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最奥の間、待ち構える守護者


 その後、無事アレスと合流することが出来た私達は、十三、十四、十五階層……と次第に苛烈になっていくダンジョンを進んでいきながら、互いの経験した出来事を報告し合っていた。



 メーニィの裏切りと彼らとの戦闘、そしてその攻略法、彼らとのやり取りを私達はアレスに包み隠さず話した。




「――それで、ダンジョンごと破壊した、と。」



 するとアレスは驚愕と呆れの混じったような声で問い返す。



「ええ、ほんとは貴方が来るのを待ってたんだけど、いつまで待っても来ないし、聖女なのもバレちゃったから。」



 私は疲労感を包み隠すこともなくため息交じりに答える。



「そうか、済まなかった。」


「けど、これなら一旦撤退した方が良かったんじゃないの?」



 私の発言を聞いて、アリーはそんな疑問を投げかける。



「いえ、逆よ、ここまで事が大きくなったらダンジョン自体が封鎖される可能性もある。そうなる前、つまり今日中にすべて攻略する必要があるわ。」



 管理する側としては今回の件で一度大きな調査を入れたいはずだ。


そうなればゴウダック殿からの依頼を達成することが出来なくなる。



「それに、ここまで来て撤退する選択肢、ある?」



 それに今ここには、目の前の最後の扉を前にして諦める人間は居ないと思っていた。



「ハッ、当然ないね。」



「俺は貴女の指示に従うさ、主君。」



 二人の反応は大方予想通りだ。



「オッケー、それじゃあボスを倒しに行くわよ。」



「では、開けるぞ。」



 私たちは覚悟を決めると、一際大きなその扉に手を掛ける。



「……っ!?」



「うおっ!?ドラゴン!?」



 視界が開かれ、私達の目が真っ先に捉えたのは、黄金色の鱗を纏う巨大な龍。


 まるで彫刻のような、美しさすら感じるそれは、よく見ると身体が一定のリズムで波打ち、呼吸をしている事が分かる。


そして少し遅れて、視線がその奥の激しく輝く金の壁と、宝石が散りばめられた豪華絢爛な部屋に向く。



「すっごい豪華な部屋ね。」



 個人的にはどこかで見た事のあるような趣味の悪い内装に呆れもしたが、何よりもこれまでのダンジョンとは様変わりしたその光景に驚きの感情が勝ってしまう。


 すると、今度はアレスが私とは違う事に気が付いて口を開く。



「……良かったなアリー。此処は最奥ではないぞ。」



「あらほんとね、扉があるわ。」



「一番奥じゃない…………っ、それってつまり!」



 アリーの声色が一気に明るくなると同時に私はギルドでの彼女との約束を思い出す。


 最奥部の宝以外は見つけた人間の物、この場合は三人で見つけたから三等分がセオリーだが、ここはあえて彼女を焚きつけてみよう。



「ええ、この部屋のお宝は全部貴女のものよ。気合い入れなさい。」



「くうぅぅぅ、やる気出てきたぁ!!」



 私の言葉を受けた彼女は、そう言って一気に部屋の中へと駆け込んでいく。



 そんな彼女を見てアレスは小さくため息を吐く。



「報酬の為にも死なないようにな。」



「さ、私達もやるわよ。」



 それに続くように私達も部屋の中へ足を踏み入れる。



「ああ、頼む。」



 そして私は彼の背中に向かって手を伸ばす。


 周囲に私の魔力と黄金色の光が溢れ出す。



『浄化、創造、破壊、消尽――』



『四天に坐するその刃は、大地を進む民へと還る。』



『栄光は彼方へ、伝説は終焉へと帰結する。』



『それでも、此処に残りし魂と共に、この道を歩もう。』



『女神アルテイナの名のもとに、祝福を捧げます。』



 最後に私は両手を重ね合わせ、再びアレスの背中へと手を伸ばす。



「…………満たせ。」



 その言葉と共に私の身体から溢れた光がアレスの心臓に重なると、周囲に強烈な突風が拡がる。



「……おお?」



 その風に背中を押されたアリーが間抜けな声を上げて振り返る。



「……よし、いこうか。」



 その風と共にアレスも彼女の隣にまで歩み寄っていく。


 同時、その風を受けて瞼を閉じていたドラゴンも起き上がる。



「…………。」



「動き始めたな。」



 寝起きの龍が私達を一瞥する。


 瞬間、周囲の空気が張り詰める。


 これが数多く存在する魔物達の頂点に存在するドラゴン族の圧、半分ファンタジー寄りの存在であるソレが、私達を明確な敵として捉える。



「グルアアアアアアァ!!」



 耳を貫かんばかりの巨大な咆哮、その直後に龍はこちらに大きな顎を拡げて火炎の砲弾を放つ。


「バーンプロテクト」


 私とアリーが一瞬動きを硬直させている中、真っ先に反応したアレスが炎の障壁を展開する。



「……ッ!!」



 炎の砲弾はやけに固いアレスの障壁にぶつかってその軌道が大きく逸れる。



「……っ!?」



 しかし大きく軌道を反れたそれは、部屋の壁に衝突して弾ける。



「……ああ!!」



「……あら?」



 壁から落ちて砕ける宝石を見て、私とアリーがほぼ同時に声を上げる。



「おい、壊すなよ!私の宝だぞ!」



 続けてアリーが戦闘そっちのけで叫び声を上げる。



 もう彼女にあげる事が決まっていた故に私は興味が薄かったが、同じ立場なら多分私も同じことを言う。



 とはいえこちらの主力にそれを強いるのはあまりにも負担が大きい。



「……ですって、被害は最小限に、できるかしら?」



 私は少しばかり柔らかい口調でアレスに問いかける。



「善処する。」



「アリー、壊すなというのなら少し体を張ってもらうぞ。」



 返事をした後、アレスはそんな言葉を投げ掛ける。



「お?おう、何すればいい!」



「首を天井に向けさせてくれ。」



 素直な問いかけに対し、具体的な案を提示する。何か案があるのだろうか?



「分かった。」



 目の前に宝があるからか、アリーは素直に返事をした後に駆け出す。



「……っ!」



「フレイムイーグル!」



 待ち構えるドラゴンに向かって放たれたのは、鷹のような軌道を描きながら飛来する炎の魔法。


 攪乱と攻撃を両立したその魔法はドラゴンに対して効果的なダメージを与えるかと思ったものの、そううまくはいかなかった。



「アアアアアアァァァァァ!!」



 鳴り響く巨大な咆哮と共にドラゴンは激しく体を捻ると、その身に纏う黄金色の鱗が飛来して魔法をかき消す。



「うおっ!?くそ、当たらねえ!」



「なら、これならどうだ!」



 アリーは追撃の為に高く飛び上がり、魔法の準備をする。



「…………。」



 それに合わせるようにドラゴンは身体を低く屈めてその鋭い尾を突き立てる。


 流石は最強の魔物、知能も高い。これではどっちが知的生命体なのか分からない。



「……やばっ。」



「ラスティネイル」


 私は咄嗟に魔法の一撃を挟み込む。



「……っ!?」



 ドラゴンの尾が弾かれ、アリーの命は間一髪で繋がる。



「もう一回よ。」



「ああ!」



 ふわりと着地をしたアリーと同時に私もドラゴンに向かって駆け出す。



「…………。」



 そしてこちらに照準を向けたドラゴンの目の前で私は、両手を重ね合わせるように構えを取る。



「――フラッシュバン」



 私は、両掌から光の魔法を打ち合わせる事で、周囲に激しい光が迸る。



「……カッ!?」



 私の目暗ましに引っかかったドラゴンは小さく身悶えして引き下がる。


 さあ、お膳立てはした。あとは彼女の仕事だろう。


 剣に炎の魔法を纏ったアリーが、私の横を駆け抜けていく。



「バーニング、ブレイズ!!」



 炎の斬撃が龍の顎に直撃すると、その首が反り上がって天を仰ぐような体勢になる。



「……アアアァ!」



「んぐっ!?」



 しかし苦し紛れに放たれた龍の尾の一撃がアリーの身体に直撃して彼女の身体が吹き飛ばされる。



「ぶはっ!?」



「……っ、アリー!」



 はるか後方に吹き飛ばされて壁に叩き付けられるアリーに私は駆け寄っていく。



「……問題ない。やれ!」



「…………。」



 彼女の言葉を聞いた直後、魔物に背を向ける私と、何かがすれ違う。



「……っ!?」



 私が振り返った瞬間、仰け反るドラゴンの真下には、白い蒸気を発する剣を携えたアレスの姿があった。




「――セロ・エタニティ」



 直後、龍の腹部にアレスが剣を突き立てると、ドラゴンの肉体の穴という穴から白い蒸気が溢れ出し、黄金の鱗ごと凍結させていく。



「……っ、カッ!?」



 頭の角から爪の先まで完全に霜が降りたドラゴンはそれでもなお、そんな音を上げる。



「……っ、ラスティネ――」



 私はダメ押しで魔法を放とうとするが、咄嗟にそれを止めて一歩後方に下がる。



「――ア、アア……。」



 直後に動きの止まったドラゴンはゆっくりと地面へと沈み込んでいき、最後には倒れた拍子にその肉体が砕け散ってしまう。



「倒、した?」



「そのようだな。」



 私が呆気に取られていると、アレスはいち早く自らの剣を鞘に納めて戦闘態勢を解く。


「…………ふいぃ、お疲れ様。」



「ああ、どうにかなって良かった。」


 私はそこそこ満身創痍だったというのに、この男は随分余裕そうだ。などと考えていると無性に腹が立ってくるが、それよりも今は重要な事がある。


「アリー、生きてる?」


 私は直前に派手にぶっ飛ばされたアリーの生死確認を行う。


 すると、彼女が飛ばされた辺りに積もった瓦礫ががらりと崩れる。



「た、宝はどこだぁ……。」



 するとそこからアリーがアンデットのような足取りで姿を現して歩みを進める。



「逃げやしないから治療が先よ。」



 呆れながらその身体を受け止めて治療を始めると、彼女も素直に治療を受け始める。



「アレス、先行ってて。」



 同時に手持ち無沙汰なアレスに対しても指示を出す。



「ああ……。」



そう答えながら最後の扉を開けたアレスの動きがピタリと止まる。



「……っ、……これは。」


 そんな言葉を聞いて私は振り返るが、どうにも位置関係が悪く室内の光景が良く見えない。


「どうしたの……?」


「主君、治療が終わったら来てくれ。」


 治療を継続しながら私が問いかけると、アレスは少しばかり間の抜けた声でそんな言葉をかけてくる。




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