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安い挑発


 そしてそれからほどなくして、私達は“黒幕”がいると思われるアジトへとたどり着いていた。


 先程よりも薄暗さのある路地裏の奥に辿り着いた私たちの視線の先にある建物は、アジトというにはあまりにも普通の建物であり、周囲の建築物に上手く紛れている出で立ちであった。



「――ここね。」


 しかしながら、この路地裏側の入口の扉は、ドアノブと扉の一部に目立たない程度の赤いインクが付けられており、バイヤーの男の情報通りの特徴を有していた。



「思ったより距離は離れていなかったな。」



 アレスの言う通り、バイヤーの男から聞き出したこの場所は、街の中心からは少し離れているとはいえ、徒歩で一時間もしない程度の距離しかなく、私達は少しばかり拍子抜けした。


「街自体がそう大きくないからね、入りにくくて怪しまれない場所を優先した結果でしょう。」


 犯罪組織とは言っても、所詮は盗品回収程度の小悪党。そこら辺の詰めの甘さもあって当然だろう。



「しかし主君、本当に奴をあそこに置いて来てよかったのか?」



 奴、というのは他ならぬバイヤーの男の事であろう。



「いいのよ。周りに仲間っぽいのは居なかったし、嘘をつかれたなら戻って尋問を続ける、合ってたなら明日の朝には捕まってるわ。」


 加えてあそこから出発するときにガチガチに簀巻きにしてきた、自分で逃げ帰るのは不可能だろう。


 それに、あの男を連れてきても敵に回るだけである、そうでなくても足手纏いか死体が一つ増えるだけの違いだ。ならばあそこに置いていくのがせめてもの情けというものであろう。


「それに、ここで間違いなさそうよ?」


 私が扉に頭を近づけて耳を澄ますと、内部から聞こえてくるその会話は、奇しくも答え合わせのように都合の良い情報を吐き出していた。


「……。」


 アレスもそれに気付いたのか、会話を止めて建物の中に聞き耳を立て始める。




「以上が本日の収支でございます!」


 直後に聞こえてきた言葉は、恐らく盗品を売って得た金額についての話であろう。


 それを報告する男の声は妙に息遣いが荒々しく、緊張している様子であった。


 私がそんな違和感を感じた直後、後を追って聞こえてきた声がその疑問の答えを示す。


「……少ないわね。私がわざわざ出向いているというのに、少ないわ。」


 女性の声だ。声色から察するに私とかなり近い年代、男と違ってリラックスしている事が分かる。


 おそらくこの声の主が黒幕だろう。


 しかし、なんだろう、この声どこかで聞いたことがあるような気がしてならない。


「も、申し訳ありません。回収担当の行方が分からず。」


「あら、何かあったの?」


 動揺する男の言葉に対して、女性は不思議そうに首を傾げながら問いを投げ掛ける。


「先程より、集合場所におらず、現在探索中です。」


 そして今度は別の男性の声が二人の会話に割り込んでくる。


 この声の感じ、どうやらかなり若くしっかりとした人物であることが理解できた。


「なにかしら?裏切り、はないと思うけど。」


 やけに力の抜けたような声で女性は呟く。


「そ、そうなのですか?」


「ええ、だって彼には私が直接恐怖を刻み付けたもの。簡単には裏切れないわ。」


 直後、女性の雰囲気が一気に変化して背筋の凍るような感覚に襲われる。


 しかしながらそんなことは関係ない。


 欲しい情報はすべて手に入れた。


故に私たちの取るべき行動は一つだ。





「――の割には簡単に口を割ったわよ?」



 敢えて挑発するように投げかけたその言葉の直後、私はアレスにとある合図を送る。



「「……っ!?」」



 瞬間、鉄と木で出来た頑丈そうな扉はアレスの一撃によって吹き飛ばされる。


 同時に私たちの視界に薄暗い倉庫のような部屋と、その中心に鎮座する玉座のような椅子に腰掛ける女性の姿が映る。


 しかし、室内は妙に暗い。女性の姿は影が見えるだけでその顔まで伺うことは出来ない。




「……だぁれ?」


 しかし、見難いながらも私たちに問いを投げ掛ける女性が口元を綻ばせているのが分かる。



「正義の味方、ってところかしら?」



 私の答えに反応して部屋中に居た人間たちが武器を構える。


 人数はだいたい十前後、思ったよりは多いが誤差程度だ。問題ない。


 こちらには英雄がいるのだから。



「とりあえず、盗んだもの全部出しなさい。」



 動揺する盗賊たちに向かい私はそんな啖呵を切る。




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