しく言葉を交わす。



「……これで、貴方も終わりね。」



 そして彼女とすれ違った後、私は、ゆっくりと歩みを進めながら、周囲の喧騒の中に消え入りそうな声で、ザイオンへと言葉を投げる。



「あ、あ、嫌だ…………死にたくない…………。」




 絶望に染まる彼の顔を下から覗き込む。



 愉悦が背中を奔り、快感が迸る。



「御機嫌よう。」




 ――復讐、執行完了。


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