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5-19



 超新星爆発のような―――無論、宇宙で実際に起こるそれと比べればあまりに小規模であるのだが―――光球を目指して降下した、およそ300機の自衛隊機。

 そして更に続くのは、多数の連合艦隊。

 後先を考えない、最初で最後の亡霊戦艦強襲作戦『大化作戦』は、鈴谷の一番槍から始まった。

 隊員達の士気は高い。というより、後がないことを十二分に説明し、決死の覚悟で挑むように通達されている。

 鈴谷の抱えていたそれより小型であるものの、全ての作戦機には核爆弾が搭載されていた。

 ようするに、これを抱えて死ねと命じられているのだ。

 無論反発はあった。だが、軌道エレベータ天空の橋立(あまのはしだて)破壊から始まる、あまりに生々しいセルフ・アーク内の文明崩壊予想を語られては一蹴も出来なかった。

 現実に、自衛隊上層部の通達通りに天空の橋立(あまのはしだて)の直下に亡霊戦艦が現れているのだ。

 地上からの物資の途絶という予想が、現実味を帯びてきていた。

 防空能力を大きく削がれた亡霊戦艦に、多数の宵龍(しょうりゅう)が食らいつく。

 速度自慢の亡霊戦艦といえど、飛行機に大きく勝るものではない。

 表面を焼かれ対空兵装が失われては、無数の小型機から逃げ果せるものではなかった。

 次々と宵龍(しょうりゅう)が自爆し、僅かなりとも亡霊戦艦にダメージを与えていく。

 あまりに凄惨な光景だが、使命に燃える隊員は怯むことはない。

 当然ながら、ここにも武蔵のテコ入れがある。

 作戦実行について、空中勤務者達は「新薬」と称して覚醒剤を使用していた。

 そういった薬の使用は三笠に否定されているが、それはループ後に後遺症が引き継ぐ可能性があるから。

 ループしない者に関しては、どれだけ危険な薬物も使える。

 三笠はいい顔はしなかったが、隊員への強力な覚醒剤使用を否定はしなかった。

 水上滑走を主目的としている宵龍(しょうりゅう)は飛行機としての性能に難があったものの、その積載量は対地攻撃機に匹敵する。

 機体後部の爆弾倉に収めれた核弾頭に、射出手段などない。

 そのまま爆発するだけだ。

 何度も核爆発に呑まれ、焼かれる大和。

 だがそれでも亡霊には届かない。いくら表面を焼いたところで戦艦は堕ちない。

 しかしながら、彼等の特攻は無意味無秩序な攻撃ではなかった。

 空から降り注ぐ光の雨。

 衛星軌道上からの、護衛艦やまとによるレールガンの艦砲射撃。

 半径1200メートルに1000発以上撃ち込まれた、タングステンの神槍。

 如何に亡霊戦艦大和が巨大であっても、単純な確率上では1発か2発が当たる見込みであった。

 しかし、所詮は計算。所詮は見込み。

 現実には―――隊員達の自殺攻撃の末に、亡霊戦艦の進路は大きく限定され。

 13発の有効打が、亡霊戦艦に突き刺さった。

 磔にされた人間に無数の槍衾が突き刺さるかのように、幾重もの鉄杭が貫通する。

 うち一つの開口部より、炎が上がった。

 それは出血のようであった。

 それも、動脈を破るような大出血だ。

 業火を吹き出す亡霊戦艦。マグマが噴出するように亡霊戦艦は炎を吹き垂らし、姿勢を崩しながら飛行する。

 内部の可燃物が燃えているのは明らかである。戦艦を貫いた時、ままある事態だ。

 どうにも人間的な動揺を感じさせる挙動で、船体が大きく傾げる。

 武蔵としては見覚えのあるそれ。しかし、構造体を破壊された亡霊戦艦にその挙動は酷であった。

 鐘楼が大きく揺らぎ、首がちぎれるようにもげたのだ。

 大和に限らず、戦艦の鐘楼には骨がある。3本以上のポールで櫓を組んだ上に、鉄板で階層を作っているのだ。

 それに壁や屋根を設ければ、一見高層ビルのように見える、一般的に想像するような艦橋となる。

 骨たるポールはさすがに折れなかったものの、それに纏うように張り付いた、人の活動する区画は攻撃に耐えきれなかった。

 船を指揮する重要区画とはいえ、上の方はトップヘビーを招くが故にあまり装甲化されていないのだ。

 鉄城のような荘厳な見た目に反する脆弱性が、鐘楼の脱落という結果に至った。

 それだけではない。

 亡霊戦艦は全体に、大小様々なダメージを受けている。

 大半は大穴が開いただけで済んでいるが、第2砲塔のダメージは見るからに深刻であろう。

 まるで不出来なプラモデルのように、46サンチ3連砲を載せた巨大砲塔が飛び出し傾いている。

 誰もが、その場にいる全ての戦士が聞いた。

 戦艦という超兵器が悲鳴を上げている声を。

 それは、誰の目から見ても明らかな、人類が亡霊に与えた初めての明確なダメージであった。







 満を持して、というほど自惚れ屋ではないが。

 武蔵が動き出したのは、このタイミングであった。


「想定以上―――!」


 亡霊戦艦にこれほどまでのダメージを与えられるなど、武蔵の計算にはなかった。

 そう、想定以上だった。

 想定以上の成果だ。

 これほどまでに満身創痍となった亡霊戦艦を、誰が想像したであろうか。

 もしかしたら、このまま勝てるのかもしれない―――そんな甘い想像が、武蔵の脳裏を過る。

 そんな妄想も、次の瞬間には肝を冷やす現実に取って代わった。

 亡霊戦艦が大きく旋回し、進路を定めたのだ。

 その方向とは、間違えようもない―――天空の橋立(あまのはしだて)


「おま、やっぱお前『中身』がいるだろっ」


 一般に流布する定説では「無人兵器」だの「旧世代の亡霊」だの「宇宙人の擬態」だの言われているが、武蔵にはどうしても彼の戦艦より人間味を感じざるを得ない。

 やはり、亡霊戦艦は無秩序に暴れてるわけではない。

 少なくとも今は、アレを破壊するという指針をも持っている。

 武蔵の零戦が、対空砲を喪失した亡霊戦艦に挑みかかった。

 狙うべきは真後ろ。航空機に限らず、船舶にとってもここは死角となりやすい。

 戦術的に真後ろに敵がつくことを船は想定しずらい上に、スクリューや舵が存在するのでセンサーや兵装の設置に難があるのだ。

 亡霊戦艦が新造艦であるなら、空を飛ぶ船としてその辺も考慮されていたかもしれない。

 だが敵は戦艦大和の魔改造船。空を飛ぶことに最適化されていない船体構造は、おおよそ資料が残っている。

 武蔵は縦横無尽に舵を切る亡霊戦艦、その尻を死ぬ物狂いで追いかける。

 零戦と比較してあまりに巨大な敵。その後方を飛ぶなど、乱流に飛び込む愚策に他ならない。

 まるで台風の中を飛ぶようなままならない中で、武蔵が選んだのはスロットルの全力開放。

 エンジンが焼けることも厭わない、後先を考えない追跡であった。

 機体と不釣り合いにすら見える4枚の幅圧ブレードが空気を叩き、零戦を無理矢理に加速させる。

 翼から気流が剥離するなど当然のこと。普通の航空機ならば左右の主翼揚力が不均等となって不意自転で脱落するところ、武蔵の零戦は強引な推力偏向で持ち直す。

 左右に誘うように尻を振るう亡霊戦艦に、武蔵はすぐに理解した。

 これが我武者羅に操縦しているわけではない。

 相手を振り切り、あるいは後ろを奪わんとする機動―――シザーズだ。

 敵は明らかに、武蔵を意識している。

 依然として、武蔵は銃弾一発発していないにも関わらず。


「こんにゃろっ……!」


 ゼロセカンドと称された武蔵の零戦は、作戦に挑むにあたり強化されている。

 今までも大概にマシンマキシマムを目指していたが、今やそれ以上だ。

 対Gスーツにより全身を締め上げられ、毛細血管が千切れるのも構わぬ殺人機だ。

 ターボシャフトエンジンが過剰加熱により警告を発し、機体は崩壊寸前の軋みを上げる。

 民生品の寄せ集めである電子部品がどこまで耐えられるかも、武蔵にとっては不安材料。

 そして、それでも追いつけない亡霊戦艦の異常さ。


「届け、届けっ、あと少し、届けぇっ……」


 呼吸など、とうに止まっている。

 どうせ使い切りにする命だ。多少不具合を抱えても知ったことではない。

 迫る亡霊戦艦の後部。

 僅かに失速した敵を、武蔵は見逃さなかった。


「届げぇぇぇっ……!」


 操縦桿を押しやり、亡霊戦艦の後部甲板に突っ込む零戦。

 狙うは後部に2本伸びたカタパルトレール、その隙間。

 格納庫に続くエレベータ部分に、武蔵は零戦を突き込んだのだ。




 武蔵が一人いても、作戦に大して寄与しないことは彼もわかっていた。

 全力の戦闘だ。それも、薬物すら乱用する後の続かない戦いだ。

 多少腕の立つシラフのパイロット一人で、戦局が左右するはずがない。

 だからこそ、武蔵は別の役割を負っている。

 片道切符でも支障のない、亡霊戦艦への強行着艦という役割を。

 突入が片道となっても、武蔵ならばループすることで情報を持ち帰れる。

 この利点を、武蔵は最大限活用することにしたのだ。

 航空機の墜落という大きな出来事の割に、武蔵が受けた衝撃は小さかった。

 亡霊戦艦もまた、亜音速で高速飛行をしていたのだ。相対速度そのものは小さい。

 鉄骨の合間に機体を滑り込ませた武蔵は、即座にキャノピーを後ろに引いて飛び出した。

 大地震など目ではないほどに大きく揺れる甲板。風圧こそ亡霊戦艦の構造物によって遮られ強風程度に収まっているものの、いつ床が壁に、天井になるか分からない。

 武蔵は即座に事前に頭に叩き込んでいた図面を思い出し、艦内に入ろうとした。

 エレベータは降りていたが、内部に続く航空機用の大きな扉は閉ざされている。零戦の衝突に歪みもしていない。

 ならばと大きなハンドルの付いた鉄扉……人間用の水密扉に飛びつくも、そこもまた堅く溶接されていた。


「……まあ、どう見ても大勢の人間で操る兵器じゃないしな」


 船の穴という穴は、すべからく弱点になりうる。

 浸水や毒ガスの通路となるリスクは当然として、構造上の脆弱性にも繋がるのだ。

 よって、改修に際して色々と塞がれているのは想定内だった。

 さてどうしたものかと考え、危惧した通りに床が壁となった。

 90度ロールした亡霊戦艦。先程まで立っていた武蔵は、横に落ちることとなる。

 このまま海上まで落下、など最低の戦火である。

 咄嗟に手すりに掴まり、懸命にしがみつく。

 ここから一番近い別の通路は―――そう思考して、武蔵は気付いた。

 すぐそこに、設計上意図したとは思えない、周囲のめくり返った大穴があることに。


「軌道砲撃の着弾跡か!」


 武蔵は迷わず飛び込んだ。

 何らかの毒ガスが発生している可能性もあったが、この強風ならある程度吹き飛んでいるはず。

 戦艦は重装甲だが、表面部分は意外とペラペラだ。この穴がどこかの通路に繋がっている可能性は高かった。

 そして、武蔵は遂に亡霊戦艦への侵入を果たす。






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