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聞き取り・調査・追跡


 その後、私達は彼の指示を受けて薄暗い路地裏の中で退屈な時間を過ごしていた。



 理由は簡単であり、少しばかり目立つ私たちのルックスを隠しながら、彼と再び合流するには身を隠すのが最適であると結論に辿り着いたからである。


 特にすることもなく漠然とした待ち時間を過ごしていると、私達の耳に聞き覚えのある声が聞こえてくる。




「――お待たせしました。話は粗方聞いてきましたよ。」



 張り付けたような笑顔と共に、手続き等を終えたクシャトが帰ってくる。



「それで、彼は何者だったんですか?」



 長時間待たされた私はへらへらと笑う彼に対してそんな問いを投げ掛ける。



「彼、元は奴隷だったみたいですね。」



 すると彼の方も時間に余裕がなかったのか、前置きもなく本題に入る。



「……で、売り飛ばされた先でコレを付けられてテロまがいの行為をさせられたみたいです。」



「さっきの首輪か。」



 そう言って彼が取り出した首輪にアレスが反応する。



「はい、遠隔で魔力を流すことで首輪に刃が飛び出す仕組みのようです。」


「遠隔で起動、そんなことが……。」



「そう、だから仕組みが起動する前に斬ったって訳です。」



 彼の動きに迷いがなかったのはこういった理由があったからか、と私は納得する。



「今回の件と類似の事件が多発してる、って事は、裏で誰かが手引きしてるって事ね。」



 思考の中から漏れ出た私の言葉を聞いて、彼も同時に首を縦に振る。



「その通りです、ルシア様。」



「話は分かりました。それで、私達は何を協力すれば……。」



 笑顔で首を縦に振る彼に対して、私は分かり切った質問を投げ掛ける。



「当然、黒幕捜しですよ。」



「……ですよね。」



 弾けるような笑顔で予想していた答えが返ってきた。


 私は肩を落としながら消え入るような声で呟く。



「生憎、僕は明日の正午には新しい聖女様を帝都までお送りしなければなりません。だから、この件に関わっていられる時間はそんなにありません。」



 元より彼はそのためにこの街に来たのだ、その発言に別に驚きはない。


 ただ、事件の解決を丸投げされるのは少しばかり気に食わない。



「だから我々に解決させよう、と……。」



「その通り、勿論解決した暁には、手柄は貴方達のもので構いません。ただ、僕も自分の立場を危うくはしたくないので、関わりはオフレコでお願いしますね。」



 活躍した場合の対応などは後程話し合う必要があるが、互いに関わりを持っている事を知られたくないのであれば、交渉の余地がある。


 協力関係の有無に関わらず、私達は後三日はこの街に居なくてはならない。そう考えれば、彼とはいい関係を築くべきである。


 そう考えて、私は彼の話を受け入れる事にする。



「構いませんが、何の情報もなければ我々も動けませんよ?」



「当然可能な限り情報提供はします。」



 私の問い掛けに対して、彼は胸元から一枚の紙を取り出して答える。



「……それは?」



「先ほど言った通り、首輪の解析は研究所に依頼してます。僕の名前を出して頂ければ、きっと協力してくれると思うので。」



 そこには私もよく知っている研究所への行き方が書かれた地図のようなものが描かれていた。



「えっと、それって。」



 この話の流れで地図を取り出した彼の行動の、その理由に対して、私の脳は一瞬、理解を拒もうとする。



「はい!よろしくお願いします。」


 しかしながら直後に返ってきた笑顔がその理由を雄弁に語っているような気がした。








 そしてその後――


 案の定というべきか、彼の指示によって先程来たばかりの研究所まで足を運ぶ羽目になった私達は、先程とは違う要件を受付の女性に伝える事になった。


 目を見開いた後、苦笑いで応対する受付の女性の表情が印象的であったが、それ以上に衝撃であったのは、違和感の拭えない不自然な笑顔で対応する彼女の姿であった。



「――よう、さっきぶりだね。」



 額に青筋を浮かべながらそう声を掛けるエイーラ様の視線で私の背筋が凍りつく。



「あ、あはは……お久しぶりです……。」



「大人しくしてろって言ったよな?」



 苦笑いで答える私に対して、彼女は射殺すような低い声で問いを投げ掛けてくる。



「返す言葉もございません。」


「はあ、まあいい。上手く帝国に取り入ったのなら糾弾されることもあるまい。」


「本当に申し訳ありません。」



 これに関してはもう謝るしかない、決して私は悪くないが、それ以上にこの人はもっと悪くない。



「……それで?首輪の鑑定結果だったか?」



 私の不幸に多少の同情があったのか、彼女はそれ以上私を責める事もなく本題に入る。



「はい、騎士団のクシャト様が依頼した結果を伺いに参りました。」



「なるほど、顔を合わせた時から曲者だとは思ったが、そう来るか。」



 クシャトの名を出すと、彼女もまた彼に何かを感じていたようであり、そんな独り言を呟いていた。



 そんな言葉と共に取り出されたのは、血に塗れた首輪と、汚れ一つない大きなブレスレットであった。



「……これは?」



 宝石のはめ込まれたブレスレットを見て、私はすぐにそれが魔道具の類であると理解する。



「彼から聞いていると思うが、この首輪は外部から遠隔で魔力を流すことでその仕掛けが起動するようになっている。」



「この装置はいわば逆探知、魔力の発信源を捉えるための装置だ。」



私は彼女の説明を聞いて納得すると共に、僅かに感じたとある違和感に言及する。



「逆探知、という事はこの装置に魔力を流さないと発信元の人間を探知できないのでは無いのですか?」



 つまり、既に役目を果たされ終えたと思われる隣の首輪では反応を示さないのではないか?という事だ。



「その辺はもちろん対策してある。」



「対策?」



 彼女は私の言葉に答えながらブレスレットを私の手首にはめ込んでくる。


 そもそも私用に作成されていない為か、少しばかりサイズの合ってないそれに視線を向けながら私は尋ねる。



「これは別に首輪に対する魔力の流れを辿るものじゃない。目に見えない魔力の接続を“全て”拾い上げてその発信源まで追跡する物だ。」



「魔力の接続全て、ですか。」



 なるほど、それは便利ではあるが、少しばかり面倒な事にもなりそうだ。



「ああ、だから関係のない魔法や魔術も拾い上げる可能性がある。」



 そうなると追跡中に“聖女の祝福”など使おうものなら魔道具が誤作動を起こしかねないという事か。



 これは注意して運用していく必要がありそうだ。



「短時間で対策を講じるように言われたのでね。生憎こちらの技術力ではこのくらいしか準備できなかった。」



「我々が用意出来るのはここまでだ。あとは勝手に捜索でも探索でもすればいいさ。」



 最後にそう答えると、彼女は既視感を感じるようなセリフで私達を突き放す。



 面倒を掛けているとはいえ随分と嫌われたものだ。



「分かったらさっさとどこかに……ん?」



 彼女が手を祓いながら私達を追い出そうとしたその瞬間、私の手首に着けられた魔道具の宝石が淡い光を放つ。



「エイーラ様、これは……。」



「早速来たみたいだね。」



「主君、行こう。」



 私とアレスはそう言って顔を合わせて頷くと、同時に研究所から飛び出す。



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