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4-17



 地下室から出ると、自宅は血塗れ穴だらけだった。


「やれやれ。現状復帰してから撤退してほしいもんだぜ」


 武蔵達が地下でいちゃついている間にも、上からの戦闘の気配は伝わっていた。

 どうせ太刀打ち出来ないからと、いっそ達観していちゃいちゃしていたところのアリアと信濃の乱入。

 救援部隊が突入部隊の死体を引きずり片す傍らで、武蔵達は居間のソファーに腰掛けた。


「茶を出せる状況じゃないが、まあ座ってくれ」


「貴方の神経は軌道エレベーターより図太いのですね」


 周囲では、未だにアリアと共にやってきた兵士達が後片付けをしている。

 血の匂いが濃厚な室内、血飛沫までもを兵士が拭き掃除してくれるとは思えないので、武蔵としてはそちらのほうが面倒で気がかりだった。


「軌道エレベーターのカーボンナノケーブルはさして太くもないけどな」


 武蔵は内心首を傾げていた。

 突入してきた兵士の出で立ちは、人相まで隠すフルフェイスのヘルメットに黒基調の防護服。

 胸に書かれたPOLICEの文字が、その出所をさらに混乱させていた。


「警察の特殊部隊……?」


「まあ、片付けが終わるまでお話しましょうか」


 若干顔を青ざめさせつつも、アリアも着席する。

 よくよく見れば、今日の彼女は自衛隊の白制服姿であった。

 着る機会が少ないので、逆に珍しい。

 花純と信濃も座ったことで、話を始める。


「んで、犯人は誰なんだ?」


「あの、全員そっちに座られると面接されてるみたいで落ち着かないのですが」


 信濃と花純は武蔵の隣に座っていた。

 武蔵は自分のふとももをぱんぱんと叩いた。

 信濃がすすっと武蔵の足の上に乗った。


「お前じゃねえよ」


「あひん」


 軽く押して、信濃が武蔵の膝から転げ落ちる。


「はあ……もういいのです。こっちは私の領土なのです」


 明らかに事情を知った上でここに派遣されたであろうアリアに、武蔵は訊ねた。


「お前が寄越されたってことは、事情を知ってる奴……伊勢の差し金だろう?」


「自衛隊の組織上トップ相手にも、相変わらず不遜なのですね貴方は」


「その更に上を抑えているからな」


 自衛隊で訓練したアリアにとって、統合幕僚長は神様扱いである。

 それこそ、死ねと言われたら死ななきゃいけないレベル。生きろと言われたら死者蘇生しなければいけないレベルだ。

 そんな相手にすらマイペースな武蔵は、アリアからすれば無礼というよりアブナイ奴扱いだ。


「そういう生き方をしていては長生き出来ませんよ」


「俺はロックな生き方しか出来ないんだ」


 ループするだけだから大丈夫、とも言えずロックンローラーを自称する武蔵であった。


「で、結局犯人は誰だ?」


「有犠維新の血盟、って知っていますか?」


「あの保守派に傾きすぎて既存体制をぶち壊そうとしてる連中だろ?」


 一言で矛盾しているが、拗らせた集団などそんなもんである。


「自衛隊内にいた血盟員が動いたみたいなのです。武蔵はどうやら彼等のブラックリストに載っていたようで」


 有犠維新の血盟。

 危険な組織として武蔵も名前だけは把握していたが、実際に行動を起こされたのは初めてだった。


「なんで隊内にテロリストがいるんだよ」


「それはまあ、私でさえ潜り込めるくらいの審査でしたし……」


「自衛隊の、しかもそれなりの有力者だろ、そのシンパは。有力なカードを一枚使い潰してでも俺を始末しようとしたのか?」


「陸将が、そのシンパだったようです」


「思ったより上だった」


 幕僚長の1つ下、自衛隊を動かす上級幹部だ。

 当然指名される際には慎重極まりない身辺調査がされるはずだが、まさかの抜けがあった。

 これが危険団体と繋がっていたとなると、どうあっても幕僚長の責任問題になる。


「まずいな」


 今、伊勢に幕僚長の椅子から降りられたら困るのだ。

 亡霊戦艦大和討伐作戦を実行するには、どうしても自衛隊の全面的な協力が必要となる。

 否、むしろ自衛隊の作戦に民間人の武蔵達が無理矢理組み込まれている、くらいの規模なのだ。

 そんな作戦を実行出来るのも、これまで実権を担ってきた花純や伊勢が強権を振るって準備してきたからこそ。


「花純にも伊勢にも、まだまだ働いて貰わなきゃ困る」


「あの、今自衛隊がどれだけてんやわんやか判ります? こんな失態を犯したのも武蔵が私達に無茶をさせた間隙を突かれたからなのですよ?」


「バッキャロウ! 軍事組織なんざ、無茶の先の痩せ我慢をしてこそナンボだ! 泣いたり笑ったり出来るうちはダイジョーブ! ゲツゲツカースイモクキンキン!」


「ううっ……せめて私くらいには、なんで亡霊戦艦を倒さなきゃいけないのか教えてほしいのです」


 同じ100年前からの渡来人であるにも関わらず、ハブられてるアリアが泣きべそをかく。

 忘れがちだが、彼女はORIGINAL UNACT、いわゆるラスボスである。

 こんな美少女がラスボスとか改めて見ても冗談のような話だと武蔵は思った。


「今アリアを捕まえてさくっと万事解決出来ないもんかねぇ」


「な、なんで私が捕まらなきゃいけないのですっ」


「まあとりあえず俺を信じろ。お前は、俺のことが信じられないか?」


「はい」


 即答するアリアに、武蔵は心に誓った。

 次にループした時は、アリアの枕元に大人の玩具を進呈してやろうと。


「ちょっとだけあわてんぼうのサンタクロースだぜ……」


「国の乗っ取りを企むサンタクロースとか嫌なのです」


「まあサンタさんのソリは非ステルスながら極超音速機だからな、国家転覆くらいヨユーよ」


「どこ情報なのです、それ」


「米軍」


 アリアは軽くため息を吐いた。


「武蔵はアレですよね。国を裏から操る黒幕」


「それはむしろ朝雲家に相応しい称号だろう」


「うふふっ」


 笑うだけで否定をしない朝雲 花純に、一同は若干寒気を覚えた。


「それにな、真っ当な寄生虫ってのは宿主を殺さないものだ。宿主を殺す寄生虫は二流だ」


「寄生虫に一流二流があるのですか?」


 武蔵は日本を破滅前提で操っている。

 そうは口にせず、武蔵は肩を竦めて誤魔化した。


「無責任ってのは気楽なもんだぜ」


「その責を別のどこかの誰かが肩代わりしている、ということは忘れないでほしいのです」


「へいへい。でも、『今回』は何が違ったんだろ」


「今回?」


 アリアの呟きを無視して武蔵は考え、すぐに思い至る。


「み……天皇に接触してたからか」


 アリアに三笠の話は禁句と思い出し、言い直す武蔵。


「よく判りませんが、そうらしいです。彼等は皇居を常に監視していますから」


 めんどくせえ。

 それが武蔵の感想であった。


「実は、私を派遣したのは伊勢統合幕僚長ではないのです」


「別にトップから直接指示されたとは思ってないけど、そういう意味じゃなくて?」


 アリアは首肯する。


「当然なのです。ここに救援部隊を派遣したのは、皇居の住人なのです」


「ああ、なるほどな」


 先程まで武蔵達の周りで働いていた隊員達はもういない。

 だが、その正体に武蔵は思い至った。


「今のは、皇居警察か」







 黒塗りのセダン車に乗せられて、一同が向かったのは天皇の住まう皇居であった。

 運転手はアリアで、後部座席に武蔵と花純が乗り込んでいる。

 後部のトランクは潰され、木炭炉が煙を吹いている。

 宮内省もガソリンには飢えているらしかった。

 他の者はお留守番。深い意味があったわけではなく、単純に助手席は木炭置き場なので3人しか乗れないのだ。


「アリア、車の運転覚えたのって最近だよな。事故るなよ」


「空を飛ぶよりはよほど簡単なのです。地面を走ることに関しては、武蔵より上手い自信があります」


「俺だって運転出来るぞ、この時代で覚えた」


「貴方はついこの間意識不明の状態で発見されたのですから、あれから覚えたとしてもまだまだペーパードライバーではありませんか」


 武蔵が自動運転ではない自動車の運転を覚えたのは、前々回のループでのことだ。

 この時代では運転免許資格が形骸化しており、仕事で使うわけでもないのなら子供でも平気で無免許運転している。

 武蔵も工場の軽トラを借りて、さっさと習得した。


「あんな状態で発見されたのでちょっとは心配していたというのに、まさか総理大臣といかがわしいことに励んでいるとは思わなかったのです」


「毎度すまんね」


「毎度、の意味がよく判らないのですが……すまないと思うのなら、もうちょっと大人しくしてほしいのです」


「頑張れ」


「あーこれ大人しくする気ないやつだ」


 雑談しながらも運転に淀みはなく、慣れた様子で木炭セダンは環状交差点(ラウンドアバウト)を通過する。


「信号機なんて前時代的なシステムではなく、ラウンドアバウトを採用するあたり、私の祖国の威光はこの人工の大地まで降り注いでいるのです……」


「単純に電力節約や費用対策じゃねーかな」


 答えを知っていそうな総理大臣閣下に武蔵は視線を向ける。

 しかし、彼女はその視線を無視してそっぽを向いていた。


「花純? かすみーん? かーちゃーん?」


「ぷぷーん」


 武蔵の隣に座った花純は、武蔵に視線も向けずによく判らない擬音を発した。


「私は御主人様のお母様ではないのです」


 いやでもアンタそういうプレイ好きでしょ絶対、と武蔵は思考した。


「ママァ……」


「ふぐっ!?」


 花純が悶える。

 武蔵の予想通り、やはりアリらしい。

 花純的にはアリだとしても、武蔵は赤ん坊プレイなどゴメンである。


「うわあキモイ」


 アリアが運転に集中したまま、視線も向けず呟いた。


「ご、御主人様は、アリアさんと話す時は楽しそうですねっ」


「……そうか?」


「そうです!」


 花純は気だるげに窓枠に寄りかかり、武蔵に視線を向けずに頷く。


「御主人様は、ハーレムで結婚なさりたいのですよね」


「うむ」


「妻達は、平等に扱うつもりですか?」


「第一婦人、みたいに番号は振りたくはない」


 はあ、と花純はやさぐれ気味に息を吐く。


「差別しないように意識するのも、また差別ですよ」


「荒んでるな……俺とアリア、そんなに仲良く見えたか?」


 むしろ唯一秘密を明かしていないので、武蔵からすれば精神的に距離があるように思えた。


「アリアさんのように花のある女の子は強いですよね。所詮私なんて地味な日本人顔です」


 めんどくせえこのババアどうしてくれようと悩む武蔵であった。

 確かに花純は華やかな美人ではない。むしろ、やはり控えめな美しさを持つ女性だ。

 それも良し、それこそ良し、とする男性も一定数いる。

 だが花純は、自信が地味顔であることに多少コンプレックスを持っていた。


「あのー、ちらちらと私の名前が聞こえてくるのですが」


 運転席のアリアが、怪訝そうに訊ねる。


「気にするな。ちょっとSMプレイについて話てただけだ」


「その話題で私の名前が上がったことに、私は戦慄を禁じ得ないのですが……」


「そんなことより、今回の顛末について教えてくれ。道中説明するって話のはずだ」


「はぁ……結論からいえば、クーデターなのです。昨今の自衛隊は外部の得体の知れない存在に傀儡にされている、と危惧した勢力が動いた……というお題目です」


「マジか、それは一大事だ。一体誰だよ自衛隊を我が者顔で動かしている奴は」


「遺憾ですね。民主主義、いいえ国体に対する挑戦です」


「ツッコむなぁー……耐えろ私ぃー……」


 平然と頷く武蔵に、同意する花純。

 アリアはツッコミを入れたい衝動を必死に堪えた。


「お題目っていう以上は、別の目的があるんだろ?」


「はあ、まあ、そもそも有犠維新の血盟の最終目的は既存体制の再構築ですから」


 なにせ『維新』である。

 これほど目指す方向性の分かりやすい組織もない。


「むしろ、奴らのこれまでのやり口から考えたら随分と穏当じゃないか。あいつ等って尊い犠牲って名目で普通にカタギも殺すだろ」


 22世紀は、21世紀よりはるかに犯罪組織が多い。

 21世紀と変わりなく非合法ながら麻薬や人身売買は存在するし、銃刀法はそのままなのに民間人が拳銃を持っていることも珍しくない。というか、武蔵も一応持ってる。

 そんな時代において危険と呼ばれる組織だけあって、その活動は政治団体というよりマフィアに近い。

 武蔵の認識通りならば、このような状況ならば彼等はさくっと武蔵宅ごと爆殺したって不思議ではないのだ。


「それは、まあ総理大臣の首をすげ替えるのは流石にあからさま過ぎると躊躇ったのでは?」


「躊躇うならもうちょっと別のタイミングがあったさ。明確な目的を以て急襲してきたんだ、敵はタガが外れていると見ていい」


 欠いたら政治体制が大きく揺らぐことから花純の命は流石に狙われないだろうと踏んでいた武蔵だが、こう考えるとその限りではないようにも思えてきた。

 血盟団は武蔵も花純も諸共に亡き者にしようとした。

 そこにどのような意味があるのか。

 というより、この2人が死んで利益を得るのは誰か。


「……わからん」


 実のところ、武蔵は黒幕の正体については検討が付いていた。

 だが黒幕が如何なる思想の果てにこのような行動に出たかは、どうにも理解し得なかった。


「そうだ。武蔵、足元にバッグがありますよね。貴方に届けるように言われています」


 後部座席の足元に収まっていた、俵型の小さなバッグ。


「一旦止めてくれ」


「え、あ、はい」


 路肩に寄り、ハザードを灯すセダン。

 武蔵は一度車を降りて、バッグの中身を確認し、すぐに戻ってきた。


「ただいま」


「中身は何でしたか?」


「少なくとも爆発物や盗聴器ではなかったよ」


 そう告げて、武蔵は花純にバッグの中身が見えるように口を広げる。


「これは……私にでしょうか?」


「いや、アリア向けだと思うぞ。こんな状況だ、アレにとっては千載一遇のチャンスなんだろう」


「ああ、なるほど。業の深いことです」


「私がどうかしたのですか?」


 不思議そうに後部座席に振り返るアリア。

 武蔵は「気にするな」と告げ、花純を伴って車から降りてスタングレネードを車内に放り込んだ。

 ドアを閉めてセダンに背を向け耳を塞ぐ武蔵と花純。

 次の瞬間、車内は光と音に包まれた。


「俺が運転するから、着替えさせてやってくれ」


 ぐったりとしたアリアを後部座席に運び、武蔵は運転席に座る。

 武蔵はミラー越しに服を脱がされるアリアを観察しつつ、皇居へ向けて車を走らせるのであった。



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