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4-22



「あっこれ可愛い」


「寄生戦闘機XF-85、なんでこんな物が……」


「この子もかわいい!」


「PL-12、農薬散布機だぞ」


「あははっ、この子好き!」


「DFW T.28、お前可愛さで選ぶのやめろ」


「じゃあじゃあ、これは?」


「特三号戦車……せめて飛行機並べろ!」


 思わず近くにいたハカセにツッコむ武蔵。

 ハカセは不敵に笑い、答える。


「別にうちはエアレース専門店じゃない。ジェット機だって農薬散布機だって試作機だって揃えるさ」


「戦車は揃えるな」


「レジェンドクラスはプロペラであればいいだろう? ならこういうのもあるぞ」


 ハカセが指差した先に起立していたのは、白い塔のような謎の物体だった。


「なんですか、あれ」


「ロータリーロケット」


「……宇宙船じゃねーか!」


 携帯端末で検索し、正体を知った武蔵はツッコむ以外にない。

 低空ではプロペラで上昇し、高空ではロケットで宇宙に到達するド変態航空機である。

 一応飛行には成功している。


「こんなのが武装してドッグファイトしてたら悪夢だ!」


「だが雷電以上に上を取れるぞ」


「ロケットエンジンでの飛行には成功したって記録ないがな」


「今の技術で改造すればなんとかなるさ」


 武蔵は想像する。

 白い塔がプロペラ機の到達限界高度を超えた成層圏に君臨し、一方的に打ち下ろし射撃する光景を。

 ただのラスボスである。

 ぜえぜえとツッコみ疲れしていると、少女は武蔵の袖を引く。


「ねえ、もっとエアレース向きでまともな飛行機みたいんだけど、いい店ない?」


「うちの品揃えに文句があるとでもいうか小娘」


「文句しかねえよ。けど店ねえ……」


 具体的に欲しい機種があるなら、そこから中古機店を探した方が早い。

 今彼女がすべきは、多種多様な飛行機を見ることだ。


「いっそ、あそこに行ってみるか」


 武蔵は少女を連れ添って、店を出た。

 そしてふと気付く。

 別にここまで面倒見る義理もないな、と。







 義理がないとはいえ、捨て置くのも気まずい武蔵は多くの飛行機を見れる場所へ向かっていた。


「ねえねえ、いろんな飛行機を見れる場所って何処?」


「どこって、そんなの決まってるだろ」


 飛行機の集まる場所。

 それは、空港以外にありえない。


「大苫宇宙港だ。あそこは宇宙機や飛空艇も多いが、民間の競技用機も多く飛んでいる」


 厳密にいえば、大苫宇宙港最寄りの訓練空域。

 調べたところ、今日は強豪校同士が訓練試合をしていることになっていた。


「急に見に行って、見学許可貰えるの?」


「そもそも許可なんていらない。空なんて隠しようがないし、一般人もよく見に来る」


 空飛ぶバスで移動する2人。

 かれこれ80年以上飛んでるこのヘリコプターは、きっと100年後も飛んでいるのだろうなと武蔵はぼんやり考える。

 やがて見えてくる練習試合空域。

 その中に、ちらちらと銀翼がきらめくのが見えた。







 さながら、その戦いは狼の群れ同士による闘争だった。

 無数に、時間差で襲い掛かる戦闘機。

 それを一斉に解散し、いなそうとする相手チーム。

 合計1万馬力を超える鋼鉄の怪物達が、相手に喰らい付かんと咆哮する。

 限らせた戦闘空域を縦横無尽に飛び回り、時に相手をおびき寄せ、時に相手を振切ろうとする。

 それは、2人が通う中学校における練習とは格の違う死闘であった。


「―――すごい」


 武蔵と少女は、地上にてベンチで並んで空を見上げていた。

 ぽかんと、地上のスポットエリアから高校生選手の戦いを見上げる少女。

 次々と変わる戦況、目まぐるしい攻防の逆転、荒れ狂う機銃弾の暴風。

 武蔵は思う。これこそが空戦だと。

 彼等の所属する中学校の空部でやっている空戦など、ただのオニゴッコだ。

 大空の激戦に感銘を受けている少女の隣で、武蔵はのんびりと小腹を満たす為にコンビニサンドイッチを食べていた。


「あ、一個ちょうだい」


「きゅうりだけならいいぞ」


「最近のきゅうりって赤いのね」


「あっ」


 当然のようにハムサンドを取られる。

 とても躊躇のない動きだと武蔵は思った。

 これはこれで愛嬌なのだろうと、武蔵は再び1つ取る。

 きゅうりサンドであった。







「あのっ! 試合、凄かったです! びゅーって飛んで、一気に囲んで!」


 試合終了後、嬉々と高校生に駆け寄った少女は興奮した様子で彼等に話しかけていた。

 その様子を見て、武蔵は唸る。


「アイツのコミュ力やべぇな」


 試合後でピリピリしている高校生に話しかけるとは、中学1年生にはハードル高いだろう。

 だというのに。少女はまったく躊躇なく、笑顔で話しかけにいったのだ。

 必要ならともかく、試合の感想を言う為に話しかけるなど武蔵には出来そうになかった。

 置いてきぼりを食らった武蔵は、さてどうしようかと周囲を見やる。

 飛行機が駐機……というより展示されているのを発見し、武蔵は何気なく近付いた。


「これは……なんだろう?」


 航空機は一目で機種が判るものもあれば、間違い探しレベルで特定が難しい物もある。

 航空力学は外見と直結するので、どうしても見た目が似通ってくるのだ。

 武蔵の前に鎮座する飛行機は、見たところ日本軍機とは簡単に特定出来た。

 日の丸が付いているのだから、ほぼほぼ間違いない。

 他の特徴といえば、単発レシプロ機としてはかなり大型、というくらいだ。

 武蔵は早々と特定を諦め、案内板を見た。


「4式戦、疾風か」


 通りで見覚えがないわけだ、と武蔵は得心した。

 知名度や政治的都合で大戦機の保管状況は変わるが、疾風は中でも特に扱いの酷い機体だ。

 3500機製造、飛行可能0機。

 古い機体ならば珍しくもないとはいえ、日本軍最強の一角としては無残な現状だった。


本土(地上)の博物館で展示されてた機体か」


 説明文を読んでいくと、おおよその経緯は判明した。

 この機体は、維持費が問題となって厄介払いとしてここに来ていた。

 機械を稼働状態で維持するというのは、存外に金がかかる。

 それが旅客機なら働いて維持費を工面出来る。

 軍用機なら国防という大義名分によって資金を捻出出来る。

 だが記念機、保存機となれば収入も保管意義もない。

 歴史的資料や見学用展示としての意味もあるが、維持費の足しというには微々たる金額でしかない。

 以前のスポンサーが音を上げて、巡り巡ってここに辿り着いたのだ。


「とはいえ、動態保存やモスボールではなく、完全な静態保存か」


 つまりは再飛行を前提としていない、見た目だけの保存だ。

 こうなっては1分の1プラモデルと変わりない。航空機としては、なんとも物悲しい末路だ。


「湿度の高い日本本土でよく保存出来ていると褒めるべきか、もっとしっかり保管しとけと怒るべきか……」


 武蔵とて、これが使用者側のエゴであることは判っている。

 元より、日本は飛行機を長期間保存するのに適していないのだ。

 砂漠に放置しておけばいい国とは違い、非動態保存であってもジェラルミンは腐食していく。

 おかしな場所にある切断痕跡などといい、この疾風が歩んできた苦難の道が垣間見えるかのようだった。


「これなーに?」


「おかえり」


「ただいま」


 戻ってきた少女は武蔵の横に立ち、疾風を見上げる。


「し……しっぷう?」


「はやて、だ」


 ちなみに先述された雷電などの『電』が付く名前は迎撃機という法則があるが、『風』が付く名前については法則はない。

 水上機だったり艦上機だったり陸軍機だったり果ては輸送機だったりとメチャクチャなので、名称から用途を推定するのは無駄だ。

 ○風、という名前がかっこいいのがいけない。


「大きな戦闘機ね」


「なんだかんだで、戦闘機は大きな方が強いって法則もあるからな……」


 牛若丸のように小さな身体で機敏に動き回り戦うのは華々しいが、結局のところ兵器は大きい方が強い。

 F―15などを見れば判る通り、強力な戦闘機というのはデカイのだ。

 ではなぜ爆撃機のような超巨大戦闘機がないかというと、素材的な技術限界と、コストの問題だったりする。

 大きければ金がかかる。値段が高い、地上設備も大型化する、維持費は天井知らずだ。

 戦闘機は小回りの効く運用で使いぱしりのように駆け回ることを求められるので、逆説的に言えば大型戦闘機を持てるのは金持ち国家の証であったりする。

 極論すれば、爆撃機のような巨大戦闘機とて作ろうと思えば作れるのだ。


「だが、考えてみれば大型戦闘機で失敗作ってあんまり聞かないな」


 強いて言えば双発機という分野は、戦闘機としては失敗作であろう。

 夜間戦闘機という活用法があったものの、本来の意図からは完全に外れている。


「この、疾風? は失敗作なの?」


「微妙なところだ。目指すべき方向性は間違ってなかったが、技術が追い付いてなかった」


 4式戦闘機疾風の評価は低くない。

 万全な状態であれば、当時の各国最新鋭機相手にも十二分に戦える機体だ。

 大東亜決戦機、という名称とて別に間違いではないのだ。

 ただ、当時の日本ではこの新鋭機を扱いきれなかったというだけで。


「ふーん……」


 呟く少女。

 心なしかキラキラとしたその瞳に、武蔵は苦言を呈した。


「言っておくが、この機体は稼働する現存機がない。目の前のこいつだって飛べる状態じゃない。これで戦うのは無理だ」


「どうして? 見た感じ、綺麗な状態だけど」


「見た目だけだ。中身まで保存に気を遣ってないだろうし、部品だって欠落してるだろう。そもそも、桁が切断されてる」


「どういうこと?」


「肩がぶっこわれた野球選手みたいなもんだ。治しようのない、飛行機としての致命傷を抱えてる」


 少女はしゃがんで説明文を熟読し、そしてこの施設の管理事務所のような場所に向かった。


「引き取れないか交渉してくる!」


「お前話聞いてた?」


 どのような交渉がなされたか、外で待っていた武蔵は把握していない。

 だが結局は疾風は少女の手に渡り、彼女はひたすら翼を修理し続けた。

 時に最新素材で補強し、時にまったく別の機種からパーツを転用し。

 なぜか彼女の行動を気に入ったらしいハカセの手伝いもあり、やがて疾風は再び滞空許可を得ることとなる。

 彼女が疾風を入手してから、季節が巡り一年後のことであった。



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