表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/205

4-29



 3度目の2144年初頭。

 万事を尽くすために、これまで武蔵は常に忙しく働き通しとなっていた。

 何せ、対亡霊戦艦戦闘である。

 最強の戦艦大和が、戦闘機の機動力を得た怪物だ。

 まず勝ち目はない。真っ当な方法で考えるだけ無駄だ。

 故に、武蔵は逆算で考えることにした。

 戦艦は無敵ではない。歴史上、沈んだ戦艦など数多存在する。

 戦艦は破壊出来ない船ではない。外見とは別に内部に装甲を有しており、この内側のバイタルパートこそが戦艦の防御の真骨頂だ。

 例えバイタルパートの外側を全て粉砕されても、内側が無事なら浮かんでいられる。

 そして、どうにも亡霊戦艦もまた、内側に飛行の為のメカニズムを収めているらしい。

 このバイタルパートという重厚な装甲は、一定以上の攻撃でなければ貫通しない。

 小さな攻撃を何度食らわせても、貫通などしないのだ。

 戦艦大和のバイタルパートを貫通出来る攻撃手段など、結局は1つしかない。

 徹甲弾でぶち抜くのみだ。

 最も最新の徹甲弾といえば、装弾筒付翼安定式徹甲弾と呼ばれるものだ。

 一般にイメージされるそれは戦車砲の砲弾だが、貫通力は戦艦大和のバイタルパートに充分通用する。

 ならば第3世代の戦車砲で亡霊戦艦を沈められるかと問われれば、答えはノーだ。

 大きさが違いすぎる。

 戦車にとっての戦車砲用装弾筒付翼安定式徹甲弾がナイフで刺されるようなものなら、戦艦によってのそれは刺繍針で刺されるようなもの。

 例え重要な臓器や脳を針で刺されても、人は死なない。

 死に至る確率がゼロとは言えないが、あまりに期待出来ないのだ。

 効率的に内部を破壊するには、やはり内部に炸薬を込めた榴弾が望ましい。

 そも、タングステンや劣化ウランが手に入らない現状ではどうしても砲弾は巨大化する。

 結局、戦艦大和に搭載された91式徹甲弾、それを超える弾頭が必要となるのだ。

 全長2メートル、重量1,5トンを超える徹甲弾などまともな運用が出来るものではない。

 それほどの攻撃手段は、未来世界には1つしかなかった。

 1つだけ、あったのだ。




 宇宙護衛艦『やまと』である。




 宇宙に進水した最強クラスの宇宙船による、宇宙空間からの同時着弾射撃。

 宇宙空間から緻密な軌道計算による砲撃は、地上で運用される自走砲の同時着弾射撃とは別次元の密度を可能とする。

 散布界は半径1200メートル、面積でいえばおよそ4521600平方メートル。

 ほぼ等速直線運動する船舶相手ならばホールインワンも可能なのだが、ありったけの砲弾を打ち込む同時着弾射撃となるとこれほどに誤差は大きくなってしまう。

 だが相手がどう動くか判らない以上は、散布界は極力広く取る必要があった。

 戦艦大和は263メートル、バイタルパートを俯瞰した面積はおおよそ5100平方メートル。

 散布界中にまったく同じ割合で広く分布するとすれば、889発打ち込んでようやく1発あたる計算となる。

 あまりにバカバカしい物量戦。

 だが、これが一番現実的だった。







 ―――そして地球に降下した、亡霊戦艦討伐艦隊。

 無数の航空機、自衛隊が保有するありったけの駆逐雷撃機宵龍(しょうりゅう)による一斉攻撃。

 超高速で動き回る亡霊戦艦を追うことはほぼ不可能だが、出現位置とタイミングはループの知識で分かっていた。

 西暦2144年 1月23日。

 天空の橋立を破壊しに、亡霊戦艦が出現することは分かっていた。

 ほぼほぼ正確な時刻まで分かっていた故に、自衛隊側は作戦機の空中待機すら可能だったのだ。

 空中で誘導する彼ら空中勤務者達の役割は、亡霊戦艦への攻撃ではなく誘導。

 無数に群がるハエのように、護衛艦やまとの砲撃エリアに亡霊戦艦大和を釘付けにすることが目的だった。

 だが生半可な火力で怯む亡霊戦艦ではない。亡霊戦艦が明確に嫌がる攻撃をする必要がある。

 その答えは、21世紀の戦訓から得られていた。

 小型核兵器である。

 とても戦艦相手には効かない小規模な核攻撃だが、それでも亡霊戦艦が好んで業火に飛び込んでいくわけではないのは、21世紀での近代海軍との戦いから判っている。

 幸いなことに、宵龍(しょうりゅう)は対UNACT用のヘッジホッグを搭載出来るだけあって積載量に優れていた。

 小型ならば、核弾頭を2発搭載出来たのだ。

 うまく爆弾を起爆していけば、亡霊戦艦の進路を誘導出来る可能性はある。

 地球上の海なので核分裂爆弾で構わないし、威力もだいぶ小規模で済むので必要数を揃えるのは不可能ではなかった。

 それなりの環境破壊は、この際ご愛嬌である。

 かくして、亡霊戦艦撃破作戦―――大化作戦は実行された。

 無数の核爆弾が空に華を描く。

 衝撃波が広がり、その余波だけで友軍機は落ちていく。

 地獄絵図であった。

 見届ける為にその様子を離れた地点で観測していた武蔵も、生きた気がしなかった。

 意味も判らないままに待機を命じられたアリアは、悔し涙を堪えていた。

 文字通りの総力戦。如月姉妹や鈴谷もまた出撃し、慣れない双発機に四苦八苦した末に早々に散った。

 みんな死んでいった。

 何隻も船が沈んだ。

 だが、死んだ甲斐があったというものだ。

 予定時刻となり、光の雨が天空より降り注いだ。

 数多の核爆発により雲など消し飛んでいた海上に、天使の梯子のように護衛艦やまとのレールガンが撃ち込まれたのだ。

 ほとんどが外れた。

 元より動かない相手か、あるいは面を制圧する為の攻撃手段だ。

 見事、数発が当たった。

 だが変化はなかった。


「バイタルパートを貫通したって、そのまま轟沈決定ってわけじゃないしな」


 攻撃は失敗した。

 人命を踏みにじった作戦は、自衛隊に壊滅的被害を与えながらも目的を達成することが出来なかった。


「どうして、どうしてこんなことをしたのですか……!?」


 号泣し、武蔵に問うアリアに彼は答える言葉がない。

 強いて言えば、必要だからだ。

 それが、何の慰めにもならないことを彼とて知っていた。


「―――さて、どうしたものかな」


 亡霊戦艦が、武蔵達が乗船する秋津島に迫っていた。

 どうせ逃げ切れない。ここですべき攻撃も調査も、全て終わった。

 あとは死ぬだけだった。

 もう反抗作戦を行う体力は、人類にはない。

 これほどの大火力を投じる作戦は、もう人類には行えない。

 この周回においても、人類の衰退は決定された。

 ぐりぐりと腹に頭を擦り付けてくるアリアの頭を撫でて、肩を押して離す。


「どうした、ものかなぁ……」


 武蔵は決断した。

 自身が出撃することを。


「零戦を出すぞ。アリア、お前も来てくれ」


「―――はい。出撃ですね?」


「いや、俺の後ろにいろ。零戦の後部座席に入れ」


「……なんの意味があるのですか?」


「まあ、一応だ。というか宵龍(しょうりゅう)も全力出撃で打ち止めだから、お前が動かす機体なんてない」


 意味が解らず困惑するアリアであったが、それでも置いていかれるわけではないからと、そして武蔵が上位階級であることもあって納得はした。

 後部甲板より、カタパルトなしで発艦する零戦。

 座席後部には、やや窮屈な体勢ながらアリアが収まっている。

 武蔵の零戦は単座だが、無理に詰め込めば小柄なアリアなら入れることは過去の経験から知っていた。

 零戦は時速200キロでゆっくりと、亡霊戦艦へと接近する。

 機動要塞というべき怪物に対しての、あまりに無防備な接近。

 遂には風防を後ろに開いたことで、アリアはいよいよ声を上げた。


「む、武蔵! 一体何をする気なのですか!?」


「相手が殺る気なら、どんな形で接近したって撃墜される。アレの防空能力は判ってるだろ」


 吹きすさぶ向かい風に髪を抑えながら問うアリアに、武蔵は淡々と答える。


「あの動き、見たことがある」


「動き、亡霊戦艦のですか?」


「そうだ。間近で見てやっと気付けた。あの回避パターンは、俺の動きに近い」


 アリアは困惑した。

 武蔵の回避機動は様々な統計学などを鑑みて練り上げられた、最適解に近いものだ。

 よって、収斂進化的に似てしまっても不思議ではない。

 だが、無論武蔵が訝しんでいるのはそんなことではなかった。

 亡霊戦艦はやがて零戦と合流し、相対速度が0となる。

 編隊を組んでいるかのように、並走する亡霊戦艦と零戦。

 なぜ攻撃されないのかと、アリアは更に混乱させられた。


「これが、亡霊戦艦」


 おそらくは、人類史上誰よりも亡霊戦艦を間近で見ることになったであろう武蔵は、その異様に息を飲む。

 なぜ、このような鋼の怪物が空を飛んでいるのか。

 ふと戦艦の直下を見ても、どうやらダウンウォッシュによる航跡は残っていないように見えた。

 それなりの高度があるとはいえ、どうやらこの怪物の飛行は海面に影響を及ぼしていないらしい。

 より詳細に観察すれば、古ぼけた部分と真新しい部分が別に存在していることに気付く。

 武蔵は目を細めた。


「亡霊なんて呼ばれる割に、フェーズドアレイレーダーなんて追加されてるんだな」


 おおよその外観はほぼ戦艦大和だ。

 だが、細部を見ればやはりこれは―――


「武蔵!」


 アリアの声に割れに返り、彼は若干動揺しつつも大和に幅寄せした。

 ヘルメットを脱ぎ捨て、艦橋あたりにそうっと接近する。


「―――見られてる」


 武蔵は、亡霊戦艦に観察されていることを感じ取った。

 彼は1つの予感を感じ取っていた。

 なぜここまで攻撃されないのか。否、なぜこの怪物が攻撃してこないと、武蔵は理解していたのか。

 武蔵はおそるおそる、無線機のスイッチに指を伸ばした。







カチ、カチ。







 亡霊戦艦大和の探照灯が、明滅した。

 1度。

 2度。

 3度。

 4度。

 ――――――5度。







 武蔵の脳天より、血の気が一気に引いた。

 何度も見た、何度も交わしたサイン。

 そうと気付くと同時、大和全ての対空砲が武蔵達を指向した。

 反射的に、操縦桿を引く猶予もなかった。

 鋼鉄の上昇気流が零戦を翻弄し、翼を、エンジンを砕く。

 幸いであるというべきか、痛みなどなかった。














 武蔵は、自分の部屋の屋根を見上げて大きく深呼吸をした。

 毎度毎度そうそう跳ね起きていては芸がない。そう考えて冷静に努めるも、あまり成功している気はしない。

 目の前で、武蔵の責任の元で沢山死んでいった。

 家族がいる者も、夢を持つ者も、いい奴も悪い奴も。

 ゴミクズのように、目の前で散っていった。


「しぐれ」


 どこかたどたどしく呟く。

 動きが似ているのは当然である。彼女に空戦を教えたのは、武蔵本人なのだから。


「ずっと見つけられないと思っていたら……そんなところにいたのか」


 ループに巻き込まれていると思われる5人、その最後の一人。

 彼女の発見に喜びたいところであるが、とてもそんな気分にはなかった。


 少し、背中に馴染んだこのベッドで休みたい気分だった。

 だが苦しい時間制限はそれを許さない。

 翌日までの僅かな時間が、武蔵にとっての戦場なのだから。



冒頭の「3度目」は4度目じゃない? と思うかもしれませんが、3度目のループは2144年に至る前に死んでいるので3度目です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ