4-14
この作品中、もっとも主人公がいきいきしている話です。
「あっそびっましょー!」
皇居に来た武蔵は、門の前で叫んだ。
「みっかさちゃーん! あっそびっましょー!!」
「なんだ貴様は! 不審者め!」
武蔵はブレイクダンスで皇居護衛官を蹴散らし、マックスという片手逆立ちでピタリと止まるポーズを決める。
そのままの姿勢で、武蔵は思い切り叫んだ。
「みっかさちゃーん! あっそびっましょー!! ついでに昼飯くわせてー!!!」
「帰れ」
死んだ目の三笠が皇居の門から出てきた。
いける。武蔵は確信を持った。
「Elizabeth Valiantちゃーん!! あっそびっま、しゅおー!! イーイーヨー!!!」
「よくねえよ。あと本名やめろ」
「隙アリ!」
武蔵はカサカサとゴキブリのように走り、皇居の門をくぐった。
そして内側から門を閉める。
「おい! 貴様、門を開けろ! 死ね劣等民族!」
「開けてほしければ昼飯を所望する! あとおっぱい揉ませろ!」
「黙れ人類ごと滅亡させるぞ畜生猿めええぇ!」
三笠との交渉を成功させた武蔵は、見事皇族の食事にありつけた。
「というわけで、今日の昼飯は俺のリクエストで『縦だか横だかわからんビフテキ』です」
「何故貴様と昼餉を共にせねばならんのだ」
「勘違いするな、お前のおっぱいは昼飯のついでだ」
「高貴なる我が身と饗を共にする栄誉を解さないとは、やはり蛮族だな」
「大きければ偉いとは言わないが、その小ささで高貴とか言われてもな」
「ええい、乳房の話はもうやめろ! 今日の貴様はテンションがおかしいぞ!?」
武蔵のリクエストは、古い漫画に登場するネタ料理だった。
縦だか横だかわからんビフテキ。あまりの分厚さにその形容詞を与えられた肉塊は、まさにただのブロック肉。
パーティー料理ならいざしらず、これを1人で食そうという気概はまさに食べ物への冒涜。
「……なんていうのを期待したんだけどなぁ」
「なんだ、何か文句があるのか」
運ばれてきた昼食は、正方形にカットされたサイコロステーキであった。
「なるほど、確かに縦か横かが不明瞭なステーキだ」
「くくくっ、とんちじゃないか。料理人もくだらんことを思い付くものだ」
武蔵はサイコロステーキを1つ箸でつまみ上げ、ジロジロと観察する。
「なんでビフテキって単語があるんだろうな。チキンやポークじゃないなら、必然的にステーキってビーフだろ」
「知るか」
「そういえばサイコロステーキって食べるのはじめてだ」
一口食べれば、ほろりと牛肉がほどける。
武蔵は目を見開いた。
「美味い! しっかりと筋切りされた霜降りステーキ、更に一口サイズとあって口の中で一瞬で消滅してしまう! 大胆にカットされた肉だが肉汁はしっかりと閉じ込められていて、まろやかなソースがただの焼き肉とステーキに一線を画している! 」
「お前はグルメリポーターか」
武蔵は初めてのサイコロステーキに、一定の評価を禁じ得なかった。
一口サイズというのは、いつの時代も需要がある。
肉にそれを求めるのはナンセンスだと思っていた彼だが、それは誤りだ。
これは美味い。タッパに入れて持ち帰りたいほどだった。
「わざわざカットする分の手間がかかってそうだし、サイコロステーキってワンランク上の肉料理なんだな」
「いや、むしろサイコロステーキは安物肉だぞ」
「そうなのか?」
「さっきから思っていたが、貴様、サイコロステーキとカットステーキを混同してないか?」
疑問符を浮かべる武蔵に、三笠は説明する。
「サイコロステーキとは本来、余った端肉を集めた成型肉だ。つなぎのないハンバーグ、カップラーメンの謎肉だな」
「マジか。いや、つなぎなしでどうやって肉を1つに固めてるんだ?」
「食用接着剤を使ってる」
武蔵は急に食欲が失せた気がした。
「接着剤って」
「気にするな。法律で許可されたほぼ無害なものだし、そもそもこれはサイコロステーキ風のカットステーキだ。この時代、食品添加物など気にするだけ無駄なのだ」
「意外とジャンクな食生活なんだな」
「我にとって食事など嗜好品でしかないからな」
そうだった、と武蔵は目の前のアンドロイドを呆れた目で見るのであった。
帰宅後、風呂から上がった信濃は髪を拭きながら兄に訊ねる。
「お兄ちゃーん、今日は戦艦ちゃんの家に遊びに行ってたんでしょ? 何か美味しいもの食べれた?」
「信濃、まずお前が三笠のことをそんな変な呼び方をしてたのを初めて知ったぞ」
「ねえねえ、何食べたの? デートした?」
ソファーに座る武蔵を後ろから抱きしめ、左右にゆする信濃。
武蔵はこれほど可愛らしいゆすりがあるとは知らなかった。
「今日の俺達は肉食系だった」
「ほほう、と言いますと?」
ノリよく訊ねてくる信濃に、武蔵は毅然と報告する。
「知ってるか信濃、サイコロステーキとカットステーキは別物なんだぞ」
「それがどうかしたの?」
首を傾げる信濃。
あ、これは恥を上塗りしたな。
武蔵は髪を軽やかに払い、颯爽と風呂へ向かうのであった。




