プロローグ
見渡す限りの灰色の世界。
降り注ぐ罵声。無数の憎しみが、私ひとりに向かっている。
石畳を進む足元に、石が飛ぶ。
一つ、また一つ、頭をかすめ、頬を打ち、視界はじんわりと紅に染まっていく。
それでも、私は歩き続ける。
背筋を伸ばし、下を向かずに。
ああ、なんと滑稽か。
群れることでしか己の正しさを証明できない人間たちが、さも当然の顔で、石を握っている。
背後にそびえる城砦。
神の名を借りて、罪の選別をする場所。
今日も誰かが、嘘と欲で秩序を保っている。
ああ、本当に。この世界は、どこまでも理不尽だ。
選ばれた者がルールで、欺瞞が正義で、黙って従えば、きっと安らかに死ねる。
私は、そんな世界に祈りを捧げた。
そして、“聖女”と呼ばれた。
──そして、それはきっと、間違いだった。
「――全部、ぶっ壊してやる。」
醜い人間も、よくできた建前も、私の信じた“正しさ”も。
壊して、壊して、塵も残さず潰してやる。
この選択の先に、素敵な未来が待ってるとは思っていない。
けれどせめて――この茶番は私の手で幕を下ろそう。
だってこれは、“選ばれなかった”私に許された。たった一つの“主役の椅子”なんだから。
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