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血濡れのビスクドール


――それから数時間後


 ダンジョンの攻略と同じくらいの時間をかけて入り口までの帰還を果たした私たちは、そこで待ち構えていたダンジョンの管理者、ギルドの職員、貴族の使い達に様々な聞き取りを受けていた。


 聞き取りの内容のほとんどはあの崩落の件であり、私は自らの身元がばれないよう細心の注意を図りながらすべての質問に答えた。


 聞き取りが三時間を超えたあたりで、ようやく日も暮れ始め、私達は解放された。




「ご協力ありがとうございました。」



「いえ、ご迷惑をおかけしました。」



 不服そうな街の人間にそう言われ、間髪入れずにその場から離れ私は申し訳程度の謝罪をしたのちに即座にその場から離れる。



「……ふい、何とか言いくるめられたな。」



「ギルドが“ハイエナ”の事をマークしてたからスムーズに話が進んだわね。」



 まあそれでも三時間だ。私がやったとはいえたまったものではない。


 私自身ケガをしなかった分、ある種ダンジョン攻略よりも大変だったかもしれない。



「それにしても、あの崩壊の件まで押し付けてたな。」



 そんな中で、アレスは呆れたようにそんなことを呟く。



「ああ、しれっと押し付けてた。」



 それに続いてアリーも同様に攻めるような視線を向けてくる。



「あいつらがいなければやらなくて済んだんだから悪いのはあっちよ。」



 実行者や立案者については多少の捏造はあったかもしれないが、悪い人間が誰なのかははっきり伝えたし、きっと問題ない。…………はずだ。



「ま、私としてはこれが手に入ったらそれでいいわ。」



 私は現実逃避をしながら気持ちを切り替えて胸元からとある魔道具を取り出す。



「なにそれ?」



「最奥のお宝、とんでもなく希少な魔道具よ。」



 それは、大きな紅の宝石に金属製の装飾が施された、一見するとただの装飾品にしか見えないような逸品であった。



「へえどんなことが出来るんだ?触らせてくれよ。」



「機能自体は触った人の記憶を遡れるだけのもの……って、ダメよ、これは領主様に献上する奴なんだから。」



 無遠慮に触れようとするアリーを窘めながら私は魔道具の説明をするがどうやら聞いていない様子であった。



「なんだよ、いいじゃんか。」



「それよりそっちはどうだったの?ちゃんと元取れそう?」



 面倒になった私は話題を切り替えるために彼女が背負っていた巨大な麻袋に目を向ける。



「おう、大量大量!銀貨百枚は下らないな!」



 アリーがそう答えた瞬間、私の視線がふとその奥にいるアレスへ向くと、どういう訳か彼の表情は妙に険しくなっているような気がした。



「――いいですねぇ、ちょっと頂戴できます?」



その瞬間、私達の耳にふとそんな声が響き渡る。



「「……っ!?」」



 私とアリーの二人は同時に声のする方に振り返ると、そこにはぬいぐるみを抱えた純黒のドレスを纏った赤髪の少女と、その背後に立つ黒いローブを纏う三人組の姿があった。


 少女はともかく、背後に立つ三人はダンジョンに潜る時にいた“ハイエナ”とは違うパーティの人間だろう。



「貴女は?」



「初めまして、ルシア・カトリーナ。私はベロニカ。レジスタンスの幹部をしてるの。」



 私が問いかけると、少女は満面の笑みで答える。



「レジスタンス?」



 アリーが不思議そうに首を傾げている中で、私は警戒を引き上げながら言葉を紡ぐ。



「そのレジスタンス様が何の用かしら?」



「貴方達が敵になりうるから敵情視察、かしら?」



 少女は人差し指を口元に当てながら軽い口調で答えるが、その内容は決して可愛らしいものではなかった。



「あら、ひどい言いがかりね?」



「言いがかりじゃないよ。こっちは既にクローフ村でベラお姉さまがやられてる。」



 皮肉交じりに返した瞬間、少女の雰囲気が一気に圧のある重々しいものに変化する。



「ベラ……っ!?」



 聞き覚えのある名前に私たちは思わず表情が強張る。



「当然、貴方の事も見てたよ。魔王殺し、アレス・イーリオス。」



「アレス、って、あの英雄アレスか!?」



 するとそれを聞いたアリーがアレスの方に視線を向ける。



「……それで?何が言いたいのかしら?」


「ただの警告だよ。そっちも大変みたいだけど、喧嘩を売る相手は考えてね、って。」


 私が問いかけると、少女は再び雰囲気を年相応の者に変化させて答える。



「今回は警告しに来ただけだけど、あんまり目障りだったら、殺しちゃうからね?」



「じゃあね。次はない事を祈っておいてね。聖女サマ。」



 最後にそんな言葉を吐き捨てると、少女の近くにいた男が黒い煙のようなものを発生させて彼女ら脱姿を包み込んでいく。




「行ったな。」



 煙が晴れ彼女らの姿が見えなくなるとアレスは警戒を解いてそう呟く。



「……はぁぁぁ……また訳分かんないのに目ぇ付けられちゃったぁ……。」



 状況は改善しないのに、敵ばかりが増えていくこの状況に、私は頭を抱えて嘆く事しか出来なかった。


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