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格上


「その首、貰い受ける!」


 飛び出してきた男に対して、私は冷静に両手を合わせて構える。


 私とて元はスラム育ち、身体能力に自信がない訳ではないが、本職の戦士を相手に無手で有利を取れるほど強くはない。


 故にタイミングを計り、敵の接近に合わせて魔法をぶつけるしかない。


「当てられると思うか!」


 男は私の構えに合わせて私との間に平たい障壁を展開する。


 素早い判断だ、これでは反撃は不可能。


 しかし、私は障壁越しに男と目が合っている事を確認して限界まで相手を引き付ける。


「――フラッシュバン」


 私が放ったのは、攻撃ではなく目眩まし。


 反撃を警戒して展開した障壁越しに強烈な光が男の視界を覆い尽くす。


「……っ!?これはっ!?」


「させないっての。」


 視覚を失い、間で権を横薙ぎに振うその攻撃を回避し、私はカウンターで掌に魔法を番える。


「ローズ・アンブレラ!」


「……っ!」


 ダメージを与えるのではなく、当てる事を意識して放射状に放った魔法を男は後方に飛び退いて回避する。


「やるな、だが、隙だらけだ。」


「……ちぃ。」


 私たちの間に再び距離ができる。


「…………。」


 間に障壁を挟んだ影響か、見ると男の視力は既に回復している様子であった。



「……妙に反応が良い、貴様、魔法師団か?」



「どうでしょう?」



 眉を顰めながら投げ掛けられる問い掛けに、私ははぐらかすように答える。



「魔法の使い方も洗練されている、どちらにせよ油断していい相手ではないな。」



 直後、男の雰囲気が豹変する。



「こんな細腕の女に本気出さないで欲しいのだけど?」



 強烈な殺気、これは大変な相手になりそうだ。



「少し相性は悪いが、こちらも本気を出させてもらう。」



「……っ。」



 何か来る。



 そう直感した私は一気に警戒を引き上げる。


「ディープナイト」


 想定通り、敵はこちらに向かって魔法を放つ。


 すべてを飲み込むような、紫色の魔法はまるで雪崩の如く周囲の物を飲み込んで私に迫る。


 あの色は闇属性の魔法か、などと考えている矢先、私はその魔法の異常さに気が付く。



「……ちょ!?」



 あまりに威力が高い、そしてあまりにも範囲が広すぎる。


 路地裏どころか周囲の建物すべてを削り飛ばしながら進撃してくるその魔法は、私の力で受けきれるようなものでは到底ない。



 私は咄嗟に敵に背を向けて駆け出す。



 幸い闇属性の魔法は攻撃の速度に難がある。如何に規模の大きな魔法だろうと魔力を込めて駆け抜ければ逃げ切れる。



「これなら……っ!?」



 これなら逃げ切れる。そう確信した瞬間、私の視界の端にとあるものが映る。


 それは何も知らないであろう小さな男の子が街の中をふらふらと歩いている姿。


 迷子だろうか、それとも首輪が外れて街を彷徨っているのだろうか?どちらにせよ、そんなことを考えている場合ではない。



「ああ、もうっ!!」



 このままでは確実に巻き込まれるであろう少年を放っておくわけにもいかず、私は方向転換をしてさらに速度を上げる。


 追いついたところでどうする?


 抱えて走るか?いいやそれではあの闇の魔法に追いつかれる。


 ならば私ができるのは一つであった。



『黄昏を映す水鏡、空と現を隔てる。』



「ほう?」


 地面を蹴りながら口ずさむ私の詠唱が周囲に響く。


 当然、敵もその姿に気が付く。



『我、雷を拒絶す。陽の瞬きが天翔ける曇を打ち払わん。』



「…………遅い。」



 詠唱が終わるが少年までまだ少し距離がある。



「間に、合え…………っ!」



 私は少年と迫る魔法の間に割り込むように手を伸ばす。



「アンバーレイ!!」



 直後、私の目の前に琥珀色の障壁が展開される。



「――ッ!!」


 刹那の間も置かずに視界いっぱいに紫色の魔法が視界全てを包み込む。




 どれほどの時間が経っただろうか?


 魔法の進撃が止まり、紫色の魔力の奔流が地面に沈み込むと、私の視界には、蹂躙され尽くした建物の残骸とその上に立つ男の姿であった。


「…………。」



「……はっ、はぁ、はぁ…………。」



 後ろの少年は守り切った、しかし、その代償に左腕を持っていかれた。


 私は息を切らしながらズタズタに裂かれて小さく震える腕を眺める。


 千切れていないしまだ動く、が、吐きたくなるほど痛い。これはもうしばらく使い物にならないだろう。



「完全詠唱の障壁展開か。」



 一方の彼は軽く息を切らしながらも余裕そうな態度で私の行動を分析する。



「…………っ、大丈夫?」



 私が振り返って尋ねると、背後で蹲っていた少年は震えながら反応する。



「は、はい。」



「良かった、じゃあ急いでここから離れて。」



 少年の無事に安堵した私は間髪入れずに逃げるように促す。



「はい……!」



「大変だな、守るものが多いと。」



 ふらつきながら消えていく少年の姿を眺めながら男は蔑むように笑みを浮かべる。



「……っ、ほんっとに下衆な男ね。」



 この反応は間違いない、最初から狙っていたのだろう。


 しかし、策に嵌ったのもまた事実。戦況は一気に不利に傾いてしまった。



(さて、ここからどうしようかしら。)



 私は思考を巡らせながら極小になった勝ち筋を探る。しかし、突然の邂逅であった故に、策の一つも仕込めていない。


 魔力量の少ない私は、完全詠唱の障壁展開なんてそう何度も出来る訳じゃない。


このまま戦闘が長引けば、先に力尽きるのは間違いなく私だ。



「…………。」



 視線が合わない。



 なんだろう、男の視線が私ではなく、私の後方に移ったような気がした。



「…………ん?」


 それに合わせて振り返った瞬間、私は彼が動きを止めた理由を理解する。



「ああ、なるほど。」



 そして、振り返った先に立つもう一人の男へとそんな言葉を投げる。



「……ま、こうなるわよね。」



 これだけ暴れ回れば、そうなる(・・・・)のも無理はない。



 そう、彼が来てしまうのは何らおかしくない事だ。



 見覚えのある男、そして、出来れば私ではなくアレスに相手をして欲しかった男だ。



 男の名はユーダ・ケイリス。帝国でも屈指の実力者であり、そして、私の敵だ。



「――見つけたぞ、ルシア・カトリーナ。」



「御機嫌よう、ユーダ様。何か御用かしら?」



 殺意の乗った笑顔に返すように、私は挑発的に笑って見せる。



「……ああ、丁度貴様を殺しに来たところだ。」



 その言葉と共に私の視界を真っ赤な炎が覆い尽くす。



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